忘れていた4文字
亮介がどうしようと、
別れたい気持ちに変わりはなかった。
他の女を切り始めても、
急に優しくなっても、
「昔の俺じゃない」と言われても——
胸はもう動かない。
でも、
少しの情はあった。
長く一緒にいた時間が、
完全に消えるわけじゃない。
ひどい女にはなれない。
そんな自分の性格も分かっていた。
(どうやって……言えばいいんだろう)
別れ話を切り出すタイミングを探していた。
でも亮介の変化が、
そのタイミングを曇らせる。
そんなとき——
カバンの中で何かが指に触れた。
小さなタイムカプセルの手紙。
(……忘れてた)
取り出して、
そっと開く。
そこには、
たった4文字書かれていた。
好きです。
その瞬間、
胸の奥がじん、と震えた。
(そうだ……)
誰のメッセージか分からないまま、
この言葉に心を揺らされた日のことを思い出す。
まっすぐで、
飾り気がなくて、
ただその気持ちだけが置かれていた。
その“まっすぐさ”に、
自分の心が反応したんだった。
(……誰なんだろう)
思い出そうとすると、
胸の奥が静かに熱くなる。
亮介の言葉では動かなかった胸が、
この4文字だけで揺れる。
(こんな気持ち……やっぱり久しぶりだ)
誰かの気持ちが、
自分に向けられていたかもしれないという事実。
その温度が、
今の自分をそっと支えてくれる。
そして気づく。
(私……もう亮介とは終わってるんだ)
情はある。
でもそれは恋じゃない。
胸を震わせるのは、
亮介の言葉じゃなくて——
この4文字だった。
好きです。
そのまっすぐな気持ちを思い出した瞬間、
自分の心がどこに向いているのか、
静かに分かってしまった。




