一人じゃない
泣き疲れたせいか、
呼吸がようやく落ち着いてきた。
腕の中からそっと離れると、
叶多くんの胸元が涙で濡れているのが見えて、
思わず息が詰まった。
「……スーツ、汚しちゃった……
ほんと、ごめん……」
かすれた声で言うと、
叶多くんはすぐに首を横に振った。
「大丈夫だよ。気にしてない」
その言い方があまりにも自然で、
責める気配なんてひとつもなくて、
胸がじんわり熱くなる。
叶多くんは、
少しだけ息を吸ってから言った。
「……今まで、一人で抱えてきたんだよね」
その言葉に、
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
「すごく頑張ってきたんだと思う」
優しい声だった。
責めるでも、哀れむでもなく、
ただ事実をそっと撫でるような声。
私は俯いたまま、
指先をぎゅっと握りしめた。
叶多くんは続ける。
「だから……これからは、
美桜自身のことも大事にしてほしいな」
「無理してほしくないんだ」
その言葉が、
胸の奥に静かに落ちていく。
「話してくれて、ありがとう」
顔を上げると、
叶多くんはまっすぐな目で私を見ていた。
「幻滅なんてしないよ」
その一言で、
また涙が出そうになる。
「むしろ……
正直に話してくれた美桜は、
すごく素直で、まっすぐだと思う」
どうしてそんなふうに言えるんだろう。
どうしてこんなに優しいんだろう。
叶多くんは、
少しだけ迷うように視線を落としてから言った。
「俺が力になる。一人で抱えないでほしい」
その言葉に、
胸の奥がふっと軽くなった。
(……ああ、もう一人じゃないんだ)
そう思った瞬間、
涙とは違う温かさが胸に広がった。




