守る叶多
田島の手が止まったあと、
その顔にようやく“気づいた”という色が浮かんだ。
「え? あ……部長?」
声が裏返っていた。
叶多は田島を見下ろすように視線を落とし、
静かに言った。
「会社のビルで、なにをしてるんだ?」
声は低く、抑えているのに、
その奥にある怒りは隠せていなかった。
美桜が、はっと息をのむ。
(え……?
叶多くんと亮介って、知り合いなの……?)
驚きと戸惑いが入り混じった表情で、
叶多と田島を交互に見ていた。
田島は慌てて姿勢を正し、
言い訳を探すように口を開く。
「す、すみません。いや、俺じゃないんですよ。
こいつがちょっとね……」
そう言って、美桜へ視線を泳がせた。
その一瞬で、美桜の肩がビクッと震えた。
叶多の目が細くなる。
「……あまり見苦しい言い訳はするな。田島」
静かに、しかし確実に刺さる声。
「私は君の仕事はすごく評価してるんだ。
がっかりさせるな」
田島の顔が強張る。
上司としての言葉。逃げ場のない叱責。
「……はい。失礼します」
田島は美桜を見ようともせず、
足早にその場を離れていった。
残された空気だけが、
しばらくその場に重く残った。
叶多はゆっくりと美桜の方へ向き直る。
「……大丈夫?」
その声は、
先ほど田島に向けたものとはまるで違う、
柔らかい響きだった。




