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第14話 試食会

 カフェ企画のメニューを決めるため、家庭科室で試食会が開かれることになった。実行委員だけでなく、クラス全員が交代で参加する催しで、教室はいつもより浮ついた空気に包まれていた。


「これ、意外といけるじゃん」

「こっちの方が甘さ控えめで人気出そう」


 健人と三上が試作のパンケーキを頬張りながら盛り上がっている。俺も列に並び、紙皿に載ったいくつかの試作品を受け取った。


 澪は少し離れた場所で、他の女子たちと一緒に紅茶の試飲を担当していた。教室用の愛想のいい笑顔で忙しそうに動き回る姿を、俺はさりげなく視界の端で追いかけていた。


「相馬くん、これも味見してみて」


 不意に近くまで来た澪が、小さな紙コップを差し出してくる。周りに人がいる中での、あくまで「委員会活動」としての一言だった。


「……ああ、ありがとう」


 受け取った紅茶を口に含むと、いつもよりわずかに甘い味付けがされていた。


「甘さ、ちょっと強くないか」

「あ、分かった? 実はこっそり味変えてみたの」


 澪はいたずらっぽく笑うと、何事もなかったかのように次の試飲コーナーへと戻っていった。他人のふりの奥に、確かに俺だけに向けられた小さな悪戯心が滲んでいるのが分かって、思わず口元が緩む。


「――なあ、相馬」


 紙コップを片手に、健人が横から顔を出した。


「さっきの紅茶、雨宮さんがわざわざお前のところまで持ってきてたよな」

「委員会の仕事だろ、味見してもらうの」

「いや、他のやつには自分から声かけてなかったじゃん」


 健人の観察力の鋭さに、俺は内心で冷や汗をかく。誤魔化そうと必死に言葉を探していると、三上が横から会話に入ってきた。


「まあまあ、いいだろ別に。雨宮さんも忙しいなか気を遣ってくれてるんだから」


 三上のフォローに助けられる形で、その場はなんとか収まった。健人はまだ何か言いたげな顔をしていたが、それ以上は追及してこなかった。


  *


 試食会の後片付けをしていると、教室の隅で澪と二人きりになる瞬間があった。周りに人がいないのを確認して、澪が小声で話しかけてくる。


「さっきの紅茶、健人くんにバレそうになったね」

「ヒヤヒヤした。もう少し目立たないようにしてくれ」

「えー、でもユウの反応、見たかったんだもん」


 悪びれない様子で笑う澪を見て、俺はふっと肩の力を抜いた。


「試食会、楽しかったか」

「うん。クラス全員でわいわいするの、久しぶりだったから」


 澪の声には、素直な充実感が滲んでいた。三年前、離れ離れになる前の彼女が、こんな風にクラスメイトと笑い合う姿を、俺はよく覚えている。


「文化祭、澪にとってもいい経験になってるみたいだな」

「うん。Rinとしての活動も大事だけど、こういう普通の時間も、やっぱり大切にしたい」


 その一言に、第12話で聞いた澪の決意を思い出す。少しずつ、確かに何かが変わり始めているのを感じた。


  *


 その夜、スマホには珍しく写真付きのメッセージが届いた。試食会で作ったパンケーキの写真だった。


『今日の試食会、大成功だったね』

『甘さ強めの紅茶、悪くなかったぞ』

『でしょ? 本番でもこっそりユウの分だけ甘くしてあげる』


 軽口を交わしながら、俺は画面越しに笑ってしまう。距離を置いているはずの毎日の中に、こうした小さな楽しみが、確かに増えてきていた。

 第14話まで読んでくださって、ありがとうございます!


 試食会でのちょっとした甘えん坊な澪、いかがでしたでしょうか。健人の鋭い観察眼にヒヤリとしつつも、クラス全体の賑やかな雰囲気の中で、二人の距離が少しずつ縮まっていく様子を書きました。


 いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。

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