目が離せない
田島と美桜が並んで歩く。
肩に手を回されたまま、
美桜は少し困ったように笑っていた。
その光景を、
彼はビルの影からただ見つめていた。
——帰れよ。
——こんなの見ても傷つくだけだろ。
頭ではわかっている。
でも足は動かなかった。
二人はビルの角を曲がり、
近くのホテルへと入っていく。
ホテルのロビーの照明が、
二人の姿を柔らかく照らす。
田島がエレベーターの前で
美桜の腰に手を添えた瞬間、
彼の胸がぎゅっと締めつけられた。
——なんでホテルなんだよ。
嫌な予感が、
喉の奥に鉄の味を残す。
だが二人はエレベーターには乗らず、
ロビー奥のバーへと向かった。
ほっとしたのか、
余計に苦しくなったのか、
自分でもわからない。
気づけば彼もホテルに入り、
二人の後を追っていた。
バーの入り口で、
田島が店員に軽く手を上げる。
「二人。奥の席、空いてる?」
慣れた声。
慣れた態度。
美桜は少し戸惑いながらも、
田島の後ろをついていく。
彼は距離を置きながら、
二人が案内される席を目で追った。
そして——
自分でも信じられない行動に出た。
二人の席の近くに、
さりげなく腰を下ろした。
メニューを開くふりをしながら、
視界の端で二人を捉える。
田島が笑う。
美桜が微笑む。
グラスが触れ合う音がする。
胸の奥が、
じりじりと焼けるように痛む。
——俺、なにやってるんだろう。
本当にそう思った。
でも席を立つことはできなかった。
見たくない。
でも見たい。
見たくないのに、
見ずにはいられない。
美桜の横顔が、
10年前の記憶と重なっていく。
あの頃と同じ笑顔。
あの頃と同じ仕草。
なのに隣にいるのは、
自分じゃない。
田島の指が、
美桜のグラスに触れた瞬間、
彼の心の奥で何かが静かに軋んだ。




