第十一章 捕獲
二日後――。
再び山岸が病室に姿を現した。
「調べてきましたよ」
「どうでした?」
田所はベッドに横たわったまま、視線だけを向ける。
「北沢このみが連絡を取ったり会ったりしていて犯人像に合うのはこの五人」
山岸は手にしていたメモを広げる。
高久保 猛 23歳 ライブハウススタッフ 右利き
藤倉 宏希 26歳 宅配ドライバー 右利き
田辺 遼馬 24歳 プログラマー 左利き
水上 龍樹 23歳 イラストレーター 右利き
沖野 慎吾 22歳 警備員 右利き
その一覧を一瞥しただけで――。
「犯人が分かった」
あまりにもあっさりとした声だった。
「何っ!?これだけで?誰ですか!?」
山岸が身を乗り出す。
だが田所はわずかに口元を上げる。
「せっかくだし、罠を仕掛けましょう」
「罠?」
「ええ」
淡々と、しかし確信に満ちた口調。
「山岸さん。先ず、他の患者さんに迷惑が掛からない様にしたいんで、病院に掛け合って、個室に移動させてください」
「ええ。分かりました」
「夏野さんは、個室の場所が決まったら、北沢さんに病院と個室の場所を詳しく教えて、俺が瀕死で泊まり込んで付きっきりで看病してると知らせて下さい」
「分かりました」
夏野の声はまだ硬いが、迷いはない。
「で、次に山岸さん。面会時間が終わる前くらいから病院内のいたるところに警察の方を潜り込ませておいてください」
「医師や患者のふりをして、ということですか?」
「そうです。それから北沢このみの周辺に張り込みをお願いします。そして、コイツ……」
田所がリストの一人を指で叩く。
一瞬だけ、視線が鋭くなる。
「コイツから絶対に目を離さない様にしてください」
「他の容疑者は?」
「まぁ張り込みしなきゃ気が済まないってんなら張り込みしても良いですけど無駄ですよ。犯人は絶対にコイツですから」
言い切った。
そこに迷いは一切ない。
山岸は早速準備に取り掛かる。
病院に掛け合って田所を個室に移動させる。
田所は自信満々に犯人を特定したが、山岸としては立場もあるしリスクを犯せない。
全対象者にそれぞれ捜査官二名を張り付かせる。
勿論、北沢このみにも引き続き張り込ませている。
田所の個室への移動が完了すると夏野がそれとなく北沢このみに連絡を取る。
「もしもし、このみ?」
「和泉!どうしたの!?心配したよ」
「ごめん。色々あって……」
「今、どうしてるの?何処にいるの?」
「探偵の田所さんがストーカーに刺されて瀕死の状態なの。それで病院に居てずっと付きっきりなの」
「そうなの!?大変じゃない!ずっと付きっきりって夜中もいるの」
「そう」
「一人じゃ大変でしょ?私も行くから病院と病室教えて」
夏野は自分に場所を聞いてきた北沢が、もしかしたら田所の言う通り情報を流しているのかもしれないという思いと、友達だから普通の事だという思いで半信半疑ながらも、田所の指示通り、病院と病室の場所を詳しく教える。
しばらくすると山岸に部下から連絡が入る。
「山岸警部補!マル対に北沢から電話が入ったようです!」
「会話の内容は?」
「すみません。そこまでは……」
「山岸警部補。マル対が北沢このみと接触しました喫茶店で三十分ほど話していましたが内容までは聞き取れませんでした」
「山岸さん。マル対に北沢からメールが届いたようです」
結局、捜査対象者の五人全員が何らかの形で北沢このみと接触があった。
夕方。
山岸に連絡が入る。
「山岸警部補。マル対に動きがありました」
「どうした?」
「例の病院に入りました」
「分かった」
山岸は無線で指示を出す。
「マル対の一人が病院に侵入した。全員警戒しろ。ただし、病室に入るまでは手を出すな。病室に入って中の人物を襲うようなそぶりを見せればそれが動かぬ証拠になる。それまでは警戒して待て」
「了解しました」
(田所さん……あんたの当たりだよ……)




