幸せな時間の過ごし方
料理が運ばれてきて、
テーブルの上にふわりと温かい香りが広がった。
さっきまで泣いていたことなんて、
まるでなかったみたいに——
叶多くんは、いつもの落ち着いた声で言った。
「これ、思ったより美味しいな」
フォークを軽く持ち上げながら、
ほんの少しだけ笑う。
その“普通さ”がありがたくて、
胸の奥がじんわり温かくなる。
(さっきの話を出さないでいてくれるんだ……)
気まずくさせないように、
重くさせないように、
そっと空気を変えてくれている。
「美桜のも、ちょっともらっていい?」
「うん……どうぞ」
差し出した皿に、
叶多くんが自然に手を伸ばす。
その仕草が、
どうしてこんなに優しく見えるんだろう。
「これ、美桜好きそうだと思ったんだよね」
「……うん。すごく美味しい」
本当に美味しかった。
食べるたびに、
心の奥の強張りが少しずつほどけていく。
グラスの中の食前酒も、
ほんのり甘くて、
胸の奥まで温かくなる。
(幸せって……
こういう時間のことを言うのかもしれない)
泣いたあとに、
こんなふうに笑えるなんて思わなかった。
叶多くんは、
料理の感想を言ったり、
店の雰囲気を話したり、
さっきの重たい話題には一度も触れなかった。
その優しさが、
静かに沁みてくる。
食事が終わる頃、
ふと叶多くんがグラスを置いた。
「……また会えるかな」
その声は、
いつもの落ち着いたトーンなのに、
どこか少しだけ不安そうで。
胸がきゅっと締めつけられた。
(……会いたい)
そう思った瞬間、顔が熱くなる。
「……うん。会いたい」
言葉にした途端、
叶多くんの表情が緩んで微笑んだ。
その可愛く見える笑顔に
キュンと胸が高鳴った。




