第13話 ポスター係の相談
文化祭まで一か月を切り、実行委員の仕事は内装や備品だけでなく、宣伝用ポスター制作にまで広がっていた。
放課後、視聴覚室に集まった実行委員たちの前で、三上がラフスケッチを数枚広げる。
「一応、俺なりに描いてみたんだけど、正直センスに自信なくて。雨宮さん、なんかアドバイスもらえないかな」
三上がそう言って澪に声をかけた瞬間、隣にいた健人が横目でこちらをちらりと見た。俺は何気ないふりをしながら、内心で妙な胸のざわめきを感じていた。
「いいですよ。見せてください」
澪はいつもの、教室用の愛想のいい笑顔でスケッチを覗き込む。二人の距離が思ったより近くて、俺は自分でも呆れるくらい、その光景から目が離せなくなっていた。
「うーん、色合いはいいと思うけど、文字のバランスがちょっと窮屈かも。あと、カフェのロゴをもう少し大きくした方が目を引くと思います」
「なるほど、さすが。実は美術部の友達に頼もうかとも思ってたんだけど、雨宮さんの意見も聞いてみたくて」
三上の言葉に、俺はようやく合点がいった。別に澪に特別な感情があるわけではなく、純粋にアドバイスが欲しかっただけらしい。分かっていたはずなのに、勝手に気を揉んでいた自分が急に恥ずかしくなる。
「相馬もなんか意見あるか?」
不意に話を振られて、俺は慌ててスケッチに目を落とした。
「……客観的に見て、もうちょい賑やかな色を使ってもいいんじゃないか。文化祭のポスターなんだから」
「お、いいね。それも取り入れてみる」
三上は素直に頷き、スケッチに手を加え始めた。健人が横からにやにやしながら耳打ちしてくる。
「さっき、めちゃくちゃ怖い顔で二人のこと見てたぞ、お前」
「見てない」
「見てた見てた。分かりやすいんだよ、相馬は」
言い返す言葉が見つからず、俺はただ黙ってポスターの色見本を睨みつけるふりをした。
*
会議が終わり、片付けをしていると、澪がさりげなく隣に来て小声で話しかけてきた。
「さっき、ちょっと機嫌悪かった?」
「……別に」
「嘘。分かりやすいって、健人くんも言ってたじゃん」
からかうような口調に、俺は思わずため息をつく。
「三上と近くで話してるの見て、ちょっとモヤっとしただけだ。悪いか」
「ふふ、悪くない。でも安心して。三上くんはただの頼れる委員長タイプ。私が意識してるのは――」
澪はそこで言葉を切って、いたずらっぽく笑った。
「秘密」
「それ、教える気ないだろ」
「うん、ない」
軽口を叩き合いながら片付けを終える。他人のふりを続けているはずなのに、こうした何気ないやり取りの中に、確かな安心感があった。
*
その夜、スマホに届いたメッセージには、いつもより砕けた調子が滲んでいた。
『今日のポスターの件、ありがとう。ユウの色見本のアイデア、良かったよ』
『三上が採用してくれたなら良かった』
『次は、二人でこっそり出せる意見も欲しいな』
冗談めかした文面に、俺は思わず口元が緩む。距離を置いているはずのこの日々の中にも、こうした小さなやり取りが、確かな支えになっていた。
文化祭まで、残り三週間あまり。準備は着実に進んでいるが、俺たちの関係は、まだ本当の意味では動き出していない。それでも、こうした些細な出来事の積み重ねが、少しずつ何かを変えていくのだと、俺は感じ始めていた。
第13話まで読んでくださって、ありがとうございます!
三上くんへのちょっとした誤解と、それに対する澪のからかい、いかがでしたでしょうか。文化祭準備はポスター制作にも広がり、実行委員の仕事はますます賑やかになっています。
ブックマーク・評価、いつも励みになっています。次話もお楽しみに。




