勢いにまかせて
亮介と別れて歩き出した瞬間、
夜風がひんやりと頬を撫でた。
その冷たさが、胸の奥の静かなざわつきを
少しだけ浮かび上がらせる。
亮介の笑顔も、
軽い声も、
距離の詰め方も。
全部、前と同じはずなのに、
今日は何ひとつ響かなかった。
「……やっぱり、気持ち……ないんだな」
自分で言ってみて、
胸がすとんと落ち着いた。
悲しくもないし、寂しくもない。
ただ、終わっていたんだと気づいただけ。
信号待ちの間、なんとなくスマホを見た。
画面には何も表示されていないのに、
ふと浮かんだのは——
叶多くんの顔だった。
玄関の前の袋。
「ちゃんと休んで」
あの優しい声。
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
「……逢いたいなぁ……」
ぽつりとこぼれた言葉に、
自分でびっくりした。
亮介と会った帰り道に、
別の人の顔を思い浮かべて、
“逢いたい”なんて。
そんな自分に、
胸がドキッと跳ねる。
でも、
その気持ちは否定できなかった。
むしろ、気づいてしまったことで
胸の奥が少しだけ軽くなった。
「……連絡、しよう」
勢いだった。
でも止められなかった。
震える指で、
メッセージを打つ。
> 『この前は本当にありがとうございました。
> 元気になったので……
> よかったら、お礼させてください。』
送信ボタンを押した瞬間、
心臓が跳ねた。
夜風は冷たいのに、
胸の奥だけが熱いままだった。




