ただただ逢いたい一心で
美桜にどう会えばいいのか。
そればかり考えていた。
同じビルにいる。
エレベーターで数十秒。
それだけで会える距離だ。
なのに、その一歩が重い。
「ビルのカフェに行けば、偶然会えるかもしれない」
そんな考えが頭をよぎる。
——いや、狙って行くのは違うだろ。
「エントランスで待っていれば、帰りに会えるかもしれない」
そんな考えも浮かぶ。
——待ち伏せなんて、気持ち悪いだろ。
自分で自分にツッコミを入れながら、
叶多は何度も自問自答を繰り返した。
会いたい。
でも、卑怯な再会はしたくない。
ちゃんと向き合いたい。
その想いが強いほど、
足がすくむ。
いよいよだという気持ちと、
まだまだだという気持ちが、
胸の奥でせめぎ合う。
そんな夜だった。
仕事を終えてエントランスに降りたとき、
視界の端に見覚えのある姿が映った。
ソファーに座り、
肩を落としてぐったりしている女性。
——美桜だ。
一瞬、時間が止まった。
疲れているのか、
眠っているのか、
ただ座っているだけなのか。
わからない。
ただ、
その小さな背中が、
ひどく弱って見えた。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
会いたい。
声をかけたい。
大丈夫かと聞きたい。
でも——
足が動かない。
こんな形で声をかけていいのか。
驚かせるだけじゃないか。
迷惑じゃないか。
頭の中で、
いくつもの言い訳と不安が渦を巻く。
すぐそこにいるのに。
手を伸ばせば届く距離なのに。
それでも、
叶多は一歩を踏み出せなかった。
エレベーターの到着音が響く。
美桜が顔を上げる。
その瞬間、反射的に柱の影に身を隠した。
——何やってんだ、俺。
情けなさが胸に刺さる。
美桜はゆっくり立ち上がり、
疲れた足取りでビルの外へ向かう。
その背中を見た瞬間、
胸の奥で何かが弾けた。
気づいたら、
足が動いていた。
理性より先に、
身体が勝手に追いかけていた。
エントランスの自動ドアが開く。
夜風が吹き込む。
美桜の背中は、
思ったよりも小さくて、
思ったよりも遠かった。
——待ってくれ。
声は出なかった。
でも、心の中で叫んでいた。
歩幅を広げる。
距離が少しずつ縮まる。
それでも、
あと数歩が届かない。
手を伸ばせば触れられる距離なのに、
その手が震えて出せない。
会いたい。
でも、怖い。
それでも、会いたい。
その矛盾が胸の奥で渦を巻く。
美桜が横断歩道の前で立ち止まった。
赤信号。
追いつける。
叶多は息を整え、
震える手を握りしめた。
——今だ。
行け。
胸の奥の熱が、
静かに、しかし確かに背中を押した。




