叶多の気遣い
涙がようやく落ち着いて、
呼吸もゆっくり戻ってきた。
目元はまだ熱くて、
胸の奥には重たいものが残っているのに、
腕の中の温もりだけは不思議と安心をくれた。
叶多くんが、
そっと私の肩から手を離す。
「……少し、落ち着いた?」
その声は、
泣き疲れた心に優しく触れるみたいだった。
私は小さく頷いた。
その瞬間、
叶多くんがふっと空気を変えるように言った。
「約束してた食事、行こうか」
思わず顔を上げる。
「え……でも、こんな顔で……」
「いいよ。気にしなくて」
叶多くんは、
ほんの少しだけ笑って続けた。
「一人でいたくないでしょ?」
胸の奥がじんわり温かくなる。
「それに……俺、お腹空いちゃったよ」
その軽さに、
張りつめていた空気がふっと緩んだ。
泣いた後の顔を見られるのは恥ずかしい。
でも、一人で帰るのはもっと怖かった。
「……うん。行きたい」
そう言うと、
叶多くんは安心したように微笑んだ。
「じゃあ、予約してた店に行こう。
美桜が好きそうだと思って選んだんだ」
その言葉に、
胸の奥がまた少し熱くなる。
(……そんなふうに、
私のことを考えてくれてたんだ)
歩き出すと、
夜の風が頬に触れた。
さっきまで泣いていたのが嘘みたいに、
心が少しずつ軽くなっていく。
隣を歩く叶多くんの足音が、
静かな夜道に優しく響いていた。




