2人の関係が気になる叶多
美桜はしばらく黙っていたけれど、
意を決したように口を開いた。
「……叶多くんは、
り……田島さんを知ってるの?」
少し噛んだ“り”が、妙に胸に引っかかった。
「田島は同じ会社で働いてる。俺の部下だよ」
美桜の目が丸くなる。
「え……そうなんだ……」
驚きと戸惑いが混ざった声。
叶多は続けた。
「実は、このビルの会社で働いてる。
美桜もだよね?」
「うん……私、5階の会社で」
「そっか」
知っていた。
知っていたけれど、
あえて“初めて聞いたふり”をした。
美桜が同じビルにいると知った日から、
叶多はずっと、どこかで会えないかと気にしていた。
それを悟られたくなかった。
「で、どうする?今日の食事……やめとく?」
わざと軽く言ったつもりだった。
けれど、声が少しだけ硬かった。
美桜は一瞬だけ目を見開き、
すぐに首を振った。
「行くよ! 行く」
その勢いに、
叶多の胸がわずかに熱くなる。
「田島はいいのか?」
美桜は視線を落とし、
小さく息を吸った。
「り……田島さんは、大丈夫。
そういうんじゃないから」
“り”がまた引っかかる。
言いにくそうなその声音も。
叶多は思わず聞き返した。
「え? どういうこと?付き合ってないのか?」
美桜は唇を噛み、
しばらく言葉を探していた。
「付き合ってる……というか……えっと……」
視線が揺れる。
声も揺れる。
そして、
ぽつりと落ちた言葉は、
思った以上に弱かった。
「……幻滅されちゃうと思う」
その一言が、
叶多の胸の奥に静かに沈んだ。
幻滅なんて——そんなわけがない。
けれど、その言葉の続きを聞くのが怖いほど、
美桜の表情は切なかった。




