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夜桜と静かな「お疲れさま」
オフィスに残っているのは自分だけ。
エレベーターのボタンを押すと、
静まり返ったフロアに「ピン」という音が響いた。
扉が開く。
誰もいない箱の中に乗り込む。
鏡に映った自分の顔が、
少し疲れて見えた。
1階のボタンを押す。
扉が閉まる直前、
どこかのフロアで
別のエレベーターが動く音がした。
気にも留めなかった。
ロビーに降りると、
ガラス越しに夜桜が見えた。
街灯に照らされた花びらが、
風に乗ってふわりと舞う。
「……きれい」
思わず立ち止まる。
けれど、その美しさが胸に刺さる夜もある。
外に出ようと一歩踏み出したとき、
背後でエレベーターの到着音がした。
自分以外にも、
こんな時間まで働いていた人がいたんだ。
金曜日なのにね。
「お疲れさま」
そっと前を向いたまま呟く。
誰に届くでもない、小さな声。
そのまま自動ドアを抜け、
夜桜の下をゆっくり歩き出す。
花びらがひとひら、肩に落ちた。




