空気を変える
「……返事は今すぐじゃなくていいんだ。
俺は本気だから」
そう言ったあと、
二人の間に静かな空気が落ちた。
美桜はまだ少し戸惑った顔をしていて、
叶多はその表情を見るたびに
胸が締めつけられた。
(……このままじゃ、
食事どころじゃなくなるな)
気持ちを切り替えさせたくて、
叶多は歩き出した。
美桜も少し遅れて並ぶ。
ビルの外の風が、
さっきまでの重い空気を
少しだけ軽くしてくれる。
(話の流れを変えないと……)
そう思って、
叶多はふっと息を吸った。
「……俺のこと、色々話してなかったよね?」
美桜が驚いたように顔を向ける。
「え……?」
「実は俺、
美桜と同じビルの会社で働いてて」
会社名を言おうとして、
一瞬だけ言葉が止まった。
(次期社長候補なんて……
言わない方がいいよな)
肩書きで距離を作りたくなかった。
「食品関係の会社なんだ。
高校卒業してから海外で経営の勉強して、
戻ってきて今の会社に入った。
……毎日必死だよ」
美桜は、
さっきまでの緊張が少しほどけたように、
ほっとした表情を見せた。
(……よかった。話を逸らせた)
「美桜のことも知りたいな」
歩きながら、自然な声で続ける。
「食事しながら教えてくれる?」
美桜は小さく笑った。
「私はそんな……特に何もないよ」
「なんでもいいんだよ。
休みの日何してる? とか、そういう感じの」
美桜は少し考えて、
照れたように視線を落とした。
その仕草が、
叶多にはたまらなく愛おしかった。




