アダー・ストーンの光に照らされて
本章のいくつかの言葉は、私が独自に構築したエルフ語の日本語訳である。
リリヤは即座に鉄扉へと向かい、錠前をこじ開け始めた。護符の放つ光が、その手元を照らし出している。
「その扉の向こうには、何があるのだ、娘よ?」アーウィンが尋ねた。
「決まってるでしょう、私の依頼の対象よ」娘は鼻を鳴らして答えた。
「一体どういう人間が、アダー・ストーン(蛇石)を点火させるというのだ?」私はアーウィンに同調して言った。
「マン島へ戻った時に、私に報酬を支払ってくれるような人間よ」娘は私たちなど気にも留めず、作業を続けた。
私は一歩前に進み出ると、片手で彼女を扉から引き剥がすように持ち上げた。
彼女は私の兜を思い切り蹴り上げた。兜に傷はつかなかったものの、その行為は彼女の怒りを雄弁に物語っていた。
私が手を放すと、彼女はくずおれるように地面に倒れ込んだ。
「肋骨が折れているな。治療が必要だぞ」アーウィンが口を開いた。「だが、まずは答えを聞かせてもらおう」
「それなら、折れたままで結構よ! 誰か別の人間になおしてもらうから!」娘は吐き捨てるように言った。
「愚かなことを言うな。アーウィンなら瞬時に治癒できるのだぞ。お前がすべきことは、扉の向こうに何があるのかを話すこと、ただそれだけだ。アダー・ストーンによって姿を現す存在は、十や二十はあるだろうが、そのどれもが人間ではないし、すべてが危険な存在である可能性が高いのだ」私は娘を説得しようと試みた。
「愚かなのはそっちの方よ。私を放っておきなさい。そうすれば、すぐに自分の目で確かめられるんだから」彼女は憤慨した様子で地面から立ち上がった。いつの間にか、その手には短剣が握られていた。
「たとえ万全の状態だったとしても、お前が私に勝つことなどできはしない。これまでの旅路で、私はお前からほんの少しの信頼さえも勝ち得ていないというのか? 素直に依頼の内容を話すだけでいい。そうすれば、邪魔立てすることなく、お前の仕事をさせてやろう」
「それはこっちのセリフよ。私を信頼なさい、騎士様。そうすれば、何の問題も起きないわ」彼女は即座に言い返した。
「グリムヴァルドゥス、彼女の言う通りにさせてやってもいいのではないか? 彼女の言い分にも一理ある」司祭が提案した。
「最初に質問したのは、あんたの方じゃないの、司祭様!」リリヤは嘲るように言った。
「私は礼儀正しく尋ねたまでだ。だが、この騎士殿は少々やりすぎではないか? 古き法の執行を振りかざすなど、いささか度が過ぎると思うがな」アーウィンは私の背後からそう言ったが、その兜の後頭部越しに、彼の鋭い視線が突き刺さるのを感じ取ることができた。アダー・ストーンによってその姿を現した十数体の存在たち――そのすべてが、旧帝国の崩壊後に署名された「エウロパエ統一王令」の適用対象となる。すなわち、「すべての魔法生物は殺害すべし」というあの王令の、である。
「古き法も、新しき法と同じく有効なのだ」と、私は答えた。
「だが、至高の神より授かりし『最古の法』は、人の定めた法を無効化する。『汝、殺すなかれ』とあるように。あの王令は無効だ。何ら罪を犯していない生き物の死を命じているのだからな」アルウィンはそう反論した。
松明の火が、弱々しく揺らいでいた。
闇の奥で、何かが動いた気配がした。
「扉を開けろ、娘。中に何がいようと、地上へと連れ帰る。始末はそこでつける」私はポールアックスを構えた。
リリヤは恐怖に顔を引きつらせながら、慌てて扉の方へと引き返した。
私は闇の中を凝視した。だがそれは困難な作業だった。アルウィンが掲げる松明の光が揺らめき、水面に反射して踊るたびに、奇妙な幻影を生み出し、私の目を惑わせたからだ。
近くに積み上がった瓦礫の山――そこに生い茂る草木の合間で何かが動くのを見て、私は一歩前へと踏み出した。
「グリムヴァルドゥス、気をつけろ。ここは未知の危険に満ちている。どんな種類の怪物が出てもおかしくな……ガッ!」アルウィンの言葉は、喉を詰まらせたような悲鳴へと変わった。
私は素早く振り返り、司祭の首に緑色の蔓が巻きついているのを目にした。駆け寄りながらポールアックスを振り上げ、一撃を放つべく構えた。
だが、私の動きは唐突に止まった。何者かが、私の手から武器を奪おうとしていたのだ。
振り返ると――さすがは屈強な男、アルウィンだ。苦しみながらも手放さずにいた松明の光に照らされ、二本目の緑色の蔓が、私のポールアックスの柄に巻きついているのが見えた。
瓦礫の山に生い茂る茂みの中に潜む何かが、私の武装を解こうとしていたのだ。
いや――違う。
草木の合間に動きを見たのではない。
茂みの中に潜む何かが、私を引き寄せようとしていたわけでもない。
動いていたのは、その「草木」そのものだったのだ。
私を捕らえようとしていたのは、その「茂み」そのものだったのだ。
テウトニア人からは「ブスカズ」と、あるいは野蛮な部族たちからは「悪魔の茂み」や「人樹」の名で呼ばれるそれらは、茂みに酷似した姿を持つ、背の高い人型の怪物なのである。褐色の木肌と、長く細い緑の葉。それらは神、悪魔、あるいは魔術師の企図によってか、知性ある動物さながらに動き、思考し、そして狩りを行う。
私に襲いかかってきたそれらは、根を自在に操るという奇妙な能力を行使した。二本の「脚」の代わりとなるその根を大地に深く食い込ませ、自らの体を固定した上で、私を力任せに引きずり込もうとしたのである。
ポールアックスから右手を離すと、素早く長剣を抜き放ち、それに絡みつく緑の蔓を斬り払った。
副肢を切り落とされた怪物たちは、甲高い悲鳴を上げて苦悶した。
私は即座に振り返り、アルウィンに巻きついた蔓を斬り捨てた。
私が彼を立ち上がらせると、司祭は激しく息を吸い込んだ。
「松明の用意を!その杖は役に立ちませんぞ!ブスカズは火を嫌いますからな!」私は司祭に告げた。
彼は頷くと、松明を正面へと掲げた。再び首を絞められないよう、顔のすぐ近くまで引き寄せて構える。
リリヤの様子を確認しようとしたが、彼女の姿はなかった。扉は開け放たれ、その開口部には重苦しい影が垂れ込めている。
「リリヤ、急いでくれ!剣も火も、数が足りないんだ!」私は呼びかけた。
「私にお任せを」牢屋の奥から、甘美で繊細な声が響いた。その声は限りなく優しく丁寧な響きを持っていたが、同時に驚くほど鮮明で、まるで話し手が私の耳元に立っているかのようだった。
牢屋の内部から、目もくらむような淡い黄金の光が溢れ出し、私は思わず両手で目を覆った。
私たちを取り囲んでいたブスカズたち――数えて五体――は、火と同様に光をも忌み嫌うため、一斉に悲鳴を上げた。
やがて光がいくぶん和らぐと、まるで真夏の屋外に立っているかのように、周囲が鮮明に見えるようになった。
私の思考を読み取ったかのように、真夏の熱気までもが押し寄せてきた。牢屋の奥から彗星のごとく火球が飛び出し、私の眼前に立つ三体のブスカズへと降り注ぐ。それは壮絶な大爆炎となって炸裂し、その樹木の魔物たちを根こそぎ焼き尽くした。
「アルウィン、助けて!」牢屋の中からリリヤの叫び声が上がった。
司祭は駆け出した。
私は振り返り、長剣を構えて残る二体の怪物と対峙した。
左手にいた一体が、剣の切っ先を素手で掴もうとしたが、私が素早く剣を引くと、その接触は断ち切られた。
怪物が苦悶の声を上げている隙に、私は右手にいた一体へと肉薄した。渾身の横薙ぎの一撃を放ち、その胴体を深く切り裂くと、怪物は横倒しに吹き飛んだ。
続いて、最初の一体へと頭上から一撃を叩き込んだ。その頭頂部に広がる傘状の冠を真っ二つに断ち割り、怪物を床へと崩れ落とした。残る一体に向け、私は逆手で水平に一閃を放った。怪物は二本の蔓を伸ばしてその一撃を受け止め、辛うじて防いだが、その代償として自らの肢を切り落とすこととなった。
痛みに喘ぎ叫ぶ怪物の頭上へ、私は刃を振り下ろし、その頭を真っ二つに叩き割った。
訪れたばかりの静寂の中、私は燃え盛る「バスカズ」の音を聞いた。つい先ほどまで生命の潤いを湛えていた木々が炎に焼かれ、パチパチと爆ぜる音が響く。そして、アーウィンの祈りの声も聞こえてきた。
振り返ると、リリヤの腕に抱かれて地面に座り込んでいた人型の存在から、アーウィンが立ち上がるところだった。
祈りによって蘇ったその存在は、立ち上がった。すらりと背が高く、人間にしてはあり得ないほどに細身の姿だ。
私の身長とほぼ互角、わずか二インチ(約5センチ)ほど低いだけのその姿は、まるで一陣の風が吹けば、風に舞う花びらのようにどこかへ運ばれていってしまいそうなほど儚げに見えた。その装束もまた、異様なものだった。
私はそれが、「マン島」の魔術師たちの制服であることに気づいた。彼らは危険な魔術実験に没頭するため、世俗の社交界から身を隠して暮らしている者たちだ。鍔に首当てが縫い付けられた、高く尖った青い帽子。長いローブ。そして黄金の鎖で留められたマント。そのすべてに、微細な黄金の星屑のような模様が散りばめられていた。魔術によるものか、あるいは松明の光が織りなす錯覚か、その星々はまるで本物の星のように瞬き、膨張と収縮を繰り返しているように見えた。
だが、その装束を異様なものにしていたのは、そうした意匠そのものではなかった。私はこれまで数多くの魔術師と出会ってきたし、もっと奇妙な格好をした者たちも見てきたからだ。いや、その制服を奇妙なものにしていたのは、それが着る者本人以上に、どこか儚げで実体のない雰囲気を漂わせていた点にあった。地下牢特有の微かな気流に乗り、その衣はひらひらと舞い動く。対照的に、私の人間の仲間たちが身につけた衣服は、微動だにしていなかったというのに。
「タイダラの布か」私は呟いた。「ということは、お前はエルフなのだな?」
「その通り」エルフは答えた。「私は、ワナール・ニアリのアリヤサナだ」




