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第18話 健人の誘い

「よし、予算問題も片付いたし、今日は息抜きにカラオケ行こうぜ!」


 放課後、健人が唐突にそう言い出した。実行委員の面々――澪、三上、健人、そして俺の四人が、なんとなくその流れに乗ることになった。


「息抜きって言っても、選曲係は健人な。あいつ、絶対アニソンしか歌わないから」

「うるせえ、三上だって毎回サッカー部の応援歌歌うだろうが」


 軽口を叩き合いながら、駅前のカラオケボックスへと向かう。委員会の延長のような、けれど確かに楽しい放課後だった。


  *


 カラオケルームでは、健人の宣言通りアニソンが連発され、三上も負けじとテンションの高い曲を入れていく。澪も何曲か、女子に人気のポップスを歌い、教室で見せる愛想笑いとは違う、素の楽しげな表情を見せていた。


「――次、雨宮さん歌ってよ!」


 健人にマイクを渡され、澪は少し困ったように笑った。


「えー、そんな上手くないよ」

「いいからいいから」


 場の空気に押される形で、澪はバラード調の曲を選んだ。イントロが流れ、澪が歌い始めた瞬間――俺は思わず息を呑んだ。


 澄んだ、透き通るような声。それは紛れもなく、Rinの歌声と同じ響きを持っていた。もちろん本人は精一杯抑えているのだろうが、それでも隠しきれない何かが、確かにそこにあった。


「――え、雨宮さん、めちゃくちゃ歌上手くない?」


 三上が驚いたように声を上げる。健人も目を丸くしていた。


「なんか、聞き覚えある気がする……どこかで聴いたことあるような」


 健人の呟きに、俺の心臓が跳ねる。澪の顔にも、一瞬だけ緊張が走ったのが分かった。だが澪はすぐに、いつもの愛想のいい笑顔を貼り付ける。


「音楽の授業とか、合唱コンクールとかで鍛えられただけだよ。前の学校でも合唱部だったし」

「あー、なるほど。だからか」


 健人はあっさり納得し、それ以上深く考える様子はなかった。俺はほっと胸を撫で下ろしながらも、こういう瞬間がこれからも起こりうるのだという事実に、内心で冷や汗をかいていた。


  *


 カラオケを出て駅前で解散したあと、澪と少しだけ二人で並んで歩く時間があった。


「――さっき、ヒヤッとした」

「俺もだ。健人の勘、本当に馬鹿にできない」


 澪は小さくため息をつくと、少し表情を曇らせた。


「こういうことが積み重なって、いつかバレちゃうのかな」

「……かもな。でも、その時はその時で、ちゃんと向き合えばいい」


 澪はしばらく黙り込んだあと、小さく頷いた。


「うん。文化祭が終わったら、ちゃんと考える。今日みたいなヒヤヒヤ、なるべく減らせるように」


 夕暮れの駅前を歩きながら、俺たちはそれぞれの想いを胸に、いつもの帰り道へと向かった。


  *


 その夜のメッセージには、いつもより短い一文が添えられていた。


『今日は楽しかったけど、ちょっと反省』

『次からは選曲、気をつけような』

『うん。でも、みんなで歌うの、やっぱり楽しかった』


 小さなヒヤリとする出来事はあったものの、実行委員としての絆は、確かに深まっていた。文化祭本番に向けて、俺たちの日常は、少しずつ賑やかさを増していた。

 第18話まで読んでくださって、ありがとうございます!


 カラオケでのヒヤリとする一幕、いかがでしたでしょうか。健人の鋭い勘が、また一歩、真実に近づいた瞬間になりました。この伏線が今後どう回収されていくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


 いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。

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