俺じゃダメか?
「……幻滅されちゃうと思う」
その小さな声が落ちた瞬間、
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
「幻滅なんかしないよ」
思わず言葉が出た。
迷いも、ためらいもなかった。
「教えて。困ってるなら力になりたい」
美桜は驚いたように目を瞬かせ、
それから視線を落とした。
「……」
沈黙。
けれど、その沈黙は“拒絶”ではなかった。
叶多は、そっと問いかける。
「ああいうふうに手を上げられるようなこと……
よくあるのか?」
美桜は慌てて首を振った。
「あ、違うの。
あれは初めてで。
それに……叶多くんの部下だったら、
やりにくくなっちゃうよね?ごめん」
「気にしなくていいよ。平気だよ」
即答だった。
本当に気にしていなかった。
むしろ——気にしていたのは別のことだ。
美桜は小さく息を吸い、
覚悟を決めたように口を開いた。
「実はね……
り、田島さんは、本命の彼女が別にいるみたいで」
「え?」
声が少し大きくなった。
知っていたけれど、
知らなかったふりをするしかなかった。
美桜は続けた。
「でも、私もそれわかってて。
……なんていうか、
彼氏がいた方が都合がいいことって、
この歳になるとよくあって……」
言葉が弱くなる。
自分を責めるような声音。
叶多は黙って聞いていた。
「……幻滅した……よね?」
美桜が不安そうに顔を上げる。
叶多はゆっくり首を振った。
「……いや」
そして、静かに踏み込む。
「相手がいると何かと都合が良いって……
どういうこと?ストーカーとかいるのか?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
美桜は困ったように笑った。
その笑顔が、痛かった。
叶多は一度だけ息を吸い、
覚悟を決めたように言った。
「その役目……俺じゃダメか?」
言った瞬間、
美桜の目が大きく揺れた。




