正解ルートを外れる
気づけば、
彼女のことを考えている時間が増えていた。
引き出しの奥のハンカチ。
返せば終わるはずなのに、
終わらせたくない自分がいる。
そんな自分に、
少し驚いた。
今まで、
誰かにここまで気持ちを向けたことなんてなかった。
求められれば応える。
頼られれば動く。
それが“会長”としての正解だった。
でも彼女には、
その正解が通用しない気がした。
上っ面の笑顔じゃ届かない。
肩書きで寄ってくる人たちに向ける態度じゃ、
きっと意味がない。
彼女は、
俺の家がどんな場所かも知らない。
興味がないのか、
そもそも“そういう目”で見ていないのか。
その距離感が、
逆に心を落ち着かせた。
——ちゃんと向き合わないと。
そう思った瞬間、
胸の奥で何かが静かに動いた。
初めてだった。
“誰かのため”じゃなくて、
“自分のために何かを残したい”と思ったのは。
10年後の自分に、
胸を張れるように。
10年後の彼女に、
今の気持ちを渡せるように。
そのために、
今の自分を形にしておきたい。
気づけば、
企画書の紙に文字が並んでいた。
タイムカプセル。
その言葉を書いた瞬間、
自分でも驚くほど、
心が静かに熱を帯びた。
——これが、初めての“本気”なのかもしれない。
そして翌日、
彼は職員室の前に立つことになる。




