今の俺、未来の彼女
翌日の放課後、
職員室の前に立った瞬間、
心臓がひとつ跳ねた。
こんなふうに緊張するのは、
いつ以来だろう。
ノックすると、
担任の先生が顔を上げる。
「どうした、会長。
文化祭の反省ならもう終わってるぞ」
「卒業記念の企画で、
相談があって」
先生は椅子を回し、
彼の方を向いた。
「企画?
また何か大掛かりなことをやるつもりか?」
「……タイムカプセルを作りたいんです」
言った瞬間、
胸の奥が少しだけ熱くなった。
先生の眉がわずかに動く。
「タイムカプセル?」
「はい。
10年後に開けるやつです」
先生は腕を組んだ。
その表情は、
“面倒な話が来たな”と書いてある。
「会長な。
気持ちはわかるけど……
管理が大変なんだよ。
紛失したら責任問題にもなる」
予想していた言葉。
でも、今日は引かない。
「……卒業制作とかにしないか?」
先生は続ける。
「作品を残すとか、アルバムを作るとか。
そういう“無難な”ものの方が、
学校としてはありがたいんだ」
無難。
安全。
前例あり。
全部わかってる。
でも、それじゃ意味がない。
「無難じゃ、
残らないと思うんです」
先生が目を細めた。
「残らない?」
「10年後に開けるって、
それだけで意味があると思うんです。
今の気持ちも、
今の自分も、
10年後にはきっと違うから」
言葉にして初めて、
自分の中の熱量に気づいた。
誰かに求められたからじゃない。
役割だからでもない。
これは、
自分のためにやりたいことだ。
先生はしばらく黙った。
職員室の時計の音だけが響く。
「……本気なんだな?」
「はい」
「生徒会だけじゃなくて、
学年全体を巻き込む覚悟はあるか?」
「あります」
「責任も取れるか?」
「取ります」
先生はため息をついた。
でも、その表情は少しだけ緩んでいた。
「……わかった。
条件付きで許可する」
彼は思わず顔を上げた。
「本当ですか」
「ただし、
場所の確保、管理方法、
開封時の連絡手段。
全部、計画書にまとめて持ってこい。
“気持ちだけ”じゃ通らないぞ」
「はい。
ちゃんと作ります」
先生は小さく笑った。
「会長がそこまで言うなら、
見てみたいな。
10年後のお前らを」
その言葉が、
静かに胸に残った。
——10年後の俺は、
胸を張れているだろうか。
——10年後の彼女に、
今日の気持ちを渡せるだろうか。
職員室を出た瞬間、
彼は初めて、
“自分のために動いた実感”を噛みしめていた。




