触れそうな距離で
メニューを開いたまま、
何を頼めばいいのか分からず視線が泳いでいた。
泣いた後で、
アルコールを飲んでいいのかどうかも
迷ってしまう。
そんな私の迷いに気づいたのか、
叶多くんが少し身を乗り出してきた。
「これ、食前酒にいいよ」
メニューの端を指さしながら、
自然に距離が近づく。
肩が触れそうで、
思わず息が止まった。
(ち、近い……)
叶多くんは気づいていないみたいで、
落ち着いた声で続ける。
「でも……今日は無理しなくていいよ。
アルコールやめとく?」
その言い方が優しくて、
胸がじんわり温かくなる。
ページをめくろうとした瞬間、
指先がふっと触れた。
ほんの一瞬なのに、
心臓が跳ねる。
「ごめん」
「だ、大丈夫……」
声が震えていないか心配になる。
叶多くんは、
私の表情を確認するように
一瞬だけ目を合わせて、
すぐにメニューへ視線を戻した。
「じゃあ……
これと、これ。シェアしようか?」
軽く言ったその一言が、
胸の奥にすっと落ちていく。
(……なんでこんなに自然なんだろう)
距離が近い。
気遣いがさりげなくて、
優しさが静かに沁みてくる。
「美桜は、どれが気になる?」
また少し近づいてくる。
顔を上げたら、
すぐそこに叶多くんの横顔。
目が合いそうで、
慌てて視線を落とした。
「……これ、かな」
「いいね。じゃあそれも頼もう」
店員さんを呼ぶ叶多くんの横顔を見ながら、
胸の奥がじんわり熱くなる。
(……落ち着かない)
泣いたあとの心の隙間に、
叶多くんの優しさが静かに入り込んでくる。
気づかないふりをしているのは、
きっと私の方だ。




