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美桜という名前
喫煙所を出た瞬間、
外の空気がやけに冷たく感じた。
——美桜。
偶然だ。
偶然であってほしい。
彼女と同じ名前。
それだけのはずなのに、
胸の奥がざわつく。
まさか、
あの彼女がそんな恋愛をしているはずがない。
そう信じたいのに、
さっき聞いた言葉が耳にこびりついて離れない。
「わがまま言わないし、適度な距離感でツンツンしてる」
「既読スルーもするし」
「金曜日もスルーされた」
喫煙所の雑談に自分から入ることなんてしない。
部長という立場もあるし、
そもそも興味もない。
なのに——
反応してしまった。
「雑に扱うなら、やめとけ」
これ以上あそこにいたら、
何を言うかわからなかった。
握りしめた拳を見下ろすと、
爪痕がくっきりと残っていた。
「……くそ」
モヤモヤが止まらない。
特に田島。
アイツは女癖が悪すぎる。
仕事はできる。
それは認める。
だが、プライベートは最悪だ。
そんな男が、
“美桜”という名前を軽々しく口にした。
偶然だ。
偶然であってほしい。
でも胸の奥のざわつきは、
冷たい風に吹かれても消えてくれなかった。




