愛されたいし、愛したい
仕事の合間、
スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、
指が止まる。
田島亮介
最近、この名前を見ると、
胸の奥がざわつく。
前は何も思わなかったのに。
ただの“都合のいい関係”で、
お互い割り切っていたはずなのに。
通知をスワイプして消す。
返す気になれなかった。
椅子にもたれかかり、
ゆっくり息を吐く。
「……亮介……」
名前を口にした瞬間、
胸の奥がすっと冷えた。
なんだろう、この感じ。
前はこんなふうに思わなかった。
名前を呼ぶことすら、
特に意味なんてなかったのに。
今は——
なんだか急に、
距離ができた気がした。
「……別れようかな」
声に出してみても、
胸は何も動かない。
悲しくもない。
寂しくもない。
未練なんて、ひとかけらもない。
ただ、
“もういいかもしれない”
という静かな感覚だけが残った。
続けている理由もない。
終わらせたところで、
自分にも亮介にも大したダメージはない。
むしろ——
続けているほうが、
なんだか変だと思い始めていた。
理由は、
はっきりとはわからない。
でも、
胸の奥がざわつく。
亮介との関係を思い浮かべると、
どこか“恥ずかしい”ような、
“後ろめたい”ような気持ちになる。
前はそんなこと、
一度も思わなかったのに。
「……私、
もっと愛されたいし……
愛したいのかもしれない」
ぽつりとこぼれた言葉に、
自分で驚いた。
亮介との関係は、
“求められる側”ではなかった。
“都合のいいときに呼ばれる側”だった。
それでいいと思っていた。
それで十分だと思っていた。
でも——
あの日のことを思い出す。
玄関の前の袋。
「ちゃんと休んで」
あの短いメッセージ。
ふとした瞬間に浮かぶ、
叶多くんの顔。
その温度が、
亮介との関係を考えるたびに
妙に気になってしまう。
スマホを見つめる。
亮介の名前はスルーできるのに、
“叶多”という名前は見ただけで
胸が跳ねる。
「……どうしよう……」
ため息が漏れた。
亮介との関係を続ける理由は、
もうどこにもない。
でも、
終わらせる理由は——
きっと、
別のところにある。
自分ではまだ
認めたくないだけで。




