第20話 二人の変化
委員会の間だけ、という新しいルールが浸透してから、教室での俺たちの空気は、目に見えて変わっていった。
「相馬くん、これ運ぶの手伝って」
「おう、了解」
澪の自然な呼びかけに、俺も気負わず応じる。以前のような他人行儀な距離感はなくなり、けれど恋人同士のような特別さも表には出さない、ちょうどいいクラスメイトとしての距離感が、二人の間に定着しつつあった。
「なんか最近、二人とも普通に馴染んでるよな」
三上がそう言って、内装の資材を運びながら笑う。健人も頷いた。
「最初の頃のぎこちなさが嘘みたいだわ」
「委員会やってるうちに、自然と打ち解けたんだろ」
澪が澄まし顔でそう答える。健人はあっさりと納得したようで、それ以上深く追及することはなかった。カラオケでのヒヤリとした一件以来、健人が何かに気づきかけている様子は時折見せるものの、決定的な確信には至っていないようだった。
*
文化祭まで残り三週間を切り、準備は最終段階に入っていた。内装はほぼ完成し、メニューも試食会を経て正式に決定。ポスターも校内各所に掲示され、文化祭本番への期待が校内全体で高まっていた。
放課後、完成した教室の内装を眺めながら、澪がぽつりと呟いた。
「――なんか、感慨深いね。最初はどうなることかと思ったけど」
「噂が広まった時は、正直終わったと思った」
「うん。でも、色々あったから今があるんだと思う」
澪はそう言って、内装を彩る手作りの飾りに目を細めた。予算オーバーの危機を、端材を使ったデザインで乗り越えたこの飾りは、今ではクラスの自慢の一つになっていた。
「保科さんとの関係も、三上くんや健人くんとの関係も、色々変わったよな」
「うん。特に保科さんは、意外と味方でいてくれるって分かったのが大きかった」
澪の声には、確かな手応えが滲んでいた。距離を置くと決めたあの日から、随分と遠くまで来た気がする。
*
放課後、久しぶりにあの公園で、二人だけの時間を過ごした。夕暮れのブランコに揺られながら、澪がふと真剣な表情になる。
「――ねえ、ユウ。文化祭が終わったら、保科さんにちゃんと話す。今の私たちの関係のこと」
「無理はしなくていい」
「無理じゃないよ。今回の一次審査通過とか、色んなことがあって、私、前よりちゃんと自分の言葉で話せる気がするんだ」
澪の瞳には、迷いのない光が宿っていた。三年前、引っ越しの日に見せた気丈な笑顔と、今の澪の表情が重なる。
「文化祭本番まで、あと少し。それが終わったら――」
澪はそこで言葉を切って、少し照れくさそうに続けた。
「ちゃんと、これからのこと、二人で話そうね」
「――ああ。約束する」
夕日に照らされた公園で交わした小さな約束が、これからの俺たちの関係を、確かな方向へと導いていく予感があった。
*
その夜のメッセージには、いつになく穏やかな言葉が綴られていた。
『今日は色々話せて良かった』
『こっちこそ。文化祭本番、楽しみになってきたな』
『うん。あと少し、一緒に頑張ろうね』
文化祭準備を通して、俺たちの関係だけでなく、クラス全体の絆も、確かに深まっていた。残り三週間、本番に向けての最終準備が、いよいよ本格化していく。
距離を置くという約束の先に、俺たちがどんな形の関係を築いていくのか――その答えは、もう間もなく見えてくるはずだった。
第20話まで読んでくださって、ありがとうございます!
文化祭準備編もいよいよ終盤戦。二人の関係も、周囲との関係も、着実に変化してきました。次話からは、文化祭本番に向けたリハーサル編に入っていく予定です。ここまで長く続いた準備期間も、あと少しで一区切りを迎えます。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




