ずっと待っていた叶多
スマホを机に置いたまま、
仕事をしているふりをしていた。
いや、している“つもり”だった。
実際は——
ずっと気になっていた。
美桜からの連絡が。
あの日、玄関に袋を置いて、
短いメッセージを送ってから、
既読はついたけれど、
その後は何もなかった。
無理もない。
彼女には一応、彼氏がいる。
自分からしつこく連絡するのは違う。
迷惑になるかもしれない。
嫌われたくない。
だから、
連絡したい気持ちを押し込めて、
ただ待っていた。
……待つしかなかった。
そんなとき——
机の上のスマホが震えた。
美桜の名前。
一瞬、呼吸が止まった。
画面を開く指が、
自分でも笑えるほど早かった。
> 『この前は本当にありがとうございました。
> 元気になったので……
> よかったら、お礼させてください。』
胸の奥が、
じんわり熱くなる。
お礼なんて、
本当にいらない。
あの日はただ、
放っておけなかっただけだ。
でも——
美桜が自分に連絡をくれた。
それが、
たまらなく嬉しかった。
ずっと、
ずっと待っていた。
だから、
本音が漏れた。
> 『お礼なんて別にいいのに。
> でも、せっかくだから、飲みにでも行くか?』
誘いたかった。
ずっと。
でも、
彼氏がいる以上、
自分から踏み込むのは違うと思っていた。
だからこそ、
美桜からの連絡は、
自分にとって“許された一歩”みたいに感じた。
送信してから数秒後、
すぐに返信が届いた。
> 『私あまりいいお店わからなくて、調べておきます!』
その一文を見た瞬間、
胸の奥が熱くなる。
嬉しい。
本当に、嬉しい。
やっと——
やっとここまで来た。
ずっと遠くにいたはずの人が、
少しだけ近くに感じられた。
スマホを握りしめながら、
叶多は静かに息を吐いた。
「……楽しみだな」
抑えきれない気持ちが、
声に滲んでいた。




