甘えられたい叶多
美桜が再び眠りについたあと、
医師の診察が始まった。
叶多はベッドの横で、
まるで家族のように真剣に話を聞いていた。
「高熱と過労ですね。
脱水もあります。
今日は絶対に安静にしてください」
医師の言葉に、
叶多の胸がぎゅっと締めつけられる。
——やっぱり無理してたんだ。
診察が終わると、
叶多はスマホを取り出し、
秘書に短く連絡を入れた。
「今日は休む。
悪いけど、全部調整しておいてくれ」
秘書は驚いていたが、
叶多はそれどころじゃなかった。
美桜をひとりにできる状態じゃない。
病室に戻ると、
美桜は半分だけ目を開けていた。
「……叶多くん……?」
「起こしたか?」
「ううん……」
声は弱いけれど、
さっきよりずっとしっかりしている。
叶多はベッドのそばに座り、
そっと言った。
「家まで送るよ。
ひとりで帰すわけにいかない」
その瞬間、
美桜の目がまん丸になった。
「えっ、いやいやいや……!
大丈夫だよ、ほんとに。
ひとりで帰れるから!」
慌てて手を振る。
毛布がずり落ちそうになるほど必死。
——甘え慣れてないんだな。
その反応が、
なんだか可愛くて胸が温かくなる。
でも、引く気はなかった。
「倒れるまで仕事してたんだろ?」
美桜は言葉に詰まる。
「……それは……」
「無理しすぎなんじゃないのか?」
責めるつもりはなかった。
ただ、心配でたまらなかった。
美桜は視線を落とし、
毛布をぎゅっと握りしめる。
「……迷惑かけたくないだけだよ……」
その言葉が、
叶多の胸に深く刺さった。
「迷惑なんかじゃない」
静かに、でも強く言う。
「むしろ……
こうしてそばにいられるの、
俺は嬉しい」
美桜は顔を上げられず、
頬がゆっくり赤くなっていく。
「……なんで……?」
その小さな声に、
叶多は一瞬だけ言葉を失った。
なんで——
なんて、
言えるわけがない。
10年分の想いが、
胸の奥で静かに熱を持つ。
「理由は……あとで話すよ」
そう言うと、
美桜はさらに赤くなって、
毛布に顔を半分埋めた。
この距離感が、
今の2人にはちょうどいい。




