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すれ違う二人
彼はビルの別フロアで
デスクに肘をついていた。
同窓会を早々に抜けて、
気づけば会社に戻っていた。
胸ポケットの封筒が、
じわりと熱を持つ。
——来てないよな。
やっぱり。
わかっていた。
でも、期待していた。
その期待が、
自分でも驚くほど重かった。
「……帰るか」
立ち上がり、
ジャケットを羽織る。
エレベーターを降りたところで
誰かが外に出ていく後ろ姿が
一瞬だけ視界の端に映った。
夜桜の下、
淡いピンクの光に溶けるような影。
けれど、
彼は気づかない。
その背中が、
10年前に名前を書けなかった相手だなんて。
「……桜、咲いてたんだな」
胸ポケットの封筒が、
歩くたびに小さく揺れる。
彼もまた、
同じ夜桜の下へ歩き出した。
ほんの数秒の差。
ほんの数メートルの距離。
それでも、
二人はまだ出会わない。




