黒牢の獣
本章には低地ドイツ語の用例が含まれているが、これらは、物語の登場人物たちの情報が制限されているのと同様に、読者の知り得る情報を制限する目的で、あえてそのまま残されている。
リリヤと私は、老司祭の後を急いで追った。
少女は私の長い歩幅についていけず遅れをとったが、私は立ち止まらなかった。少女は、人目につかない場所でこそ真価を発揮する娘だと知っていたからだ。
私はアルウィンに追いついた。彼はその年齢にしては驚くほど敏捷で、雷鳴のような足音が響いてくる方角へと向かう途中、私は彼を追い越した。独房の迷宮に迷い込むかもしれないという懸念は、もはや頭から消え失せていた。
やがて、咆哮が聞こえてきた。それは確かに人間のものに似ていたが、はるかに大きく、重々しく、そして言葉に尽くしがたいある種の特質を帯びていた。その声が露わにするあまりにも深い「人間性の欠如」に、私の内奥にある何かが本能的に身の毛をよだてた。
角を曲がると、それはそこにいた。
私の目算では、身長10フィート(約3メートル)、体重70ストーン(約450キロ)はあろうかという、よろめく巨体が近づいてくる。その岩塊のような頭部は、うつむくように垂れ下がっていた。その身にまとった唯一の衣類といえば、粗雑に縫い合わせた数枚の鹿革を麻縄で括り付けただけの、ささやかな腰布だけであった。その肌は樹皮のようにゴツゴツとしており、切り株のごとく太い腕や脚には、毒キノコや苔までが生えている始末だ。トロールの頭部から胸元にかけて生い茂る、長く縮れた黒い毛が、こちらへ向かってくる動きに合わせて揺れ動いた。
「『Deus iudicat iustos, et irascitur Deus impiis per singulos dies. Nisi conversus fuerit, acuet gladium suum, tetendit arcum suum et paravit eum. Et paravit ei vasa mortis, et sagittas suas adversus persecutores destinavit!(神は義人を裁き、日々、不敬な者に対して怒りを燃やされる。もし悔い改めなければ、神は剣を研ぎ澄まし、弓を引き絞り、その構えを整えられるだろう。そして死の器を用意し、追いたてる者たちに向けて矢を放たれるのだ)』」アルウィンは祈りの言葉を叫びながら、私を押し退けるように前へ出た。その伸ばされた手には、ロザリオが絡みついている。
突如として、彼の手の前に七つの小さく繊細な、淡い黄金色の光の輪が花開いた。そこから放たれた矢は、まるで最高純度の黄金を削り出して作られたかのような、眩い輝きを放っていた。
矢はトロールに命中した。四肢に一本ずつ、そして胸元には三角形を描くように三本が突き刺さる。矢は、そこに肉体など存在しないかのように巨体を真っ直ぐに貫き、獣から再びあの忌まわしい咆哮を引きずり出した。
その距離まで近づくと、私は獣の吐く息の臭いを嗅ぐことができた。それは、腐りかけた堆肥と淀んだ水が混じり合ったような、鼻をつく悪臭であった。
鶏の卵ほどもある青い血の雫が、獣の体から雨のように降り注ぎ、床の上に水たまりを作っていった。トロールが突進してきた。その不格好な巨体を必死に操り、彼なりに精一杯の走りを披露しようとしているかのようだ。速度は上がったものの、足元はおぼつかない。衝突寸前まで迫った壁を両手で押し返して軌道を修正したり、つまずいて地面に叩きつけられそうになるたび、その重い体を両手で支え直したりしながら進んでくる。
アルウィンは迫り来る巨獣を避けるため、右手の廊下へと慌てて逃げ込んだが、私はその場に踏みとどまった。
私は、この怪物がその巨体の割には俊敏であるものの、動きは極めて不器用で、あまりに巨大すぎるゆえに精密な動きで対抗することは不可能だと判断していたのだ。
だからこそ、私は待った。
怪物が私の間合いに入り込むやいなや、右手を大きく振り上げた。まるで人間が虫を叩き潰すように、私をぺしゃんこに押し潰すつもりなのだろう。
振り下ろされるその手を注視しながら、私は次の一手のタイミングを慎重に見極めた。私は左へと激しく転がり身をかわすと、素早く立ち上がった。
怪物は進路を変えようとし、今度は左手で私を叩き潰そうと腕を振るった。
私は手にしたポールアックス(長柄斧)の槌部分を、怪物の膝の側面に叩き込んだ。
相手が人間であれば、鋼鉄がへこみ、骨が砕け散る音が私の戦果として響き渡ったことだろう。だが、この怪物を相手にしては、私のポールアックスは膝から弾き返されてしまった。まるで、硬い岩盤にツルハシを打ち込んだかのような手応えだ。
しかし、その一撃は決して無駄ではなかった。怪物がよろめき、体勢を崩したその隙に、私が放った衝撃が効いたのだ。トロールは私の回避行動を滑稽になぞるかのように、頭からひっくり返って転倒した。
トロールは立ち上がると、突き出した円筒形の鼻から荒々しく鼻息を吐き出した。幾重にも重なった皮膚のひだの奥から、その小さく窪んだ瞳が私を睨み据える。その眼差しには、かつて人間同士の戦場で幾度となく目にしてきた、「戦士の言葉」が宿っていた。
「今回は運が良かったな。だが、次もそうはいかないぞ……」そう語りかけているかのようだ。
トロールが、再び突進してきた。
私はその場に踏みとどまり、ポールアックスを正面へと高く掲げた。その切っ先には、鋭く尖った凶悪な穂先が突き出している。
トロールは四本の指を持つ左足をしっかりと踏みしめると、右足を振り上げ、私目掛けて蹴り込んできた。
私は左へと身を投げ出し、その蹴りを回避した。だが、安堵する暇などない。空高く振り上げられていたその足が、今度は私目掛けて急降下してきたのだ。それは、私の鎧はおろか、その下の肉体までもをも粉砕しかねない、あまりに凄まじい「踏みつけ」の一撃だった。両手を自由にして脱出の確率を高めるため、私は手からポールアックスを放り投げた。うつ伏せに転がると、両手を使ってその場から勢いよく身を押し出した。
背後で、肉塊が石に叩きつけられるような生々しい音が響いた。トロールの巨大な足が、私ではなくただの石床を打ち据えた音だ。
私はロングソードを抜き放ち、その場で素早く身を翻すと、トロールが踏みしめている足目掛けて突進した。剣の切っ先は、その太い脚の側面を狙っていた。
だが、遅かった。
トロールの裏拳が上から振り下ろされた。私の剣はその腕を確かに貫いたものの、一撃のあまりの衝撃に私は足元から浮き上がり、壁へと叩きつけられた。
硬い石壁に激突し、肺の中の空気がすべて押し出された。
しかし、トロールは追撃を仕掛けることができなかった。自らの手に負った傷を、まじまじと検めている最中だったからだ。
私は立ち上がり、次の一撃に備えて体勢を立て直した。
ヒュン…ゴツッ!
その物音はトロールの背後から響いてきた。最後の音は、そのもつれた黒い毛並みをざわつかせるほどの衝撃を伴っていた。トロールが振り返ると、その動きの隙間から、私は廊下の反対側の様子を垣間見ることができた。
そこに立っていたのはリリヤだった。手には投石紐を構え、すでに次の石を放つ準備を整えている。
恐ろしいことに、トロールは彼女目掛けて突進していった。
私は剣を鞘に収め、ポールアックスを手に取ると、その獣の後を追って走り出した。
ヒュン…ゴツッ!
私が素早く駆け寄っていくと、トロールは突然立ち止まり、顔を押さえてよろめきながら後ずさった。その隙を突き、私は跳躍してポールアックスを奴の背中に叩き込んだ。刃はキノコ、毛皮、そして肉を断ち割り、鮮血を噴き出させながら、怪物の体内に深く食い込んだ。
私はポールアックスを足場に体をよじ登り、片手で毛皮を掴み、もう片方の足を怪物の背中に乗せて体勢を整えた。そして空いた手で長剣を抜き放つと、兜の視界窓越しに松明の光を頼りに見定めた、怪物の肋骨と肋骨の隙間目掛けて剣を突き立てた。
押し殺したような咆哮が上がり、私の剣が急所を捉えたことを告げていた。
しかし無情にも、私は怪物の巨大な手に背中から鷲掴みにされ、廊下の奥へと放り投げられた。
どうにか受け身をとって転がり続け、やがて私は再び大地に足をつけることができた。
トロールは背中に突き刺さったポールアックスを引き抜くと、それを無造作に放り捨てた。
思考を巡らせる暇などなかった。獣は再び私に襲いかかり、拳を高く掲げ、渾身の一撃を放つべく大きく振りかぶっていたからだ。
拳が振り下ろされ始めた瞬間、私は一歩後ろへと下がった。その結果、怪物の拳は私の頭上を空振りし、足元の石床へと激突した。
そして、拳が床に着弾したその刹那、私は剣を構えたまま、怪物の太い前腕を駆け上がった。
怪物のもう片方の手が私の進路を塞ぐように動いたが、私はその手へと飛び移り、一瞬だけそこを足場にした。
反対側の手に足がついたかと思うや否や、私は再び跳躍した。剣を真っ直ぐに突き出し、リリヤの投石紐の一撃で腫れ上がった怪物の目玉へと、その鋼の刃を深々と突き立てたのだ。
トロールの目玉に柄まで埋め込まれた私の剣は、怪物の全身を激しい痙攣と共に硬直させた。
私は剣の鍔をしっかりと掴むと、そのまま刃を捻り上げた。広がりゆく穴からは血の混じったゼラチン状の液体が滲み出し、その怪物はその場でふらりと揺らいだ。
私は剣を力任せに引き抜き、両足でトロールを蹴り飛ばす勢いで、宙返りを打ってその場を離れた。
怪物が床に叩きつけられるよりも早く、私はすでに両足で着地していた。
怪物が床に激突した際の凄まじい振動が収まると、私は歩み寄り、その喉を切り裂いて完全に息の根を止めた。
アルウィンが姿を現した。その顔には驚愕の色が浮かんでいたが、彼はすぐに気を取り直し、トロールに向かって祈りの言葉を呟いた。
「怪物なんかに感傷的になってる暇はないわよ、急いで移動しなきゃ!」リリヤが叫びながら駆け寄ってきた。その細腕には、私のポールアックスが不器用に抱えられていた。
「依頼の件はどうなった? 彼女はこの階にはいないのか?」私は武器を受け取りながら尋ねた。
「扉は全部確認したけど」彼女は首を横に振った。「お守り(アミュレット)に何の反応もなかったわ。ほら、斧を持って、さっさとここを出ましょう」彼女は私の武器を私に手渡した。
「よし、わかった」私は同意した。「案内してくれ」
リリヤが自分のポール(長柄武器)を回収すると、私たちは出発した。
鎧を身にまとった今の私にとって、衛兵など脅威でも何でもなかった。牢獄の通路を進む中でさらに五人の衛兵と遭遇したが、彼らもまた、私のポールアックスが振るう槌の一撃によって命を落とした。
脱出を阻む真の、そして最後の障害。それは階段――いや、正確には「階段がないこと」だった。
「巻き上げ機式の昇降台か……だが、こっち側にはウィンチがないぞ。一体どうやって脱出するつもりだ?」アルウィンが不満げに呟いた。
「あのちっぽけな泥棒仲間に、何か妙案があることを祈るしかないな」私はそう答えた。
「私がよじ登って脱出するわ。そしたら、向こう側から昇降台を下ろして、あんたたちを巻き上げてやる」リリヤはそう言いながら、思案顔で手にしたポールを地面にトントンと叩きつけた。
「ちびっこの娘っ子が一人でウィンチを回すだって? 俺たち男二人が乗った状態でか? 無理に決まってるだろう」アルウィンは笑い飛ばした。
「じゃあ、私は一人でよじ登って脱出するわよ。あんたたちはそこで朽ち果ててなさい」リリヤは肩をすくめてみせた。
「ロープだ」私はようやく口を開いた。
二人は動きを止め、私の方を振り返った。
「お前がロープを持ってよじ登るんだ。頂上までたどり着いたら、そこから私たちに向かってロープを投げ下ろしてくれればいい」私はそう締めくくった。 「ウィンチは40フィート上まで伸びてるわよ。あんたなら登れるかもしれないけど、この年老いた神父様には無理な相談でしょうね」リリヤは鼻を鳴らした。
「気遣いはありがたいが、嬢ちゃん。他に逃げ道がない以上、どうにかやってみるさ」アーウィンはかすれた声で少女に答えた。
「ただ、最初に私が登る必要がある。上まで着いたら、アーウィンのためにウィンチを下ろしてやるよ」
「40フィートもあるロープなんて持ってるの?」リリヤは信じられないといった目で私を見た。
「この牢獄には、この大陸では50年近く姿を見せていなかった成体のトロールが収容されていたんだぞ。ロープの一本くらい、きっと置いてあるはずだ」私は言い返した。
「はいはい、分かったわよ。じゃあ、探してみましょうか」リリヤは呆れたように目を回した。
まず私たちは、牢番の部屋へと向かった。棚をくまなく調べてみたが、ロープらしきものは一切見当たらなかった。
「兵舎の方にあるんじゃないか?」私は提案した。
「あそこには衛兵が8人もいたのよ。もし、とっくに脱走してしまっていなければの話だけどね!」リリヤは私の提案を笑い飛ばした。
「もし脱走していたとしても、階段の下で立ち往生しているはずだ。スパイクを引っ込めてくれる人間がいないのだからな」私は反論した。
「その通りだ。それに、リリヤのあの鞄の中には、また新たな『秘策』が詰まっていることだろう。もしかすれば、衛兵の集団を一網打尽にできるような代物がな」アーウィンはくすりと笑った。
「一つだけならあるけど、できれば温存しておきたいわね。……いいでしょう。階段の方へ行きましょう」リリヤは同意した。
私たちはなんとか棘の階段へと戻ってきたが、近づくにつれ、下の方から怒号が聞こえてきた。
「……...se hebbt uns hier ünnen infungen!」一人の声が叫ぶ。
「Smiet den verdammt Schalter üm!」別の声が続いた。
「いっそ棘を一度下げて、何人か突っ込んできたところで、また一気に突き上げたらどうかしら?」リリヤが提案した。
「騎士にあるまじき卑劣な手だ。階段は狭いのだから、奴らを上がらせろ。私が一人ずつ叩き潰してやる」私は反論した。
「ええ、もちろんですとも、騎士様。私たち三人組が、武器と鎧で固めた八人の男たちに対して、不当な優位に立とうなどとは思いもしませんわよね」彼女は呆れたように目を回してみせた。
彼女がレバーへと歩み寄るのを見て、私は身構えた。
棘が、音を立てて沈み込んだ。
下から男たちの歓声が上がり、続いて鋼の武器を構えて突進してくる音が響いた。
やがて、先頭の男が角を曲がって姿を現し、その後ろから仲間たちが続いた。彼は私を目にして、ぴたりと足を止めた。
「そこのお前、こっちを見ろ! 名は何と申す!」
「私はサー・グリムワルドゥス・ヴァンス」私はそう宣言した。相手の言葉をある程度理解できたため、名乗りを求められているのだと分かったからだ。「女王陛下――エル……の黒騎士――」
「ぐあああッ!」棘が突き上がり、足元を貫いた兵士たちが悲鳴を上げた。
私が振り返ると、ちょうどリリヤが私の横をすり抜け、スリング(投石紐)を振り回し始めたところだった。
「お邪魔して悪かったわね、騎士様」彼女が放った石が兵士の一人に直撃し、その場に叩き伏せた。「あなたが自分の肩書きをひけらかすのが大好きなのは知ってるけど、私はこんな臭くてクソったれな穴から、一刻も早く抜け出したいのよ!」彼女はまた一つ石を放ち、頭部に直撃させて別の兵士を仕留めた。
私は棘を再び下げ、階段の踊り場へと戻った。
下には四人の男が倒れ伏し、足や頭から血を流していた。
私は階段を降り始めた。
「正気なの!?」少女が鋭く問い詰めた。「奴らはあなたが降りてくるのを待ち構えているのよ!」
私は彼女を無視し、そのまま降り続けた。
「殺されるわよ、この大馬鹿者!」彼女はなおも叫んだ。
私は最後の段まで降りきると、開口部の左右に潜む何者かに向かって、その姿を現した。私は手にしたポールアックスの穂先を、そっと突き出した。
ヒュッ――ガァンッ!矢がポールアックスの斧頭に命中した。その斧身に映り込んだ像を通して、私はあるものを見た――私のポールアックスの頭部を叩き砕かんと振り下ろされる、戦槌の姿を。
私は素早くポールアックスを引き戻した。
戦槌を振り下ろした男は、勢余って体勢を崩した。その頭部が、一瞬の隙間から覗く。
私は自らの戦槌を振り下ろし、その頭を粉砕した。
「先ほども申した通りだ。私は、エリザベス一世女王陛下の『第33黒色旅団』に属する、グリムワルドゥス・ヴァンス卿である。私は完全武装を整えている。己の命が惜しければ、直ちに武器を捨てよ。そうすれば命だけは助けてやる。だが、この命に従わぬならば……死あるのみだ」私はそう告げた。
ざわめき。
怒りに満ちた、執拗な呟き。
武器がぶつかり合う金属音。
足音。
リリヤが姿を現し、私に鍵を手渡した。私はそのまま、下へと降りていった。
三人の男が立っていた。鎧は身につけていたが、武器は床に置かれていた。彼らは私を凝視し、その瞳からはあからさまな軽蔑の念が送られてきていた。
私は一番近くにあった牢の扉を開けた。中は空だった。そして、男たちに中へ入るよう手で合図した。
男たちは顔をしかめ、不満げな声を上げた。
私は手にしたポールアックスの石突を、床にドンと打ち鳴らした。
男たちは牢の中へと入っていった。
私は彼らを中に閉じ込め、鍵をかけた。
「必要なものが手に入り次第、解放してやる」私はそう告げた。「リリヤ、兵舎を捜索してこい」私は命じた。
「あの子なら、もう行ってしまったよ」アーウィンが教えてくれた。
「子供というものは、言われずとも自分の務めを果たすものだ。実に結構なことだ」私は冗談めかして言った。
「あの子は秩序を渇望しているようだね」アーウィンは薄笑いを浮かべた。「もしあの子に親族や両親がいるとしたら、それはブリタニアの女王である君の方だろうさ」
「言葉に気をつけろよ、北の男。我が女王に対する侮辱は、決闘の口実となるぞ」
「私には私自身の女王がいる。君の女王など、私にとっては無に等しい」司祭は肩をすくめた。
「どうやって『壁』の向こうへ行く許可を得たんだ?」私は尋ねた。牢の暗闇の中でアルバの訛りを聞いた時から、ずっと抱いていた疑問だった。
「外交任務だよ。どちらの女王も、ウルリヒとその忌々しい塔を好んではいない。彼女たちは、ウォルターにこの王国を併呑させ、すべてをドイツ騎士団の支配下に置こうとしているのさ。魔法の石を手に大陸征服を企む狂人がいないと分かれば、エウロパエア中の人々も少しは安らかに眠れるようになるだろうからな」
「つまり、あの噂は本当だったというわけか?」私は片眉を上げた。狂王の陰謀については、これまで囁き声で聞かされた断片的な情報しかなかったからだ。彼を討ち取るために派遣された身でありながら、その理由までは知らされていなかったのである。
「ああ、もちろんだとも」アーウィンはため息をついた。「王冠を戴いた人間が、世界中をその支配下に置こうと夢見ないことなどあり得ない。ましてや、魔法の石など手に入れたとなれば……なおさらさ」
「縄、見つけてきたよ」リリヤが宣言した。彼女が戻ってきたことには、全く気づいていなかったのだが。
「よし、それなら彼らを兵舎へ戻し、我々はあの杭を引き上げることにしよう」私はそう告げ、扉を開けた。
男たちは牢から出ていった。ポールアックスの穂先で進むべき方向を指し示すと、彼らは素直に従った。
私たちは背後のスパイクを引き抜き、昇降機のある場所へと引き返した。
リリヤはロープを片方の肩に回し、探索用の棒をアーウィンに手渡すと、昇降機の枠組みを登り始めた。私にはあまりに繊細すぎて、到底真似のできない身のこなしだった。
数分後、彼女はロープを垂らしてきた。
私は登り始めた。
壁に体を支えながら、手繰り寄せるようにして一歩ずつ上へ向かう。登るにつれ、空気は研ぎ澄まされ、より清らかに、そして何より自由なものへと変わっていくのが感じられた。
ついに私は崖の上へと這い上がり、立ち上がった。神に感謝を捧げつつ、私は「黒牢」の外、再び自由な世界へと戻ってきたのだ。
兜を脱ぎ捨てると、私は大きく息を吸い込み、潮風が髪を撫でる感触に身を委ねた。耳は、フクロウの鳴き声や虫たちの歌声を貪るように捉えていた。黒牢に響いていた、あの単調な反響音はもうどこにもない。
そこは中庭だった。周囲には標的や訓練用の人形が並び、鎖帷子を磨くための砂入り樽が、ごつごつとした灰色の石壁に沿って積み上げられている。まさに、訓練場そのものだった。
「あいつをあのまま下に置き去りにしたい気持ちは山々だけど、あなたはそうしないんでしょうね」リリヤが念を押すように言った。
「もちろんだ。聖職者の方を待たせるような真似はすまい」
私は少女に兜を預けると、巻き上げ機を掴み、穴の開いた地面から5フィート(約1.5メートル)ほど上に吊るされていた昇降機を降ろし始めた。
「全員乗ったぞ!」穴の底からアーウィンが叫んだ。
私は彼を再び引き上げた。
昇降機から降りたアーウィンは、リリヤに探索用の棒を返すと、訓練場の土の上へ数歩進み出て、その場にひれ伏して祈りを捧げ始めた。
私は彼の傍らに膝をつき、その背に手を添えて、彼と共に主への祈りに加わった。




