叶多の嫉妬
田島が去っていったあと、
その場に残った空気が、やけに重く感じた。
美桜は小さく息を吐き、
肩をすぼめるようにして立っている。
「……さっきは、ごめん。巻き込んじゃって」
その声はまだ少し震えていた。
叶多はゆっくり息を吐き、
落ち着こうとしたけれど——
熱は、まったく引かなかった。
(……イライラする)
田島に対してなのか、
美桜を怯えさせた状況そのものに対してなのか。
どちらにしても、気持ちは収まらない。
「巻き込んだのは、俺の方だよ」
そう言ったあと、ふと視線をそらす。
言うつもりじゃなかった言葉が、
喉の奥から勝手にこぼれた。
「……付き合ってるのか。あの男と」
美桜が、驚いたように顔を上げる。
「え……?」
その反応を見た瞬間、
叶多の胸の奥で何かが揺れた。
美桜は言葉を探すように口を開きかけて、
また閉じる。
叶多は、ほんの少しだけ間を置いてから、
さらに踏み込んだ。
「……もし付き合ってるなら、
俺と二人で食事はマズいんじゃないか」
声は静かだった。
けれど、隠しきれない感情が滲んでいた。
本気で止めたいわけじゃない。
むしろ、言わせて美桜の反応を見たかった。
美桜は一瞬、息を呑んだように肩を揺らす。
「……それは……」
言葉が続かない。
叶多はその様子を見て、
自分がどれだけ気にしていたのかを思い知らされた。
(……一応、彼氏なんだよな)
その事実が、喉の奥に重く引っかかる。
同じビルで働く美桜。
同じ会社で働く田島。
これからも、
今日みたいな場面に遭遇するかもしれない。
考えただけで、ため息が漏れた。
「……はぁ」
美桜が心配そうに覗き込む。
「叶多くん……?」
「いや。なんでもない」
なんでもなくない。
全然、なんでもなくない。
(……別れてほしい)
その思いは、
自分でも驚くほど真っ直ぐだった。
もちろん、口には出せない。
出せるわけがない。
叶多はその気持ちを、
胸の奥深くに押し込んだ。




