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タイムカプセル~10年前のラブレター~  作者: 柚原 澄香


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人生の変わる音

役員会議室を出た瞬間、

張りつめていた空気がふっと緩んだ。


廊下の静けさが、

さっきまでの緊張を嘘みたいに感じさせる。


父の言葉がまだ耳に残っていた。


「次期社長候補として、叶多を指名する」


その一言で、

人生が静かに、確実に動き出した。


胸の奥に広がる熱は、

黒いざわつきとは違う。


もっと深く、

もっと静かで、

もっと確かなものだった。


エレベーターに乗り込むと、

鏡に映る自分の顔が少しだけ違って見えた。


覚悟を決めた人間の顔だと、

そう思った。


自分のフロアに戻ると、

社員たちの視線が一瞬だけこちらに向く。


噂はまだ流れていないはずなのに、

空気がどこか変わっていた。


デスクに座り、

深く息を吐く。


——ここまで来た。


10年。

美桜に見合う男になりたくて、

ただがむしゃらに働いた。


誰にも言わなかった。

言えるはずもなかった。


でも、

その想いが自分をここまで連れてきた。


胸の奥がじんわりと熱くなる。


これで、胸を張れる。


美桜に対して。

10年前の自分に対して。

あのタイムカプセルに込めた言葉に対して。


「好きです」は俺が書いた。

ずっと言えなかったけれど、

今なら言える。


そう思った瞬間、

胸の奥の熱が静かに満ちていく。


嫉妬でも焦りでもない。

ただ、

“向き合いたい” という真っ直ぐな気持ち。


でも、まだだ。

正式に動きが固まってからでいい。


肩書きに頼りたいわけじゃない。

でも——

10年積み上げてきたものを

ちゃんと形にしてから向き合いたい。


正々堂々と。

逃げずに。

誤魔化さずに。


美桜に会いに行くその日のために。


叶多はゆっくりと目を閉じ、

静かに息を吸った。


今日という日は、

人生が変わる音がした日だった。

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