12話、あれ何とかはクダンの如しとか言ってたけどなんだっけ?巻
窓から心地好い日差しが顔に当たり
ほのかに香る美味しそうな味噌汁の匂いが
私に起きる時間だと伝えてくる。
トントントンとリズミカルな音が聴こえ
その音がかなり料理に手慣れた者だと
私の直感がその様に訴える。
時計を見るとまだ5時37分だ。
潜入先である「ほしのひかり」の
出勤時間にはかなり早い。
目を右手で擦りながら
音の主が無性に気になり起き上がろうと
するが左腕が少し痺れて動かない。
そして私の左腕に小さな温もりを感じる。
私は腕の方をふと見ると心地好さそうに
寝息をたてている光音の姿がそこにある。
光音は
「パパ…早く走れ、捕まるとぶりゅが…」
と涎を垂らし笑いながら寝言を言っている。
この子は一体どんな夢を見ているのか…。
と私がその様な事を考えていると
部屋の扉が開き
「太郎君!朝だぞ!起きろ!」
と2m弱はある巨体に沢山の瞳を持つ
ピンクの熊が描かれているエプロンを身に
着けた覚さんに叩き起こされる。
勿論その声で光音も驚いて飛び起きる。
覚
「いつまで寝ているのだね!」
覚
「今日は晴れて良いジョギング日和だ!」
覚
「太郎君!光音ちゃん共に軽く走るぞ!」
鈴木
「覚さん…流石にまだ早いです。」
鈴木
「もう少し寝かせて下さい…」
光音
「うん…もう少しねてたい…」
覚
「若い者が何を言うのだ!」
そう言うと覚さんに無理矢理起こされて
私と光音は外服に着替える。
覚さんも若者に人気なゆるキャラのぴんぐま
が印刷されているタンクトップに着替える。
「ハッハッハッハッハッハッ!」
覚さんの元気な声が早朝なのでよく響く。
覚
「よし!二人ともしっかり着替えたな!」
覚
「今日は町内を4周して帰るか!」
鈴木
「4周?!それは…ちょっと…。」
覚
「そうか疲れるのか?!」
覚
「分かった、私も鬼ではない。まぁサトリ
だからな!鬼ではないか!」
覚
「ハッハッハッ!」
覚
「よし2周で構わないぞ!」
光音
「みおん、ムリそんなに走れない…」
覚
「そうかなら私の肩に乗りなさい!」
そう言うと光音を肩にひょいと軽く乗せると
全力で走り出す。
覚
「鈴木君、私に着いてこれなければ特別筋肉増強メニューをしてもらうぞ!」
私は
覚さんが大胸筋を動かしながら
笑顔でピクピクさせている。
その姿を見て不安に苛まれていた。
この時の覚さんは常軌を逸している。
何をさせられるのか考えただけでも
恐ろしい…。
かつてこれと同じ様な事があった。
その時は私の同僚である斉藤が
二十四時間ずっと腕立て伏せ、腹筋、ランニング、スクワット、遠泳、そして滝行というメニューをさせられ気が付くと
彼は病院のベッドで目覚めたらしい。
しかしそのお陰なのか斉藤は何かが目覚め
今では仏門に入り俗世とは何も関わりを
もたない生活をしている。
斉藤が遠くを見ながら言っていた
「鈴木…俺、今ある命を大切にしたいと
思う…」
と言う彼の言葉が今でも私の心に響く。
私は薄くなってきた後頭部を触りながら
子供の為にも生きなくてはならない。
そう決めて必死で全力で走る覚さんに
食らい付いて行く。
私の必死な表情を眺めて覚さんの
肩に乗っている光音は小悪魔の様に
ケタケタと笑っていた。
すると何かを見付けたのか光音は覚さんの
肩から飛び降りて河原の下に降りて行く。
覚さんと私は川に流されてはいけないと思い
光音を捕まえると何か生き物を
手にもっている。
すると覚さんはいきなり表情が険しくなり
「それはくだんです!」
「早く離れなさい!」
と言うと光音の手にいる赤い目の生き物を
地面に置いて離れる。
私と光音は「くだん?」とそれは何か考えている。
覚さんが心を読み
「くだんとは人の身体と牛の顔を持つ様々な予言する妖怪だ。」
「くだんが現れその予言を聞いてしまうと
必ずその通りになってしまう。」
「もしくだんが今日あなたが死ぬと予言すればそうなってしまう…」
「とにかく、くだんの予言が聴こえない所
まで逃げるぞ!」
と言うと光音をたくましい腕で抱えると
私達は凄い速さでその場から離れる。
すると小さな泣き声が聞こえてくる。
光音の手にもう一体のくだんがいた。
青い目のくだんがゆっくりと口を開き未来の予言を語り始める。
くだん
「鈴木太郎…今から2分後に動物のウ○コを踏む。」
私が、えっ!と気付いた時にはもう遅かっ
た。
べちゃっという音と共に茶色いやつが靴に
べったりと付いていた。
覚さんは少し不思議そうに首を傾げてもう
一体のくだんの方に行くと
赤い目のくだんが
「鈴木太郎…ウ○コを踏むのを防ぐには足元を落ち着いて見ながら歩けば良い…」
そう言うとすやすやと眠りにつく。
光音が
「この子たちはもうそんなにこわいことしないよ。」
「パパ、この子たちおうちがなくてさみしいんだって。」
「みおんのおうちにつれてっちゃだめ?」
と私の方をすがる様な瞳で見詰めて言うので
覚さんの方を見て助言を聞こうとする。
覚さんは軽く頷き妖気を集中させて
くだんの心を覗く。
すると覚さんが驚いて、
「確かにこのくだん達には私が知っている
ような力はもうないみたいですね…」
「恐らくですが現代のテクノロジーが、発展した事により予言の力を信じる人間の想いが薄れたのが原因ですね。」
「鈴木君この子達は安全な妖怪です。」
「安心しても大丈夫ですよ。」
そう言うと安心した表情を浮かべていた。
光音
「じゃあパパ、ももとくるみ、おうちにつれてっていい?」
鈴木
「ももとくるみ?」
光音
「うん、このこたちのなまえ。」
光音
「あかいめのこはもも、あおいめのこはくるみなの!」
鈴木
「えっもう名前付けたの?」
鈴木
「家はペット駄目だからなぁ…」
覚
「しかしくだんを放っておくのも危険だ…」
覚
「よし私が大家さんの所に行き交渉してこよう!」
そう言うと凄い速さで走って行く。
私はももとくるみを優しく小さな手で包み
喜んでいる光音の姿を見て
「じゃあ家に帰るか。」
と伝えると青い目のくるみが口を開き
「今家に帰ると柊が怒っている…。」
「鈴木太郎…柊と喧嘩になるだろう…」
そう言うと赤い目のももが
「しかしこの先のコンビニに売っているみたらし団子を買って帰れば喧嘩は防げるだろう…」
そう私達に伝えるとまた眠りにつく。
私は先ほどのこともあるのでコンビニで
みたらし団子を買って家に帰る事にした。
家の扉を開けて「ただいま!」と言い帰ると
仁王立ちで柊さんが怒っている。
柊
「遅いですよ!」
柊
「皆さん私を置いて何処に行っていたのですか?」
鈴木
「いや、覚さんが朝のジョギングだと行って無理矢理起こされてね。」
鈴木
「光音と一緒に走って来たよ。」
柊
「なら私もどうして起こしてくれなかったのですか?」
そう言うとふてくされている。
私はももとくるみの予言を思い出して
みたらし団子を柊さんに渡すとぶつぶつ言いながら袋の中身を見てみたらし団子だと
分かると嘘のように機嫌が治っていた。
私はももとくるみを可愛がろうと飼う覚悟を決める。
すると覚さんが帰って来た。
大家さんの許可を得たらしい。
そしてまた鈴木家に
妖怪くだんのももとくるみが新しい家族と
なった。
またくるみが
「鈴木太郎…会社に遅刻するだろう…」
そしてももが
「しかし今から走れば遅刻せずに済むだろう…」
と予言を伝える。
私は時計を見て全速力で職場に走って行く…




