見たくないのに聞きたくないのに
ホテルのバーは、
落ち着いた照明と低い音楽が流れる大人の空間だった。
田島と美桜は、
カウンターの端、照明が柔らかく落ちる席に案内された。
彼は少し離れた席に座り、
メニューを開くふりをしながら
視界の端で二人を捉える。
照明のせいか、
美桜の横顔がやけにきれいに見えた。
——なんでこんな場所、選ぶんだよ。
胸の奥がじりじりと焼ける。
田島はグラスを軽く揺らしながら、
美桜の顔を覗き込むようにして言った。
「美桜ってさ、
こういう照明、似合うよな。
前から思ってたけど……
綺麗だよ。ほんと。」
歯が浮くような台詞。
でも田島は慣れた口調で言う。
美桜は困ったように笑って、
グラスに視線を落とした。
「そんなことないよ……」
「あるって。
俺、嘘つかないタイプだからさ」
——嘘しかつかないくせに。
彼の胸が、
ぎゅっと締めつけられる。
田島はさらに距離を詰める。
「今日も頑張ったんだろ?
顔に出てるよ。
……可愛いけど」
その瞬間、
彼の呼吸が止まった。
照明が美桜をきれいに見せる。
田島はそれをわかって言っている。
美桜は照れたように笑う。
——見たくない。
——でも目が離せない。
彼は自分の手が震えていることに気づいた。
俺、なにやってるんだろう。
なんでこんな場所で、
二人の距離を数えてるんだ。
でも席を立てなかった。
田島の声が、
また甘く落ちる。
「美桜、
俺さ……
お前といると落ち着くんだよね」
その言葉に、
彼の胸の奥で何かが静かに軋んだ。




