17話…。何で大切だと望めば望むほど、それが叶わないのだろう巻
「ぬらりひょん様、ごちそうさまでした!」
そうぬらりひょん様に伝えると
「うむでは道中気を付けてな!」
と私達に伝えると浮雲に乗り
フワフワと飛んで行く。
私達はぬらりひょん様を見送り
老舗牛丼チェーンの(吉原屋)を後にする。
お腹がいっぱいになり満足したのか
光音とくるみとももがスヤスヤと
寝息をたてて私と覚さんの背中で
くつろいでいた。
鈴木
「じゃあ家まで帰りますか。」
覚
「そうだな…。」
柊
「あの…ちょっと寄りたい所があるので
先に帰ってて下さい。」
覚
「そうか…気を付けてな。」
柊さんは私達を見送ると何処かに足早と
急いで行く。
鈴木
「覚さん様子が変ですけどどうしました?」
覚
「あぁ…ちょっとな。」
覚
「鈴木君!悪いが私も今、用事を思い出した。」
覚
「この子達《くるみ&もも》を頼む!」
私にくるみとももを渡して覚さんは、
柊さんが急いでいた方に向かって走り出す。
くるみ
「鈴木太朗…家族のお墓に私達を連れて行ってくれないか?」
もも
「私からも頼む…。」
鈴木
「急にどうした?」
くるみ&もも
「鈴木太朗の家族に挨拶をしたいのだ…。」
急な提案に私は戸惑いながらも久し振りに
妻の冴と息子の一也、愛犬ポチが静かに
眠る場所に向かう事にした。
私は光音達を背負いながら
夏の日差しを一身に受けて汗だくになる。
太陽の照り返しによる暑さと、
光音達の重みを背中に感じ耐えながら
お墓がある寺院の階段を一歩一歩踏み締めて必死で登る。
境内にたどり着くとそこにはお守りと
供養用の仏花が売っている寺務所に
(草元寺)と書かれた年代を感じさせる
古びた看板が見える。
「久し振りに来たが変わらないなぁ…。」
私は顎に滴る汗を手で拭うと寺務所に向かい
硝子の扉を軽く叩く。
「はぁ~いはい、少々お待ち下さい。」
と長く白い髭を生やす住職が
ガチャガチャと音をたてて扉の鍵を開ける。
「おぉ~鈴木さん久し振りだね。」
「冴さん達に会いに行くかい。」
私は「えぇ」と軽く頷くと
供養用の仏花とお線香を購入して家族が眠る場所に向かい歩く。
鈍く光る黒曜石に鈴木家と彫られている
墓石の前に座ると花を添えお線香に
火を付けてここに眠る家族に"新しい家族"
を紹介する。
光音
「はじめまして、みおんです。」
くるみ
「我はクダンのくるみ。」
もも
「同じくクダンのもも。」
くるみ&もも
「鈴木太朗の世話になっている者である…。」
鈴木
「冴、一也、ポチ、俺は元気だよ…」
鈴木
「そっちはどうだ…?」
鈴木
「一也はニンジンを残してお母さんを困らせてないか…?」
鈴木
「冴は、おっちょこちょいだからなぁ…。」
鈴木
「転んで怪我してないか…?」
鈴木
「ポチは空に近い場所へ行ったが雷は怖くないか…?」
私の脳裏に様々な想いが浮かび
その想いを届く様にと両手を合わせ
瞳を静かに閉じて祈る。
光音達も私を真似て静かに祈る。
私はふと鈴木家の墓を見てあることに気付く
鈴木家の墓だけ周りに雑草がなく
墓石も綺麗に磨かれていた。
「ぬあぁっ!」
大きな声が聴こえる。
私と光音が声のする方に振り向くと
土で汚れている柊さんと覚さんが汗だくで
仏花と水桶を持って驚いている。
覚&柊
「なぜここにいるの?!」
鈴木
「くるみとももが冴達に挨拶をしたい、と
行ったのでここに来ました。」
鈴木
「覚さん達こそ何故ここにいるのですか?」
覚
「それは…。」
柊
「太朗さんの大切な人達へご挨拶に来ました。」
柊
「私はこれから鈴木さんと人生を共に生きていきます。」
柊
「そしてこの世にいない冴さん達の分まで
鈴木さんとの時間を、歩んで行くと伝えにきました。」
覚
「まぁ早い話しが鈴木君の家族に挨拶に来たという事かな。」
覚
「しかし鈴木君達は何故ここにいる?」
鈴木
「いやぁ、くるみ達が冴達に挨拶をしたいと急に言うので…。」
鈴木
「私も急に冴達に会いたくなりましたし、
久し振りにお墓参りもいいかなと思いまして。」
覚
「そうか!」
覚
「ならここで宴会でもするか!」
覚
「では宴会に欠かせない物を買って来るか!」
覚さんはそういうと笑いながら凄まじい
速さで何処かに走って行く。
くるみ
「鈴木太郎…伝えたい事がある。」
もも
「この先何があろうとも我らは鈴木太郎の傍にいる…」
くるみ&もも
「鈴木太郎…ありがとう。」
鈴木
「おまえ達急に、どうした?」
くるみ
「気にするな…。」
もも
「気持ちが昂ったのだろう…。」
柊さんはそんな私達の様子を見ながら
黙々と冴達の眠るお墓に桶の水を滴し
仏花を供える。
私はふと空を見上げ眺めた。
透き通る様な美しい空にとんびが飛んでいた。
蝉の鳴き声が今日は心地好く感じる。
何故か急に身体がだるくなると
私は意識を失いその場に倒れる。
「アレッ何でだろう…?」
気がつくと白い毛が目の前にぶら下がっている。
試しで引っ張ると「イダッ!」と悲鳴をあげる。
「なんで引っ張るだや!」
「鈴木さん意識は戻ったかい。」
「この炎天下で何も飲まんとそりゃ熱中症になるだや!」
「あんたはアホか!」
そういうと私の頭を、平手で軽く叩く。
するとドタドタと複数の足音が聞こえる。
小さな塊が私のお腹の上にのし掛かる。
「ぐふっ」とみぞおちを踏まれ痛みで私は
悶える。
光音
「パパいきなりたおれてしんぱいちたよ!」
柊
「本当に心配しました…。」
鈴木
「すみません。」
よくよく見ると白い毛の正体は
草元寺の和尚から生えていた髭だった。
私はゆっくりと、起き上がる。
覚さんが巨大な酒樽を軽々と運んで持ってくる。
覚
「和尚殿!鈴木君がお世話になりました。」
覚
「つまらない物ですがどうぞ!」
というと酒樽を本堂に下ろす。
さっきまで怪訝そうな表情をしていた和尚は酒樽を見ると急に観音菩薩の様な慈悲深い表情に変わる。
和尚
「わしが酒好きなの良く分かるのぉ。」
覚
「えぇ伊達に長く生きていないので!」
そういうと和尚はマイ盃を懐から出して
酒樽のお酒をぐびぐびと飲んでいる。
私は辺りを見渡しとくるみとももがいない事に気付く。
心を読んだのか柊さんと覚さんも辺りを
見渡して、くるみとももを探す。
何故か胸騒ぎがする。
私は急いで立ち上がると何かに導かれる様に
草元寺のお社に向かって走り出す。
お社の扉が開いている。
私は扉の中を覗くとくるみとももが
小さくうずくまり弱々しい蒼い光に包まれ
消えそうになっている。
鈴木
「くるみ!もも!どうした!」
鈴木
「何があった!」
くるみ
「鈴木太郎…我等の寿命がもうじき尽きる。」
もも
「短い間だったがとても楽しかった…。」
くるみ&もも
「今まで生きてきて一番幸せだった…。」
くるみ&もも
「最後に頼みがある…。」
くるみ&もも
「今から3日後にまたこの社へ来て欲しい…。」
くるみ&もも
「それが我等の最後に望む事…。」
くるみとももは私にそう伝えると
小さな瞳からぽつりと涙の雫が床に落ちる。
私はくるみとももを抱き締めようとするが
すり抜けて触れる事すら出来ない。
「行くな、もう私から何も奪わないでくれ…。」と悲鳴にも近い声で神に祈る。
その願いも叶わずくるみとももは、
蒼い光の粒となって空に向かって飛んでいく。
私はただゆらゆらと浮かぶ蒼い光の粒が空に消えて行くのを見つめる事しか出来なかった。




