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タイムカプセル~10年前のラブレター~  作者: 柚原 澄香


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叶多の優しさ

玄関の扉を閉めた瞬間、

全身の力が抜けた。


靴を脱ぐのもやっとで、

壁に手をつきながら部屋に戻り、

そのままベッドに倒れ込む。


体は重い。

頭もぼんやりしている。


なのに——

胸の奥だけが、妙にざわついていた。


さっきの叶多くんの声。

「少しは甘えろよ」

その言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。


どうしてだろう。

あんなふうに言われたの、いつ以来だろう。


しばらく目を閉じていたら、

スマホが震えた。


ゆっくり画面を見る。


“叶多”


その名前が、自分のスマホにある。

それだけで胸が熱くなる。


メッセージを開く。


> 『玄関に少し置いておきました。

> 無理に出てこなくていいから。

> ちゃんと休んで。』


……玄関?


ふらつきながら立ち上がり、

ゆっくりドアを開ける。


ドアノブに袋がかかっていた。


おかゆ、ゼリー、桃缶、飲み物。

全部、今の私が食べられるものばかり。


胸の奥が、

じんわりと熱くなった。


スマホがまた震える。


> 『他に必要なものあったら、遠慮なく連絡ください。

> 今日は一日空いてるから。』


画面に映る“叶多”という名前を見た瞬間、

視界がふっと滲んだ。


——あ。


涙が落ちて、

スマホの画面に小さな跡を作った。


どうして泣いているのか、

自分でもわからない。


弱っているときの優しさは、

どうしてこんなに胸に刺さるんだろう。


その温度が、

ふと——

タイムカプセルの「好きです」と重なった。


あの夜、

酔って帰ってきて封筒を開けたとき、

胸の奥に静かに沈んだ4文字。


今、

同じ温度が胸の奥で広がっていく。


ベッドに戻りながら、

スマホを胸に抱きしめる。


「……どうしよう……」


声に出した瞬間、

涙がまたひとつ落ちた。


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