溢れる感情が止まらない
夜桜の下を歩きながら、
彼は胸の奥に沈む重さを振り払えずにいた。
——もし彼女が、
もう誰かと付き合っていたら。
結婚していたら。
否定したい。
でも、できない。
SNSもやっていないみたいで、
彼女の“今”を知っている人がいない。
俺たち、もう 28 だ。
結婚していても不思議じゃない年齢だよな。
今どこで、どんな仕事をしてる?
どんな女性になっている?
気になって仕方ないのに、
脳裏に浮かぶのは
10年前の制服姿の彼女ばかり。
「……くそっ」
夜桜の下で、
思わず小さく吐き捨てた。
どうしろっていうんだよ。
10年も経って、
こんなにも感情が溢れ出すなんて
思ってもみなかった。
いっそ——
調べてみるか?
誰かに奪われる前に。
誰かの隣に立たれる前に。
そんな黒い考えが、
胸の奥で静かに形を成していく。
タイムカプセル。
同窓会。
封筒。
全部がきっかけになって、
止めていた感情が一気に溢れ出した。
10年前にはなかった、
くすんだ感情。
18のときの俺は、
もっとまっすぐだったのにな。
夜桜の花びらがひとひら、
彼の手の甲に落ちた。
その淡い色とは裏腹に、
彼の心は静かに熱を帯びていく。




