夜の盗人のように
「武器も鎧もなく、地図はおろか何の情報も持ち合わせていないというのに、狂王に立ち向かうつもりだなんて?」黒い石造りの廊下に立ち、自分たちの置かれた状況を説明し終えた私たちを、呆気にとられた様子で見つめながら、少女は尋ねた。その声は、がらんとした廊下のあちこちに響き渡った。
「奴と初めて対峙した時は、もう少しで勝てるところだった。再戦を挑むのが、私の務めなのだ。……ああ、お前が投げたナイフなら持っているが、それ以外には何一つないな」私はそう答えた。
「持っておきなよ。どうせ私は、石ころだらけの農場を相続したばかりなんだから」少女はため息をついた。
壁から取り外した松明の明かりに照らされ、少女の姿がはっきりと浮かび上がった。
彼女はひどく若く、黒い制服に身を包んだその姿は、まるで影のようだった。顎のラインは短く、小さく上を向いた鼻。その顔の輪郭を、濃く太い黒髪が縁取っていた。深く被った頭巾の奥から、重たげな瞼に縁取られた、眩いばかりに緑色の瞳が私をじっと見据えていた。居心地の悪いことに、彼女は外套の下に鎧を身に着けていた。少年のものらしき黒いチュニックの上に鋲打ちの革製胸当てを重ね、膝当てや肘当てには鋼鉄を用い、足元は革製の長靴で固めていたのだ。
「五十ソブリンだぞ」私は念を押した。
「五十ソブリンね。世界中の願い事がすべて叶うほどの価値があるわ。……もっとも、預かり証が手元にあればの話だけどね。その預かり証とやらも、あんたの他の持ち物と一緒に、どこか別の場所に置きっぱなしなんでしょ? つまり、ここにはないってことだよね?」少女は呆れたように目を回した。
「ああ、その通りだ。だが、ぐずぐず文句を垂れるより、さっさと動いてくれた方が、お前も早く金を受け取れるぞ。ところで、どうやってここまで降りてきたんだ? 戻るにはどっちへ行けばいい?」アーウィンが口を挟んだ。彼が動くたびに、手枷の壊れた鎖がジャラジャラと音を立てた。
「あっち」少女はニヤリと笑うと、右手の廊下の奥を指差して腕を上げた。
アーウィンはその方向へ一歩踏み出した。だが幸運なことに、私はすかさず彼の腕を掴み、それ以上進ませずに済んだ。
「一体何を……」アーウィンが抗議しようと口を開いた。
「足元に感圧式の仕掛け(プレッシャープレート)がある。足をどけろ」私は急き立てた。
アーウィンは足元を見下ろすと、素早く後ろへと飛び退き、私の手から逃れた。
「それが面白いとでも思ってるのか!?」アーウィンは、今やクスクスと笑い始めている少女に向かって怒鳴りつけた。「危うく殺されるところだったぞ!」 「道順を聞かれただけで、どうやって生き延びるかまでは聞かれてないわよ」少女は肩をすくめた。
彼女は向きを変え、左手の廊下を数歩進むと、長さ7フィート(約2.1メートル)、直径0.5インチ(約1.3センチ)ほどの木の棒を手に戻ってきた。少女は、あわやアーウィンを犠牲にしかけた感圧板を、その棒で突いた。
突如として、廊下の左手側から3本の矢が飛び出し、右手の壁に激突して火花を散らした。
罠が無力化されたのを確認し、私は火花が散った壁の箇所を調べに向かった。火花が飛んできた方向を辿っていくと、左手の壁に、およそ1フィート(約30センチ)間隔で並んだ、ほとんど目立たない3つの金属製の輪を見つけた。
「お前、少女よ。名はなんと申す?」私は驚嘆して尋ねた。
「そっちが先に名乗りなさいよ」彼女は肩をすくめた。
「私はグリムワルドゥス・ヴァンス卿。エリザベス一世女王陛下の『第33黒色旅団』に属する者だ」
「エアのアーウィンだ」
「私はリリヤ。ディミテルの娘だ」
「イリュリクムの出と見たが、相違ないか?」
「その通りよ」
「どうやってブリタニク語を習得したのだ?」私は尋ねた。
「あなたたちに情報を教える義理はないわ。行くわよ。この『黒牢』に長居するのは、死を招くようなものだもの。私のすぐ後ろについてきて、そこの騎士さん。あなたに松明持ちの役目をあげるわ」そう言い残すと、少女は返事を待つこともなく、右手の廊下へと足を進めた。手にした棒を探索棒代わりに、狭い通路の左右を払いながら進んでいく。
アーウィンはため息をつき、首を横に振った。
私もまた、彼に同意せざるを得なかった。
私たちは少女の後を追った。足音が廊下に虚しく響く。壁も天井も床も、すべてが同じ単調な黒い石で造られていた。松明を掲げた壁掛け灯も、先ほど目にしたものと寸分違わず、同じ間隔で配置されている。
「気が狂いそうだ、この地下牢は。延々と歩き続けているのに、まるで一歩も進んでいないような気分だ」アーウィンは、私が心の中で密かに抱いていた感想を、そのまま口にした。
「確かに。それこそが『黒牢』という場所の本質なのだよ。己の独房から脱出したところで、それは単に、新たな形の拷問に出会うことに過ぎないのだからな」私はそう答えた。
「止まれ」少女は、驚くほど力強い声で命じた。目を向けると、彼女が手にした棒で何かを探っているのが見えた。
壁の燭台に灯された松明の炎が、一瞬ゆらりと揺らいだ。その炎の動きが絶妙な角度で光を投げかけ、私はあるものを捉えることができた。廊下の幅いっぱいに張り巡らされた、髪の毛ほどの細さしかないワイヤーだ。それは地面からわずか5インチ(約13センチ)の高さに張られており、光を反射してきらりと光っていた。
リリヤは、背中とマントの隙間に手を差し入れた。
金属製のボタンが外れる音と、何かを探り回る音が聞こえてきた。
やがて彼女は、奇妙な形をした鋏を取り出した。ロープの端から端まで指先で感触を確かめると、彼女の基準にかなうと思しき場所で、そのワイヤーをパチンと切り落とした。
細い金属のワイヤーは、カチャリという小さな音を立てて床に落ちた。
「それは……?」私は尋ねた。
「おそらく、黒色火薬の起爆装置でしょうね。あるいは、警報装置か。正体が分からずに済んで、心底よかったと思いますよ」リリヤはそう答えた。
私たちの一行は、無言のまま歩を進めた。ダンジョンが放つそのあまりに重苦しい空気に、誰もが言葉を失っていたのである。
進むにつれて、床が濡れてきていることに気づいた。確かに、この地下牢は常に湿り気を帯びていた。それは、内部に囚われた者たちを苦しめるべく、カビや菌類を繁殖させるために意図的に施された構造だったが、この場所では、正真正銘の水たまりがいくつもでき、天井からは水滴が滴り落ちていた。その水滴が、広大でがらんとした地下牢の空間に、虚しく響き渡る。
やがて、奇妙な物音が聞こえてきた。ガリガリと引っ掻くような音や、キーキーという鳴き声だ。
思い切って松明を前方へと突き出すと、私が作り出した新たな影の中に、六つの小さな赤い光が浮かび上がった。
「ネズミね」少女が顔をしかめる。どこから取り出したのかは定かではなかったが、刃が鞘から抜かれる音が耳に届いた。
彼女がどんな武器を手にしているのかと目を向けると、そこには一本の「カンジャル」があった。白い柄は細く繊細でありながら、刃は巨大な鷲の爪のように幅広く湾曲し、柄の近くには金の装飾が施されていた。
「私には武器がないわ……」アーウィンが思い出したように言った。
「足枷の鎖を振り回して戦え。俺は投げナイフで対処する。少女、一度下がって俺にネズミを引きつけさせろ。奴らの注意が俺に向いたら、その隙に飛び込んで攻撃するんだ。アーウィン、俺の横をすり抜けてきた奴は鎖で叩き払え。ただし、距離は保つように」私はそう指示を出すと、松明を掲げて先頭に立った。その松明の陰に隠すように、右手に短い投げナイフを握りしめて。
巨大ネズミ――冒険を生業とする者たちからは「ダンジョン・ラット」と呼ばれ、拡大を続ける都市ルンデンウィックの住人たちからは単に「下水ネズミ」と呼ばれるこの獣たちは、他のネズミと同様の性質を持ちながらも、いくつかの重要な点で異なっていた。
私が対峙していたのは、まさにそんな獣たちだった。
豚ほどの巨体、汚れて毛玉だらけになった白い毛皮、そして赤く充血して飛び出したような目。奴らは私をじろじろと値踏みするように見つめ、その視線に知性の片鱗を滲ませていた。
先頭にいた中央の個体が、私に向かって「シューッ」と威嚇の声を上げ、黄色く変色した四本の長く湾曲した牙を剥き出した。
私は松明を突き出し、その獣を牽制するように突き入れた。すると、獣は怯んだように後ずさった。
その隙を突いて、一番左にいたネズミが突進してきた。私から数フィートの距離まで一気に駆け寄り、大きく跳躍して宙に舞い上がる。
私は隠し持っていた投げナイフを突き出した。刃は獣の胸に深く突き刺さり、血飛沫が上がると同時に、獣の体が痙攣する感触が手に伝わってきた。流れ出した血は私の腕を伝い、身に纏っていた黒いチュニックを赤黒く染め上げていった。天を仰いでいた私の腕の下を、一陣の風が吹き抜けた。私が咄嗟に振り返ると、そこには影のように地面すれすれを走るリリヤの姿があった。揺らめく松明の光を反射してきらめく彼女の湾曲した短剣が、群れの中央にいたネズミの両目を突き砕いた。
視力を失いもがき苦しむネズミから、おびただしい血が噴き出し、耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。
リリヤは右端にいたネズミの脇腹を突き刺そうとしたが、そのネズミは素早く廊下を駆け抜け、私の背後を通り過ぎて、待ち構えていたアーウィンの腕の中へと飛び込んだ。アーウィンは左腕の鎖をネズミの頭上へと叩き下ろし、間髪入れずに右腕の鎖も打ち下ろした。
私は剣に突き刺さったままのネズミを床に叩きつけ、アーウィンに襲いかかっていたネズミが私に背を向けた隙を突き、その脊椎へと剣を深々と突き立てた。
断末魔の悲鳴を一度上げたのが最後、そのネズミは自らの血溜まりの中に崩れ落ちた。
私はネズミたちが最初に現れた場所へと視線を向けた。その一帯からはもはや物音一つしなかったが、そこにネズミが一匹と、リリヤがいることは分かっていたからだ。
そして、その理由を悟った。
群れの中央にいたネズミの喉は切り裂かれており、その命の音は永遠に絶たれていたのだ。
「全員、片付いたか?」私は戦場と化した廊下に向かって声を張り上げた。
「ああ」とアーウィンが応じた。
「こいつらは死んだよ」リリヤは足元に転がるネズミの死骸を蹴り飛ばし、剣についた血を拭って鞘に収めた。
私は意識を現場の調査へと切り替え、ネズミたちがここに集まっていた理由をすぐに突き止めた。別の誰かが牢屋からの脱獄を試みたものの、その代償としてネズミたちの餌食となってしまったらしい。
頭部と両手は食い尽くされ、噛み砕かれた骨だけが残っていた。肋骨がむき出しになっていたが、それはネズミたちが食い破ったからではない。
「ここに転がってから、ずいぶん経つな」アーウィンが口を開いた。「その靴に見覚えがあるぞ。オットー・ヘンスラーだ。テウトニア随一の大商人、ゲルハルト・ヘンスラーの四男坊だったはずだ」
「一体全体、何をしでかしたら『黒牢』に放り込まれることになるんだ?」私はそう呟きながら、豪華な家紋が刺繍され、贅を凝らした職人技の跡が残る彼のダブレット(上着)を検分した。
「狂王が増税や関税の引き上げを断行し、さらにカーンの残党である野蛮人どもが商人たちを好き勝手に襲うのを黙認するようになって以来、ゲルハルトの商売はここ最近、大打撃を受けていたからな」とアーウィンは説明した。 「それじゃ、お祈りを済ませてから出発しよう」と私は提案した。
アーウィンが遺体の上で両手を掲げると、私たちは目を閉じ、頭を垂れて彼の祈りに耳を傾けた。
「不義の交わりから生まれた子らは、神がその親を裁く時、親に対する悪の証人となる。だが、正しき者は、たとえ若くして命を落とそうとも、安らぎの中に憩うであろう。人の老いとは、単に生きた年月の長さによって尊ばれるものではなく、年齢の数によって測られるものでもない。真の白髪とはすなわち人の知恵であり、真の老いとは、汚れなき人生の円熟を指すのである」
目を開け、顔を上げた私が目にしたのは、遺体の所持品を漁っているリリヤの姿だった。
祈りを終えて顔を上げたアーウィンもまた、その忌まわしい光景を目の当たりにした。
「小娘め!」司祭は一喝すると、手にした壊れた鎖を振り上げ、猛然と突進して鎖を叩き下ろした。
鎖が振り下ろされたのは、ほんの一瞬前まで少女がかがみ込んでいた場所だった。だが彼女は巧みに身を転がしてそれを回避しており、結局、アーウィンの鎖は遺体の肩へと叩き込まれ、骨の砕ける音と鎖の金属音が虚しく響き渡った。
「アーウィン!」私は飛び出し、その老司祭を押しとどめた。彼には並外れた力があったが、どうにか抑え込むことに成功した。「死者の所持品を漁るなど、確かに極めて忌まわしい罪だ。だが、この娘は忌まわしき牢獄から脱け出す道を知っている。彼女こそが、我々にとって唯一の脱出の手段なのだ! 彼女に従い、この地下の闇ではなく、地上の自由な空気の下で彼女の告解を聞いてやるがいい」私は彼にそう命じた。
「この小娘めが……! 貴様……!」アーウィンは激しい怒りに我を忘れ、言葉を紡ぐことさえできずにいた。その顔は真っ赤に染まり、闇の中で異様なほどに赤く輝いていた。
「あの方の父上は、あの方の亡骸を返してほしいと願っておられるでしょう」背後から、娘の声がした。「『狂王』はそれを返そうとはしないでしょうから、我々はここを脱出しなければなりません。そうしてこそ、我らが勇敢なる騎士様が『狂王』を討ち果たし、あの少年もまた、キリスト教徒としてふさわしい葬儀を執り行ってもらえるのですから」
私が振り返ると、その娘は不敵な笑みを浮かべていた。
やがて、私の腕の中でアーウィンの体がふっと力を失い、脱力した。
「……その通りだ。だが忠告しておくぞ。二度と私の目の前で、敬虔なるキリスト教徒の死者の所持品を盗むような真似はするな。さもないと、主なる神の怒りを貴様に降り注がせてやるからな」アーウィンはそう警告した。その顔には穏やかさの中に暗い影が宿っており、私にはそれがひどく不気味に感じられた。
我々はあの凄惨な現場を後にし、リリヤの先導に従って奥へと進んでいった。
その浮浪児のような娘は、この場所の構造を肌で感じ取っているかのようだった。常に罠を見抜き、どの曲がり角へ進むべきかを迷うことなく知っていたのだ。
やがて、廊下を塞ぐようにして鉄の格子門が立ちはだかった。黒い石造りのアーチに太い鉄帯が打ち付けられた、厳重な扉だ。私は娘のそばへと歩み寄り、小声で尋ねた。
「一体どうして、これほどまでにこの場所のことに詳しいんだ?」私は声を潜め、娘にもそうするよう促した。彼女の口から出る答えが、アーウィンの怒りをさらに煽り立てるのではないかと恐れたからだ。
「あなたに質問する権利なんてないわ。もし私が道を間違えたり、罠や待ち伏せの場所へ導いたりしたなら、その時に問い詰めればいい。それまでは、ただ黙ってついてきなさい」娘はそう言い放った。
すると、カチリという音を立てて錠が外れた。
格子門は耳障りな金属音を立てて開いたが、その先には、地下牢の次の階層へと続く階段が確かに姿を現していた。
二人の同行者は、牢屋の天井ほどの高さしかない短い階段を駆け上がった。そして彼らを待ち受けていたのは、下の階と寸分違わぬ、単調で無機質な廊下の光景だった。
「『ブラック・セル』は三層構造になっている。今、我々は一体どの階にいるんだ?」私はその少女に尋ねた。
「あなたたちは最下層に収容されていたわね。ここは二階よ。ここから二層分上がれば、牢獄の外に出られる。でも、もう喋らないで。この階は罠が少ない分、看守の数が多いの」リリヤが警告した。
私は無言で頷きを返した。
階段を上りきった踊り場は、ある分岐点へと続いていた。壁の角を挟んで左右に二つの廊下が伸びており、それぞれが左へ、あるいは右へと続いていた。どの廊下にも壁掛けの燭台や松明が点在しており、階全体がオレンジ色に輝いていた。下の階にあったあの薄暗い陰鬱さは消え失せ、湿気や水滴の滴る音も止み、代わりに炎が放つ暖かさが満ちていた。
リリヤは身を低くかがめ、右手の廊下の壁伝いに忍び足で進んでいった。
私は忍び歩きなど試みようともしなかった。身長六フィート五インチ(約196センチ)もある私が隠密行動など取ろうものなら、それこそ滑稽な茶番になってしまうからだ。その代わり、私は少女から十二フィート(約3.6メートル)ほど距離を取り、彼女を一種の斥候役として先行させることにした。
だが、身を低くして進むその少女の姿は、まるで壁に張り付いた影そのものだった。
アーウィンが私のすぐ後ろに続いた。彼もまた身長六フィート(約183センチ)ほどあり、横幅も私に劣らずがっしりとしている。彼もまた直立したまま歩くことを選んだが、足音を立てぬよう慎重に歩き、私と同様に少女との距離を保っていた。
物音が耳に届くよりも一瞬早く、少女が拳を突き上げる合図を送った。それこそが、私たちに動きを止めるよう促す唯一の警告だった。
微かな話し声が廊下に響き渡り、あちこちの壁に反響しすぎて、その発生源を特定することさえ困難だった。
リリヤは指を二本立てて、廊下の三十フィート(約9メートル)先に開いた壁の窪みを指し示した。廊下と呼ぶにはあまりに奥行きのない窪みだったが、私にはその凹みがはっきりと見て取れた。
指を二本立てたというその合図から、私はその窪みの中に二人の男――看守たちが潜んでいるのだと推測した。アーウィンの方を振り返ると、松明の光に照らされた彼の風霜に耐え抜いたような顔立ちと、銀色の豊かな髭がくっきりと浮かび上がった。その老人もまた、私と同じ意味を読み取ったようだった。彼もまた、指を二本立てて見せたのだから。
再び少女のいる方へと視線を戻すと、彼女の手には一つの「投石紐」が握られているのが見えた。二本の細い革紐が、中央のやや幅広な革帯によって繋ぎ合わされた、ごく単純な作りの武器だった。彼女は、およそ3/8インチ(約9.5ミリ)ほどの丸い石を、投石器に装填していた。リリヤは投石器を勢いよく旋回させると、石を廊下へと放った。その石は、彼女の立つ位置からおよそ40フィート(約12メートル)離れた左側の壁に激突するまで、私の目には捉えきれないほどの猛スピードで飛翔していった。
話し声は、即座に途絶えた。
二人の男が、アルコーブ(壁の窪み)から盾を構えて姿を現した。彼らは短い槍を手にし、腰には片手剣を佩き、もう一方の手には小振りの円盾を携えている。その身はサレット(兜)、グリーヴ(脛当て)、ヴァンブレース(前腕当て)、ゴルジェ(喉当て)で固められ、その上には鮮やかな赤色のタブバード(上着)を纏っていた。そのタブバードには、鷲の爪に粗く輝く深紅の石が掴まれた、フォン・ロートシュタイン家の紋章が大きくあしらわれている。
リリヤは投石器を懐に収めると、短剣を抜き放った。
私もまた、投擲用のナイフを抜いた。
私たちは廊下を忍び足で進み――アーウィンも後に続いているものと踏んで――兵士たちの背後へと近づいていった。
「……to'n Düvel weer dat?」左側の兵士が、相棒に問いかけた。
もう一人の兵士は身を屈めており、どうやら先ほど投げ込まれた石を拾い上げているらしかった。
「'N Steen? ...ut 'ne Slünge!」男は叫んだ。その石が、周囲にどこにでもある黒い石とは違うことに気づいたからだ。
だが、気づくのが遅すぎた。私たちはすでに、彼らに襲いかかっていた。
リリヤは左側の兵士の背中に飛び乗った。二人は互いに悲鳴を上げながら、もみ合いを演じる。
私は、地面から立ち上がろうとしていた右側の兵士に突進した。彼が構えた盾を持つ腕の肘――そこには金属の装甲板がなかった――めがけて、投擲ナイフの柄頭を叩き込んだ。
彼は鍛え抜かれた兵士らしく悲鳴こそ上げなかったが、私が次に放った首への一撃を防ごうと盾を上げる動作は、明らかに遅れた。その一撃を受け、彼はよろめきながら後ずさった。
不運なことに、彼は体勢を立て直し、短い槍を突き出して反撃してきた。
私は投擲ナイフの刃で、その葉状の穂先を弾き流し、生じた隙間へと飛び込んだ。
兵士は盾で私を突き飛ばそうとしたが、その動きは間に合わなかった。
私は彼が突き出した盾の下をくぐり抜け、両腕で彼の両足をすくい上げた。そのまま彼を地面から宙へと持ち上げ、頭から石の床へと叩きつけた。その間も、一度も彼を掴んだ手を離すことはなかった。
男はうつ伏せになり、横倒しになっていた。槍を持った腕は、自分の体の下敷きになって動かせない。彼は左手に持っていた盾を捨て、腰の短剣に手を伸ばした。
私は彼の体によじ登り、兜の隙間から投擲ナイフを突き立てようとした。兵士が反撃するよりも早く決着をつけるつもりだったが、彼の動きの方が速かった。
しかし、そこにアーウィンが加勢してくれた。彼は兵士の腕を押さえつけ、私が投擲ナイフで攻撃する隙を作ってくれたのだ。
私の刃が兜の面頬を突き破ると、兜の内部から鮮血が溢れ出し、押し殺したような悲鳴が漏れ聞こえてきた。
私は立ち上がった。アーウィンが私に剣を放り投げ、私はそれを受け取ると、リリヤともう一人の兵士が繰り広げている格闘の方へと向き直った。
あの少女も、私と同じことを考えていたようだ。兵士の背中にしがみついたまま、短剣を兜の面頬へと無理やり突き立てようとしていたのだ。
兵士が死を免れているのは、ひとえに彼自身の怪力のおかげでしかなかった。彼は槍と盾を捨て、両手を使って少女を自分から引き剥がそうとしていた。片手で少女の足による胴締めを解こうと格闘し、もう片方の手で、ナイフを握る細い腕を巧みにいなしていたのだ。
その異様な「死の舞踏」の最中、アーウィンが割って入った。左手に持っていた鎖の端を右手に持ち替え、それを兵士の宙に浮いた足に巻き付けたのだ。
片足を引っ張られてバランスを崩した兵士が転倒し、その隙を突いてリリヤが戦いに終止符を打った。
素早く、私は死んだ男の剣帯を剥ぎ取り、自分の腰に締めた。それから盾を一つ手に取り、もう一つをアーウィンへと放り投げた。
「死体漁りとは、実に忌まわしい罪深い行いね」リリヤは胸の前で腕を組み、私が新しく手に入れたベルトを眺めながら嘲るように言った。
「殺された人間の死体を漁る行為と、これ以上の不当な侵略から身を守るために、倒した敵から物資を徴用する行為との区別もつかないのなら……一体どんな教育を受けて育ったのか、甚だ心配になるよ」私はそう言い返しながら、男たちの兜や鎧を片っ端から試着してみたが、どれ一つとして体に合うものはなかった。
兵士の身から唯一見つかったのは、重々しい鉄の鍵の束だった。どの鍵も、その歯の形状は極めて精巧で複雑な造りをしていた。
「他の囚人たちも解放してやろうか?」鍵の束を目にしたアーウィンが尋ねた。
「いや、やめておこう。この『黒牢』に囚われている者の中には、無実の罪で投獄された者も確かにいる。だがその一方で、欧州全土から集められた、まさに『最黒』にして『最悪』の極悪人たちもまた、ここに収監されるに足るだけの罪を犯してここにいるのだからな」私はそう答えた。
「その囚人たちの中に、一人だけ、私たちが連れて行かねばならない者がいるわ」リリヤが口を挟んだ。
私は少女の方へと視線を向け、死体から離れて立ち上がった。他にめぼしい物は何も見つからなかったからだ。
「で、それは一体誰のことだ?」
「あなたに質問する権利なんてないわよ」少女はぴしゃりと言い放った。
「よかろう。だが、私が確保した鍵に、お前に指図する権利はない。確かに、お前の手先が器用なことは疑いようもないが、私の握力の方が確実だ。私の問いに答えれば、まだ助けてやるかもしれないぞ」私は証拠として、鍵束を掲げて見せた。
泥棒の少女の顔に、暗い陰りが差した。その表情は、彼女の持つ幼い顔立ちにはあまりに不似合いなものだった。
彼女はしばし、無言で思案に暮れた。
「私は、ある依頼を受けて『黒牢』に来ているんだ。マン島の魔術師から、地下牢に囚われた弟子を救い出してほしいと頼まれてね。何階のどの独房にいるのかは、彼も知らないそうだが」少女はついに、そう白状した。
「ここまで歩いてくる間、お前は独房を一つも確認していなかったな。どうやって、救い出すべき相手を見つけ出すつもりだ?」私は問い質した。
少女は私をじっと睨み返した。
私は手の中の鍵を、ジャラリと鳴らしてみせた。
少女は床に唾を吐き捨てると、こう答えた。
「魔術師から授かった、呪いの護符がある。その弟子が近くにいれば、光を放つようになっているのさ」
「見せてみろ」アルウィンが命じた。
「くたばりやがれ、聖職者め!」少女は威嚇するように吐き捨てた。
「護符を渡すんだ。さもないと、お前が観念するまで、私たちはここから一歩も動かないぞ」私はそう言って仲裁に入り、少女に向かって手を差し出した。少女がどのような魔術的遺物を所持しているにせよ、呪いの鑑定に精通した男に一度調べさせておけば、より安全だろうと考えたからだ。
少女は首にかけていた革紐のネックレスを外し、そこから下がっていた三角形の緑色の石を、私に手渡した。
私はその護符をアルウィンに手渡し、彼がそれを検分する様子を見守った。
「『グロイネ・ナ・ドルイド』か?」アルウィンは戸惑った様子で、ようやくそう呟いた。
「それは、どういう意味だ?」私は尋ねた。
「お前たちなら、『アダー・ストーン』と呼ぶだろうな。ハドリアヌスの長城の向こうにある私の故郷では、『グロイネ・ナ・ドルイド』――すなわち『ドルイドの硝子』として知られている」アルウィンはそう締めくくった。
「その『依頼の対象』というのは、具体的にどのような人物なんだ?」私は少女の方を向き、そう問いかけた。アルウィンが下したその『診断』が、どうにも気に食わなかったからだ。
少女の顔には、あからさまな反抗心が浮かび上がっていた。




