目まぐるしく過ぎる日々
次期社長候補として名前が挙がったその日から、
叶多の周囲は一気に色を変えた。
会議が増え、
資料が増え、
打ち合わせが増えた。
そして——
会食が、急に増えた。
取引先の重役、
古くからの顧問、
父の代からの付き合いのある企業の社長。
どの席でも、話題は自然と“未来の会社”へと向かう。
「叶多さんの時代が来ますね」
「若いのにしっかりしている」
「これからはあなたと長く付き合っていきたい」
酒の席の言葉は軽い。
だが、その裏にある期待は重かった。
グラスを置くたび、胸の奥に静かな熱が広がる。
——ここまで来た。
そう思う一方で、
慣れない空気に戸惑う自分もいた。
言葉の選び方、
間の取り方、
酒の注ぎ方ひとつ取っても、
自分はまだまだだと痛感する。
——俺、まだまだじゃんか。
胸の奥に、静かに落ちるものがあった。
必死に働いてきたつもりだった。
けれど、こういう場に出ると、
自分の未熟さが嫌でも浮き彫りになる。
そんなときだった。
ふと、美桜の顔が浮かんだ。
何、ひよってんだよ。
自信もて。
苦手なら克服しろ。
誰かに言われたわけじゃない。
でも、
“美桜に胸を張りたい自分”がそう言っている気がした。
その声に背中を押されるように、
叶多はグラスを持ち直した。
さっきよりも言葉が出た。
相手の目を見て話せた。
笑顔も作れた。
完璧じゃない。
まだまだ足りない。
でも——前に進むためなら、いくらでもやれる。
そう思いながら、
叶多は目まぐるしく過ぎていく毎日を、
ひとつずつ噛みしめるように乗り越えていった。




