文化祭の裏側
夕方、火が上がった瞬間、
校庭の空気が一気に熱を帯びた。
大きな輪ができて、
笑い声と音楽が混ざり合う。
その中心に、
彼はいた。
誰かが肩を叩き、
誰かが写真を撮り、
誰かが泣きながら抱きついていた。
陽の真ん中。
光の渦の中心。
それが、
彼の“いつもの場所”だった。
でも今日は、
時々ポケットに触れていた。
薄いクリーム色のハンカチ。
端に縫い込まれたイニシャル。
返したい。
でも、
今日も一度も話せなかった。
火の粉が舞い、
誰かが告白して、
誰かが泣いて、
誰かが笑っていた。
青春の夜が、
目の前で燃えていた。
それでも彼は、
ふと輪の外側へ視線を向ける。
——いない。
その頃、私は、
校舎裏のベンチに座っていた。
火の匂いと人の声が遠くで揺れて、
その喧騒を眺めるだけで十分だった。
光の輪の外側。
影の場所。
そこが落ち着く。
自分は、
あの中心に混ざるタイプじゃない。
でも、
彼は知らない。
陽の中心にいる彼が、
影の方を探してしまっていることを。
火が小さくなり、
音楽が止まり、
人が帰り始めても、
彼はまだポケットに触れていた。
返せなかった。
聞けなかった。
ただ、
気になってしまった。
理由はまだ分からない。




