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タイムカプセル~10年前のラブレター~  作者: 柚原 澄香


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夜桜と静かな「お疲れさま」

オフィスに残っているのは自分だけ。

エレベーターのボタンを押すと、

静まり返ったフロアに「ピン」という音が響いた。


扉が開く。

誰もいない箱の中に乗り込む。


鏡に映った自分の顔が、

少し疲れて見えた。


1階のボタンを押す。

扉が閉まる直前、

どこかのフロアで

別のエレベーターが動く音がした。


気にも留めなかった。


ロビーに降りると、

ガラス越しに夜桜が見えた。


街灯に照らされた花びらが、

風に乗ってふわりと舞う。


「……きれい」


思わず立ち止まる。

けれど、その美しさが胸に刺さる夜もある。


外に出ようと一歩踏み出したとき、

背後でエレベーターの到着音がした。


自分以外にも、

こんな時間まで働いていた人がいたんだ。

金曜日なのにね。


「お疲れさま」


そっと前を向いたまま呟く。

誰に届くでもない、小さな声。


そのまま自動ドアを抜け、

夜桜の下をゆっくり歩き出す。

花びらがひとひら、肩に落ちた。

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