第九章 共同戦線
田所が目を開けると、そこは病院のベッドの上だった。
白い天井。規則正しく並ぶ蛍光灯。
「知らない天井だ……」
乾いた声が漏れる。
「田所さん!良かった……気が付いたんですね」
すぐ横から、安堵と涙が混じった声。
夏野だった。
「夏野さん、怪我は有りませんか」
「私は大丈夫です。田所さんが約束を守ってくれたお陰です」
「私は約束は守る男なんですよ」
わずかに口元を緩める。
だがその顔色はまだ悪い。
「でも、私の職場の方へ行くって言ってた田所さんがどうして新宿にいたんですか?」
「ちょっと訳があって新宿にずっといたんですよ」
「訳って?」
「まあ、そのうち分かりますよ」
それ以上は語らない。
だがその目は、すでに事件の続きを追っていた。
その頃――。
病院の入り口。
二人の刑事が立っていた。
警視庁新宿東警察署
刑事部強行犯捜査第1係長 長沢憲明警部。
そして同じく一係の山岸重徳警部補。
「長さん!本当に行かないんですか!?」
山岸の声には露骨な不満が混じっている。
「ああ。お前は被害者の見舞いに来た。捜査じゃないんだから一人でも服務規定違反にはならんよ。ついでに事件の詳細も聞いて来てくれ。俺は車で寝てるよ」
「そんな無茶な……」
長沢はすでに踵を返している。
「いいから早く行って来い。事件が解決したら全部お前の手柄にしてやるから」
ひらひらと手を振り、そのまま駐車場へ。
完全に押し付けである。
「まったく……仕方ない……一人で行くか……」
山岸は小さく舌打ちし、病院へと足を踏み入れた。
コンコン。
病室のドアをノックし、山岸が入る。
「警視庁新宿東警察署 刑事部強行犯捜査第1係の山岸です」
名乗りと同時に、室内の空気がわずかに引き締まる。
「私立探偵の田所です」
ベッドの上から、静かな返答。
「ほう……探偵ですか。で、こちらは?」
「私は依頼者の夏野です。私のせいでこんなことに……」
言い終える前に、夏野の目から涙が溢れる。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい」
山岸は慣れた手つきでなだめる。
「田所さん、お話を伺いたいんですが大丈夫ですか?」
「ええ。良いですよ」
田所は淡々と語り始めた。
ストーカー被害の相談。
調査の経緯。
そして――刺された瞬間まで。
無駄のない説明だった。
「なるほど、そういう訳でしたか」
山岸は腕を組み、小さく頷く。
「最初に夏野さんが警察に行った時点で動いてくれていれば少なくとも俺は刺されずにすんだのになぁ」
ぽつりと落とされた一言。
空気が凍る。
「くっ……!」
山岸の顔が歪む。
反論できない。
その隙を逃さず、田所が続ける。
「ある意味警察のせいでこうなったんだから、警察には依頼遂行の手伝いをしてもらわないと」
「何っ!?」
思わず声が上がる。
だが――。
「警察だって殺人未遂事件を解決できるんだから目的は一緒でしょ?」
理屈は通っている。
そして何より、目の前の男は“実際に刺されている”。
「それは……確かに……」
言葉が詰まる。
短い沈黙。
やがて山岸は、ゆっくりと息を吐いた。
「分かった。とりあえず話を聞きましょう」
その瞬間。
立場の違う二人の間に、一本の線が引かれる。
対立ではなく――協力の線が




