卒業記念企画
文化祭の夜から、
日常はゆっくり元に戻っていった。
あの喧騒が嘘みたいに、
教室は静かで、
黒板の文字も淡々としている。
彼は相変わらず“陽”の中心にいた。
誰かに呼ばれ、
頼られ、
笑って返す。
——いつも通りのはずなのに。
ふとした瞬間に思い出すのは、
校舎裏へ歩いていった後ろ姿だった。
薄いクリーム色のハンカチは、
机の引き出しの奥にしまったまま。
返すタイミングは、
結局つかめなかった。
同じクラスなのに、
話したことがあるのかないのか。
その程度の距離感のまま、
日々だけが過ぎていく。
冬の気配が近づき始めた頃、
生徒会室で卒業の話題が出た。
「会長、そろそろ卒業記念の企画、決めませんか?」
彼はペンを指で転がしながら、
少しだけ考えた。
いつもなら、
“みんなが喜びそうな案”を軽く出す。
陽の会長としての正解を。
でも今日は、
引き出しの奥のハンカチの感触が、
ふと指先に蘇った。
あの夜の後ろ姿も。
「……何か、残したいよね」
その声は、
いつもの彼より少しだけ静かだった。
「残すって、何を?」
「記念品?」
「アルバム?」
みんなが案を出す中、
彼は窓の外に目を向けた。
校舎裏へ続く小道。
あの影。
「……タイムカプセルとか、どうかな」
生徒会室が一瞬だけ静かになった。
「タイムカプセル?」
「20年後とかに開けるやつ?」
「いいじゃん、それ!」
ざわつく声を聞きながら、
彼は小さく笑った。
「20年は長すぎるけど……
10年なら、きっと届くと思う」
誰にも気づかれないほどの、
小さな願いが滲んでいた。




