合わない視線と過去の記憶
「美桜?」
声をかけた瞬間、
美桜の肩がビクンと震えた。
さっき微笑んでくれたはずなのに、
視線はすっと横にずらされる。
(……あれ?待ち合わせだったか?)
自分が会社にいるなんて言ってない。
メッセージを送ったばかりで、
ここにいる理由なんて説明がつかない。
でも、
そんなことより──
美桜の肩の震えが気になった。
「今日、都合悪かったかな?改めようか?」
できるだけ優しく言った。
美桜を追い詰めたくなかった。
すると美桜は、
首を全力で横に振った。
「ち、違うの……
私も……叶多くんに会いたくて……」
絞り出すような声。
でも、視線はまだ合わない。
(……なんで目を合わせてくれないんだろう)
不安なのか、
緊張しているのか、それとも──
何か言いづらいことがあるのか。
「うん、なに?」
美桜の気持ちを急かさないように、
ゆっくりと隣のソファーに座った。
距離は近いのに、
触れられそうで触れられない。
そんな空気が流れる。
美桜は鞄をぎゅっと握りしめて、
その中から一枚の紙を取り出した。
震える指先。
呼吸が浅い。
「叶多くん……これ、見覚えある?」
紙が差し出される。
白い紙の端が、
ほんの少しだけ揺れていた。
(……まさか)
胸の奥が、
ゆっくり、でも確かに熱くなる。
10年前の記憶が、静かに呼び起こされる。




