頼られたい
病院を出てタクシーに乗り込むと、
美桜は小さく息を整え、スマホを開いた。
画面が光った瞬間、
通知が一気に溢れた。
「……あ、そうだった……」
その声は、
嬉しさよりも“重さ”が混ざっていた。
視界の端に、
“田島”の名前が何件も並んでいるのが見えた。
覗くつもりはなかった。
ただ、見えてしまっただけ。
けれど——
美桜の表情は、
喜んでいるようには見えなかった。
むしろ、
困っているような、
疲れているような。
……あいつと、うまくいってないのか。
そんな考えが胸をかすめる。
でも、聞かない。
踏み込まない。
ただ、美桜の横顔だけを見つめた。
しばらく沈黙が続いたあと、
美桜が小さく言った。
「……ほんとに、送らなくてよかったのに。
ひとりで帰れるよ」
その言葉の“無理してる感じ”に、
叶多はすぐ気づいた。
だから、ゆっくりと口を開く。
「……美桜」
呼ばれた美桜が、少しだけ肩を揺らす。
「さっきからずっと思ってたけど……
お前、ほんとに無理してるだろ」
美桜は目をそらす。
図星だった。
「全部ひとりで抱え込むの、
昔から変わってないよな」
美桜の指が、スマホを握る力を少し強めた。
「でもな」
叶多は前を向いたまま、
声だけを少し低くした。
「目の前で倒れたんだぞ」
美桜の呼吸が止まる。
「……あの瞬間、
本気で怖かった」
責めてるんじゃない。
ただ、胸の奥から出てきた言葉。
「倒れたら、全部台無しだ。
仕事も、周りの人も……
そして何より、お前自身が」
美桜は視線を落とし、
小さく肩をすぼめた。
「……迷惑かけたくないだけだよ……
誰にも……」
その言葉が、
叶多の胸に深く刺さる。
だから、逃げずに言った。
「迷惑なんかじゃない。
むしろ……頼ってくれたほうが、俺は嬉しい」
美桜が顔を上げる。
「少しは人を頼れ。
全部ひとりで背負うな。
……俺でもいいし。
少しは甘えろよ」
美桜は完全に固まった。
頬がゆっくり赤くなり、
視線が泳ぐ。
「……なんで……そんな……」
叶多は微笑んだ。
優しくて、でもどこか切ない笑み。
「なんでって……
目の前で倒れた人を放っておけるほど、
俺は冷たくないよ」




