創造の深奥に埋もれて
本章には、ラテン語ウルガタ訳からの引用が含まれています。これらは、すべての方々が神の言葉を理解できるよう、括弧書きの日本語訳として併記されています。今後、聖書の引用箇所が登場する際には、ラテン語と日本語を並列して記載することといたします。なお、翻訳に不備がございましたら、コメントにてお知らせいただけますと幸いです。
狂王の地下牢で目覚めることは、まるで大地のはるか深部で意識を取り戻すような体験だった。あまりに深く、事実、私には自分が現実そのものの底、万物の創造のさらに下へと埋められているかのように感じられた。だが無情にも、私――エリザベス一世女王陛下に仕える第33黒色旅団の黒騎士、グリムワルドゥス・ヴァンスは、そのような幸運に恵まれてはいなかった。
独房は、堅牢かつ単調な黒い石造りだった。湿気を帯び、カビが生えてはいたが、その重厚さと頑丈さは微動だにしない。あまりに均一な造りゆえ、石壁に唯一の断絶が見られるのは、高さ7フィート、幅4フィートもある鉄扉が乱暴に嵌め込まれた場所だけであり、私が目覚めるきっかけとなったのは、まさにその扉が激しく閉ざされた際の轟音であった。
その時、私は必死に体を起こそうとした。しかし、激しい火傷を負い、出血し、骨も砕け散っている身では、その動作はほぼ不可能に等しく、激痛に苛まれて、私は再び冷たい地面へと押し戻された。
「おやおや、それではいかんな」老人の、脂ぎったような声がしわがれて響いた。
頭部への打撃で未だ霞んでいる私の目は、闇の中に浮かぶ、揺らめく二重の影に焦点を合わせようと必死にもがいた。
「おやおや、随分と手荒な真似をされたものだね。聞かせてもらおうか、一体何をしでかして、あの狂王の逆鱗に触れたのだ?」その声は、嘲笑を交えて吠えるように問いかけた。
私は言葉を発しようとしたが、肋骨の砕けた破片が肺を圧迫し、返答に必要なだけの息を吸い込むことができなかった。その代わりに、喉からはヒューヒューという喘ぎ声が漏れ出るばかりで、その音を聞いた見知らぬ男は、再び高らかに笑い声を上げた。
「残念なことだ。どうやら君は、これ以上私を楽しませてくれるほど長くは持たないらしい。実に惜しい。もっと見応えのある『ショー』を期待していたのだがね。何しろここは、私にとって最後から二番目の立ち寄り先、狂王の『旧友』を見送るための、最後の別れの場なのだから」
認めるのは恥ずべきことだが、その曖昧な人影が何を意味しているのかを悟った瞬間、私の心臓は激しく跳ね上がった。その動揺は私の顔にも表れていたのだろう。闇の奥で揺らめく影の隙間から、白と金の煌めきが垣間見えたからだ。
「そうだとも、小僧。お前の直感は正しい。お前が今いる場所こそ、狂王ウルリヒ・フォン・ロートシュタインが支配する、忌まわしき『黒牢』なのだ」そして、あの老いたしわがれ声が、この上なく忌まわしい「真実」を口にする際の、あの愉悦を滲ませているのが私には聞き取れた。
私は再び言葉を発しようとした。それが恐怖の叫びとなるはずだったのか、それとも軽蔑に満ちた反駁となるはずだったのか、今となっては定かではない。ただ、砕け散った肉体がもたらす窒息しそうな激痛の中に、その声は瞬く間に掻き消えてしまったのだ。
暗黒。
再び、私は激痛と共に目を覚ました。部屋は相変わらず、ほぼ完全な闇に包まれていた。唯一の光は、黒い鉄と黒い石が接する隙間から、細い糸のように這い込んでくる微光のみだった。どれほどの時間が経過したのか、私には皆目見当もつかなかった。ほんの一瞬だったかもしれないし、丸一日が過ぎたのかもしれない。それこそが、「黒牢」がもたらす数多の呪いの一つだったのだ。
どうにかして――それが飢えに苦しむ胃の痙攣によるものだったのか、あるいは私自身の不屈の意志によるものだったのか、自分でも定かではないが――私はあの冷え切った石の床から、這うようにして身を起こすことに成功した。
「まだ戦う気力が残っているようだな?」あの嘲るような老いたしわがれ声が、再び響いた。
私は鉄扉の向かいにある壁に全身の体重を預けてどうにか直立し、部屋の隅に佇む影のような人物に、鋭い眼差しを向けた。
意識を失っていた間に視界はいくぶん鮮明になっており、部屋に差し込む微かな光のおかげで、その人物の輪郭を――そう、紛れもなく「人間」の姿を――初めてはっきりと捉えることができた。
その人物は膝の上で両手を組んでいた。その手がそこにあると判別できたのは、シルエットの中で唯一、硬質な直線を描く部分があったからに他ならない。手首には手枷が嵌められ、そこから伸びる太く重い鎖が、およそ3フィート(約90センチ)先の壁にしっかりと固定されていたのだ。頭部を除いた全身は、その輪郭が曖昧で定かではなかったため、おそらくローブのようなものを纏っているのだろうと私は推測した。その頭部だけは、牢獄の薄暗い揺らめく光の中で、かろうじてその姿を捉えることができた。
額に刻まれた風霜の皺から察するに、四十代か五十代といったところだろうか。その人物は、フクロウのように大きく丸い瞳をしていたが、その目は丸眼鏡のレンズ越しに覗いていた。金属製のフレームとガラスのレンズは、差し込む僅かな光を捉えて、きらりと鈍く輝いていた。伸び放題になった髪と髭は、もはや境目も分からぬほどに絡み合い、緩やかな巻き毛の塊となって一体化していた。
「あ、あんたは……誰だ……?」私は絞り出すように尋ねた。
「エアのアーウィン神父だ。して、お前は誰だね、息子よ?」彼はそう問い返した。 「グリムワルド・ヴァンスだ」私は必死にどもりを抑え込んだ。すると、司祭の金と白に彩られた笑みが、いっそう深まった。
「お前のことは、必ず祈りのうちに留めておいてやろうよ、坊主。もっとも、そう長く祈ってやる必要もなさそうだがな。その様子じゃ、夜が明ける頃にはもう、お前のための鎮魂ミサを捧げていることだろうよ」男は楽しげに喉を鳴らして笑った。
「あんたは……司祭なのか?」
「ああ、その通り。ドミニコ会の修道士様だ」男は胸を叩きながら、身につけた鎖をジャラリと鳴らした。
「なら……俺を治してくれ」私は絞り出すように言った。
「なぜだ? 死ぬまでの時間を、ただ引き延ばしたいとでも? 言ったはずだぞ。お前の内臓の損傷は致命的で、すぐに命を奪うだろうと。仮に私が手立てを講じて死を遅らせたとしても……ああ、その時は餓死することになるだけだ。その方が、よほど苦しいぞ」
「あんたは誓ったはずだ……もし本当に司祭ならな……病める者を癒やすと!」私は怒りと痛みに声を詰まらせながら、必死に言葉を紡いだ。
司祭から、下卑た荒々しい笑い声が噴き出した。
「いいだろう、坊主。その頑丈そうな頭に、この私が手を置いてやろうじゃないか」そう言って男は両腕を伸ばそうとしたが、重々しい鎖が激しく鳴り響き、その動きは阻まれた。「私はこのベンチから動けんのだよ。お前の方も、まともに立っていることさえできん有様だ。運命に逆らうのはよそうじゃないか。神の御心に背くなど、大いなる罪なのだからな」
私は司祭に向かって突進した。この傷だらけの体が許す限りの、精一杯の勢いをもって。
彼からの唯一の返答は、かすかな驚きを込めて片方の眉を上げるという仕草だけだった。
動くたびに傷口が裂け、そこから血が噴き出すような、まさに「死の行進」と呼ぶにふさわしい私の歩みは、私が力尽きてその場に崩れ落ち、頭を修道士の膝に打ち付けたところで終わりを告げた。
再び、野太い笑い声が響く。
「お前は狂っているぞ、小僧! まったくの正真正銘の狂人だ! いや、私が間違っていたな。お前は、その命が尽きるまでの間、なかなかの見世物になってくれたよ。それだけ楽しませてもらったなら、一つや二つ、祈りを捧げてやる価値はあるだろうさ」
私が座り込むと、その荒々しい手が私のこめかみに優しく当てられた。私の片方の肩は、司祭が腰掛けていた粗末な木製のベンチに、その体重のすべてを預けていた。
「Quia obturabo cicatricem tuam, et a vulneribus tuis sanabo te, dicit Dominus.(汝の傷を塞ぎ、汝の傷口を癒やさん。主はそう仰せられる)」その野太い声が、この時ばかりは静まり返り、祈りの言葉を紡ぐその響きは、まるで甘美な調べのように耳に届いた。
そして私は叫び声を上げた。体の中で骨が修復され、肉が縫い合わさっていくのを感じたからだ。死の淵を彷徨っていた状態から、まるで完璧な眠りから優しく目覚めさせられたかのような状態へと、私は一瞬にして蘇ったのだ。
「神よ、我が神よ!」私は床から勢いよく跳ね起きた。その筋肉には、二十人分の男に匹敵する力が満ち溢れていた。
「ああ、そうだとも。彼(神)の御業だよ」アーウィンは、野太い笑い声を上げながら言った。
「さあ、急いで! ここから逃げ出さなければ!」私は司祭を急き立てた。
「『逃げ出す』だと? この愚か者めが!」司祭の顔が、苛立ちに歪んだ。「お前を死から救ってやったのは確かだ。だが、それはあくまで死の先延ばしに過ぎん! 前にも言っただろうが、これからは私と共に、飢えに苦しむことになるのだぞ! 神によって癒やされたとはいえ、お前は依然として『狂王の黒牢』の中にいることに変わりはないのだ!」アーウィンは激昂した。先ほどまでの、祈りを捧げる際の甘美な声など、もはや過去の遺物と化していた。
「あなたの希望はどこにあるのです、神父様? 救済に対する、神の摂理に対する、その揺るぎない信仰はどこへ消えてしまったのです?」私は声を取り戻し、力を取り戻していた。もはや、このアルバの男が吐き出す、陰鬱で狂気じみた戯言に付き合うつもりなどなかった。
「私の信仰も希望も、決して揺らぎはしないさ。だが、それは『真の』信仰であり、希望なのだ。すなわち、私という存在が消え去り、この世界そのものも滅び去ること。その時、そしてその時こそ、私は救われるのだからな」司祭は顔を歪めた。それが苦笑なのか、それとも微笑なのか、私には判別がつかなかった。
「よかろう。お前はそこで、その憂鬱に浸っているがいい。だが私は、ここから脱出するつもりだ。私はかつて『狂王』と一騎打ちを行い、あわや勝利というところまで迫ったのだ。それに比べれば、この牢獄など取るに足らぬものだ」私はそう言い放ち、唾を吐いた。
私の言葉に、老人はわずかに身じろぎした。だが私はあえて視線を逸らした。私が今しがた彼の中に灯したばかりの、希望という名の微かな火種を、自ら消し去ってしまわぬよう配慮してのことだ。代わりに私は、自分の独房の様子を調べ始めた。
その造りは完璧だった。石壁のどこにも隙間や欠けはなく、脱出の足がかりにできそうな場所は一切見当たらない。窓もなかった。「黒牢」への収監とは、それほどまでに徹底した断罪を意味するのだ。外の世界を垣間見ることで生まれる「希望」という名の拷問さえも、そこでは許されてはいなかった。
「……あわや勝利、だと?」かすれた声が響いた。
私は聞こえないふりをした。私は独房内の探索を続け、あらゆる隅々や隙間に触れて感触を確かめた。この「黒い箱」の継ぎ目や角の形状を肌で覚え込み、壁のどこかに魔法や力の痕跡が残っていないか、叶わぬ望みを抱きながら手探りで探し回った。そして最後に、私は扉へと向かった。
実際に手で触れてみても、その扉は私の目が捉えた通り、寸分の隙もないほど堅牢なものだった。その頑なな表面を叩いてみれば、いかに分厚く頑丈な造りであるかが手に取るように伝わってくる。実のところ、黒色火薬による終末的な大爆発でも起きない限り、あるいはエリザベス一世女王陛下の宮廷魔術師たちさえも凌駕するような大魔術でも使わない限り、この金属の巨塊をその土台から動かすことなど、到底不可能なことだったろう。
「わしはとうとう気が触れてしまったのか? それとも、お前は確かにこう言ったのか……『狂王』と一騎打ちをして、あわや勝利というところまで迫った、と?」声の調子はいくぶん穏やかになっていたが、その問いには執拗なまでのこだわりが滲んでいた。
「ええ、司祭様。あなたは確かに気が触れておられます。ですが、その知覚能力だけは正常に働いているようですね。私がそう言ったのは事実です。そして、その言葉は紛れもなく真実なのです」私は司祭に向かって、そう断言した。
「戯言だ」司祭は鼻を鳴らした。「くだらん」
「『道』の司祭様に嘘をつくなど、重大な罪にございます。私に、そんな大それた真似ができるはずがございません」私は探索の手を動かしながら、どこか上の空でそう答えた。 「確かに、あなたは巨漢だ。手足が長く、筋肉隆々で、血に染まった騎士の風格と威風堂々とした佇まいを漂わせ、戦闘には自信満々だが、フォン・ロートシュタイン家とその冒涜的な水晶を前にすれば、鋼鉄と力など取るに足らない武器に過ぎない。」司祭は首を横に振った。
「これほど高齢になってもなお、主があなたの鋭い視力を保っておられるとは、あなたは相当な信仰をお持ちなのだろう。私は血に染まった騎士だ。目の前にいるのは、エリザベス1世女王陛下の第33黒旅団のグリムワルダス・ヴァンスだ。だが、どうやら主はあなたの知性を衰えさせてしまったようだ。ウルリッヒのようなただの人間が、鋼鉄と力で倒せないなどと、他の人間と同じように考えているとは。」私は彼の方を向き、胸を張って、先ほどのどもりを償うかのように、憤りを叫んだ。
「『黒の旅団』だと? ふむ、それは光栄なことだ。かくも壮麗な御方のお目通りが叶うとはな!」彼は嘲るように言った。「神の奇跡も持たぬ、傲慢な『手先』の御前で死ねるなど、そうあることではないからな!」司祭は鼻を鳴らした。
私は彼の方へと歩み寄り、二人の間の距離を完全に詰め切った。
「『道(The Way)』の司祭に手を上げるなど、私の本意ではない。だが、もし再び私の戦友たちを侮辱するようなことがあれば……その折には、お前の顎を砕くことで、私自身の罪の赦しを得させてもらうぞ」私は警告した。
「よかろう、よかろう」司祭は高笑いを上げながら吠えた。「代わりに、その腕力をこの鎖で試してみるがいい。この老いぼれの骨ならすぐに折れるだろうが、この『黒鉄』がそう簡単に屈するかどうかは、定かではないぞ」彼は鎖の擦れる音を立てながら、両手首を掲げて見せた。
手首に嵌められた枷は、きつく締め付けられていた。その造りは分厚く、重々しい。鎖を壁に固定しているボルトもまた、堅牢かつ強固なものだった。
「その『長椅子』は……なぜ、お前にだけ長椅子が与えられているんだ?」私は尋ねた。そこに、脱出への活路が隠されていることを願いながら。
「祈りを捧げる司祭の『跪き』には、絶大な意味があるからな。こうして座らされ、鎖に繋がれていては、大いなる奇跡を呼び起こすための『跪き』ができぬ。おかげで『狂王』様も、さぞかし安らかに眠れることだろうよ」
「よし、ならば……できる限り右の方へ寄れ。そして、これが上手くいくよう祈りを捧げるんだ」私は司祭に命じた。
彼は私の指示に従い、右の端まで身を寄せた。その肩は、冷たい石壁にぴったりと押し付けられている。そうすることで、分厚い板張りの木材の一部が露わになった。
私は両腕を振り上げ、心の中で無言の祈りを捧げると……神から授かりし力のすべてを込めて、その木材へと叩き込んだ。
それは見事に成功した。木材は悲鳴を上げ、粉々に砕け散ったのだ。かつては何もなかった独房の床に、木っ端の破片が激しく飛び散った。
座る台座を失った司祭は、驚きに満ちた悲鳴を上げた。そして、重々しい鉄枷が彼の急激な落下を強引に食い止めた。
「この野郎! 一言くらい警告してくれてもよかっただろうが!」司祭は怒鳴り散らした。 「お許しください、神父様。ですが、その身をしっかりと支え、体重を鎖に預けてください。鎖をピンと張り、伸ばした状態を保つのです。忠告しておきますが――これは決して心地よい作業ではないでしょう。しかし、我らが救済を得るための、最善にして唯一の好機なのです。」
「望むままに振る舞うがよい、若者よ。何もしないでいることで降りかかる災厄に比べれば、お前が私に与えうるいかなる傷も、大したことなどありはしないのだから。」
神父の同意を得て、私は床から手頃な木片を拾い上げると、重い鎖の環の一つにそれを差し込み、回し始めた。木片が鎖を巻き取っていくにつれ、まるで巻き上げ機のように、神父の体は壁へと引き寄せられていった。
あぁ、無情にも木片は折れてしまった。私は最初からやり直すことを余儀なくされた。
別の木片を差し込み、再び巻き上げの作業が始まった。
神の恩寵か、今度の木片は持ちこたえてくれた。やがて、鎖が外れる甲高い金属音が、私への報いとして響き渡った。
我々は二人とも、あえて口を利こうとはしなかった。我々に宿ったささやかな魔法、あるいは降り注いだ祝福を、愚かで迷信じみた恐怖心ゆえに、台無しにしてしまうことを恐れたからだ。
私は同じ木片を使って、もう片方の鎖にも同じ処置を施した。神父もまた、さすがというべきか、自由になった左手で右手を縛る鎖を掴み、壁に両足を突っ張って鎖を引っ張った。
さらに二本の木片が折れた後、ようやく一本の木片が「神からの贈り物」となってくれた。
鎖の張りが突然解けた反動で、神父は前へと倒れ込み、石の床に激しく体を打ち付けた。それでもなお、彼は狂気じみた安堵の笑い声を上げながら、まるで雪の上に寝転んで「スノーエンジェル」を作る子供のように両腕を床の上でばたつかせた。その腕に繋がれた鎖は、喜びを歌うかのように、軽快な音を立てて鳴り響いた。
「汝に永遠の祝福あれ、グリムワルドゥス・ヴァンスよ! 我らが父なる神の御許にて、汝のための宴の席が、最も名誉ある場所に用意され、整えられていることを祈ろう!」
「祝福はまだ早いですぞ、神父様。確かに壁からは解放されましたが、貴方は未だ『狂王の黒牢』の中にいるのですから。」私は彼に微笑みかけた。
我々の間に、一瞬の笑い声が交わされた。
「……となると、扉はどうするのだ?」神父は問いかけた。
「私をここに連行してきた看守については、何も知らぬのです。神父様は、ここにいらっしゃる間に、看守の姿を見かけたことはございますか?」私は尋ねた。 「一人として来はしない。私がここに放り込まれてから……どれほどの時が経ったのか、もはや定かではない。それこそが『黒牢』の仕掛けなのだ。永遠に続くその闇夜は、時間というものが元来、単なる幻影に過ぎなかったことを露わにする。私は飢えに苛まれているが、その渇きを癒やしてくれるのは、壁面に結露する霧水だけだ」とアーウィンは語った。
「扉を叩き壊そうと試みることはできるが、そんなことをすれば凄まじい騒音が立ち、衛兵が駆けつけてくることになりはしないか?」と私は尋ねた。
「いや」と司祭は淡々と言い切った。「私がここへ送られて間もなくのことだ。廊下の向かいの牢で、凄惨極まりない死闘が繰り広げられた。だが、それを止めに入ろうとする者は誰一人として現れなかった。結局のところ、『黒牢』とは処刑の手段に他ならんのだからな」
「なるほど、この牢獄はそのまま墓穴となるべく造られているわけか。ならば、脱獄の兆候を見せれば、衛兵を呼び寄せることができるのではないか? 例えば、ベンチの木片を差し込んだり、鎖の一部を扉の下から覗かせたりしてな」
「扉の下の隙間は、鎖の環一つが通るには狭すぎる。木片程度なら通るかもしれんが、それ以上のものは無理だ。それに、衛兵の姿など影も形も見えぬというのに、彼らがたまたま通りかかってくれるなどと当てにするのは、自滅行為に等しい」
「『聖なる輝き(ホーリー・シーン)』の祈りをご存知か?」と私は尋ねた。
「ああ、知ってはいる。だが、我々には武器がないし、あの祈りが手に授けてくれる力とて、この扉をこじ開けるには到底及ばぬだろう」と司祭は反論した。
「扉をこじ開けようなどというつもりはない。私の両手に向かって、その祈りを唱えてくれ」と私は強く求めた。
司祭は、私が差し出した両手の上に頭を垂れた。驚くほどに硬く、風雨に晒されて年季の入った彼の手のひらが、私の手の甲に触れる。そして彼は、再びあの柔らかな声で祈りを捧げた。
「主を讃えよ、わが岩なる神よ。わが手に戦いを教え、わが指に戦いの技を教え給う方よ。」
突如として、私の両手に温もりが広がった。そして、私には馴染み深い、普段は微かで幽玄な光が――その場にあっては、まるで太陽そのものであるかのように――輝きを放ち始めた。その新しく淡い黄金色の煌めきはあまりに眩く、私と司祭は思わず目を閉じ、顔を背けざるを得なかったほどだ。
私は扉の方へと向き直り、蝶番側と石壁との間にできたわずかな隙間へ、無理やり指を押し込んだ。
金属は、ほんのわずかな接触にもかかわらず、たやすく変形し始めた。軋みを上げながら内側へと曲がり込み、石壁との隙間を広げていく。
揺らめく橙黄色の光が、そこから差し込んできた。間違いなく、松明の光だ。
「神を讃えよ!」司祭は感極まったように声を上げた。
私がいくら力を込めて引っ張ろうとも、祝福の煌めきは次第に薄れ、主から授かった力は私から失われていった。
「もう、あの祈りは効かないのですか?」私は尋ねた。
「お前に対しては、もう一日ほどは効かぬだろうな。それがこの祈りの性質なのだ。前にも言った通り、武器を用いた方がよほど効率的だったかもしれん。思うに、主が人の手に不自然なほどの力を長くは授け給わぬことには、きっと正当な理由があるのだろう。」
「いつものことですが、主が与えてくださった力で十分です。ほら、見てください。」私は司祭に、自分がこじ開けた隙間を見るよう促した。
黒い石壁と鉄扉の間には、今や六インチ(約15センチ)ほどの空間が生まれていた。一番上の蝶番と真ん中の蝶番の間に、ぽっかりと空隙が広がっている。
その隙間から外を覗き込んだ司祭の体が、興奮で震えるのが見て取れた。おそらく彼は、ここ数日の間、松明の微光よりも明るい光を目にするのは初めてのことだったのだろう。
「さて、どうする? 私に見えるのは、廊下の向こうにある松明の光と、おそらくは壁のすぐ向こう側、視界の端にあるもう一本の松明の灯りだけだが。」司祭は私の方へと振り返り、問いかけた。
「残念ながら……もし衛兵の注意を惹きつけ、うまく騙して扉を開けさせることができなければ、今の私たちだけではどうにもならず、さらなる助けが必要になるかもしれません。」
沈黙が流れた。私たち二人は、物思いに沈んでいた。確かに、ここまでたどり着きはした。だが、扉にできたわずか6インチ(約15センチ)の隙間と、身一つしかない男が二人いたところで、それが盗賊の道具の代わりになるはずもない。もし衛兵を捕らえることができれば、まさに天佑と言えただろう。狂王に雇われている傭兵たちは、生粋の裏切り者ばかりだ。名誉や忠誠心よりも、自分の命と金銭を何よりも重んじているのだから。
だが、「黒牢」という場所の性質上、衛兵たちがその内部に足を踏み入れることは滅多になかった。ネズミ、罠、そして食料や明かりの欠乏――それらこそが、極めて稀に発生する脱獄者を阻むための仕掛けだったのだ。
不意に、廊下から差し込んでいた光の様子が変わった。何かが動いた拍子に、その光が揺らいだのだ。
「誰だ! そこにいるのは誰だ!?」私は隙間に向かって叫んだ。
「誰か、生きてるの?」廊下から、小さくも好奇心に満ちた、明るい声が返ってきた。訛りのあるブリタニーク語だった。
「ああ! こっちだ!」私は隙間から腕を精一杯突き出し、必死に振り回した。
不思議なことに、その隙間に近づいてきた人物は、どう見ても衛兵ではなかった。
廊下に立っていたのは、身長5フィート(約152センチ)ほどだろうか、鞭のように細身の少女だった。彼女が手にしている松明は、それを支える腕よりも太く見えるほどだ。頭から被ったフードの影から、猫のように大きく、鮮やかな緑色の瞳が私を見上げていた。
「お前は衛兵じゃないな」私は断言した。
「その通り。でも、なんでそんなにがっかりしたような口ぶりなの? あなたたちが扉をこんなにボロボロにしちゃったのを見て、衛兵たちが喜ぶとは思えないけど」
「いや、だが衛兵たちなら、こんな廊下をうろついている『小さくて無防備な少女』を見つけたら、喜んでくれるだろうさ。私たちをここから出してくれれば、私は――」
ヒュッ!
何かが隙間をすり抜け、私の頭のすぐ横をかすめて飛んでいった。
頭皮から切り落とされた髪が、ハラリと私の肩に落ちる。そして背後からは、金属が石に当たる音が響いた。
カチン!
「これまでいろんな呼ばれ方をしてきたけど、『無防備』だなんて言われたのは初めてだよ。笑わせないで」少女はため息をついた。 「ならば、失礼いたしました、奥方様。ですが、女王エリザベス一世陛下が率いる『第33黒色旅団』の一騎士として、伏してお願い申し上げます――」
「騎士など知ったことか。女王陛下だってクソくらえだ。あんたが喋れば喋るほど、あんたをここに置き去りにしてやりたくなるよ……『騎士様』」彼女は最後の一言を、小馬鹿にするような口調で付け加えた。
「頼む、私の願いを聞き入れてくれ。私の連れはエアにある修道院の司祭なのだ。彼ならばきっと――」
「教会だってクソくらえさ」彼女は肩をすくめた。
「おい、この小娘っ……!」アーウィン神父は瞬時に激昂し、扉へと猛然と駆け寄って私を押し退けようとしたが、あまりの怒りに言葉を失ってしまった。
扉の向こうから、くすくすという微かな笑い声が聞こえてきた。
「あんたたちはどうやらここから出たいらしいね。錠前をこじ開けてやるのは吝かじゃないが、一体全体、どうして私がそんなことをしてやらなきゃならないんだい?」
「さあ、私にも皆目見当がつかないな、奥方様。貴女には女王への忠誠も、祖国への愛着も、神への信仰もないのだからな。一体全体、貴女は何のために生き、何のために行動しているというのだ?」私は、少女の皮肉をそのまま彼女に突き返すことにした。
「誰だって同じ理由さ。金だよ、金。あんたは金を持っているのかい?」
「金貨が五十枚ある。黒色旅団の一員として、私は隣国テウトニアに個人口座を与えられており、ここでの任務遂行中にそこから資金を引き出せるようになっている。王室の任務遂行に必要だと私が判断する限りにおいて、その資金は私の裁量で自由に使用できるのだ。もし我々をここから解放してくれるなら、その金貨はすべて貴女のものだ」
少女は一歩、後ずさりした。
「どうやって信じろって言うんだい? あんたが、何かやらかして『黒牢』送りにされたような、強姦魔や殺人鬼じゃないってことをさ」
「黒牢のことを少しでも知っているなら、ただの殺人犯がここに送られるわけではないと分かるはずだ。ここに送られるのは、裏切り者と、フォン・ロートシュタイン家の偽りの王冠に対する最大の敵だけだ。まさか、狂王に同情などしていないだろうな?」私はそう推測した。
少女は少し考え込み、それから頷いた。
「ええ、私もフォン・ロートシュタイン家には唾を吐きかけますわ。騎士になるだけの歯は持っている。五十タレント持っていると言ったな?」
「テウトニアの金庫に保管してあります。この扉を開けていただければ、騎士としての名誉にかけて、すべて差し上げます。」私は誓った。
「名誉なんていらないわ。そんなくだらないものには興味ない。五十タレントよ、さもなければ、あなたの髪にしたように、あなたの睾丸にもしてやるわよ、騎士様。」彼女は最後の言葉を吐き捨てた。
「承知した。」
彼女は何も言わずに作業に取りかかり、錠前がガタガタと揺れ始めた。
ほんの数秒後、重々しい金属音が響き、車輪が回転する音がした。扉を固定していた6つの金属製シリンダーが引き込まれ、扉が開き、まばゆいばかりの松明の光が差し込んだ。
ほぼ完全な暗闇の中にいた後、今や地下牢の広間を照らす4本の松明の光は、まさに驚異的だった。司祭と私は思わず身をすくめた。




