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タイムカプセル~10年前のラブレター~  作者: 柚原 澄香


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名前の既視感

月曜の朝。

会社の喫煙所には、

週末の名残りのような眠気と、

薄い煙が漂っていた。


彼は缶コーヒーを片手に、

ぼんやりと夜桜の残像を思い返していた。


そこへ、

喫煙所のドアが開く。


「いや〜、マジでさぁ」


営業の田島と、同僚の佐伯が入ってきた。

彼は軽く会釈して、

少し距離を置いて煙を吸う。


ただの雑談だろう。

そう思っていた。


だが——


「俺、本命とは別にもう一人付き合ってるやついるんだよね」


田島の声が、

やけに耳に刺さった。


佐伯が呆れたように笑う。


「おまえ、最低だな」


「いやいや、向こうも承知の上だって。

 わがまま言わないし、適度な距離感でツンツンしてるのが

 最高に良くってさ」


ニヤニヤと笑う田島。

その顔が妙に腹立たしい。


彼は煙を吐きながら、

聞き流すつもりでいた。


——なのに。


美桜みおって言うんだけどさ」


その名前が、

胸の奥に落ちた瞬間。


心臓が、

ひとつ跳ねた。


美桜——

どこかで聞いたことがあるような。

いや、違う。

もっと深いところで引っかかる。


「普通に既読スルーもするしさ。

 自由な猫みたいなやつなんだよね。

 こないだの金曜日もスルーされちゃってさ。

 せっかく金曜夜に空いたっていうのに」


金曜日。

既読スルー。

自由な猫。


彼の胸の奥で、

何かが静かに軋んだ。


——金曜日。

——夜桜。

——残業。


「……そうか」


低い声が勝手に漏れた。


田島が気づいて振り返る。


「あ、部長も聞いてました?

 いや〜美桜、ほんと可愛いんすよ。

 ああいう距離感の女、最高っす」


その瞬間、

彼の中で何かが冷たく固まった。


そんな恋愛、

 彼女がしている姿なんて想像したくない。


理由はわからない。

まだ繋がらない。


でも、

胸の奥のざわつきは

確かにそこにあった。


喫煙所を出るとき、

彼は思わず拳を握りしめていた。


——美桜。

——金曜日。

——既読スルー。


まだ気づかない。

でも、

気づく日は近い。

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