72/103
叶多の温もり
叶多くんに
「言えるなら聞くよ」と言われて、
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
亮介との関係は、
誰に胸を張って言えるようなものじゃない。
まして——
叶多くんは亮介と同じ会社で働いている。
部下だと言っていた。
(……そんな人に、どうやって話せばいいの)
喉の奥が苦しくなる。
言葉が出ない。
でも——
誰かに聞いてほしい気持ちもあった。
自分の決意を、
誰かに知ってほしかった。
そして何より、
叶多くんには嘘をついたり、
ごまかしたりするべきじゃないと思っていた。
なのに、
うまく言えない。
言おうとすると、
胸の奥が熱くなって、息が詰まる。
(これから楽しい食事のはずなのに……
どうしてこんなことになってるの)
視界が滲んだ。
涙が、止まらなかった。
歩きながら、
ぽろぽろと頬を伝って落ちていく。
自分でも止められなかった。
叶多くんが驚いたように立ち止まり、
そっと私の顔を覗き込んだ。
「……美桜?」
その優しい声が、
余計に涙を溢れさせた。
叶多くんがそっと手を伸ばし、
私の涙を指先でぬぐってくれた。
手の温もりが、
驚くほど心地よくて——
胸の奥の強ばりが
少しずつほどけていくのを感じた。




