第五〇章 ライバル同士の連絡先交換
台湾出身の陸坡と申します。
この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
阪海工と向陽高校の五日間にわたる合同合宿も終盤に差し掛かった。上級生たちの練習試合の後には、中日ドラゴンズの現役プロ野球選手・片岡和義による直接指導が行われた。バッティングや捕球の技術、投球へのちょっとしたアドバイスなど、ごく基本的な集団指導ではあったが、球児たちにとっては貴重な時間だった。
片岡和義はチームではサードを守り、強打と安定した打撃で知られる選手だ。メジャーに挑戦するような超有名選手というわけではないが、野球ファンや中日ファンの間では、彼がグラウンドにいると安心感があり、また「相手投手の試金石」とも見なされていた。特に新人投手が片岡と対戦した際、その通用度ですぐに実力が測れるため、球界内では一時「片岡指数」と冗談めかして呼ばれていたほどだ。
四日目は通常の練習に加え、特別な時間が設けられた。二年生が片岡和義から教わったことを、一年生に伝授する時間である。スケジュールの都合上、片岡和義が二日間も滞在することは不可能だし、本人が良くても球団が許さないだろう。そのため、プロの指導を受けられなかった一年生の無念を晴らすべく、先輩が自分たちの学んだ技術を後輩に教えることになったのだ。これは向陽高校の田中監督の提案でもあった。せっかくの機会であり、野球部の「伝承」としての儀式的な意味合いもちょうど良く込められていた。
「あんたが子供や学生を教えるのが好きなのは知ってたけど、まさか本当に時間を割いて来てくれるとは思わなかったわ」
車で兄を送る道中、片岡里子は兄の和義に言った。
自分がすべて手配したような口ぶりだが、実のところ、里子自身もプロの選手である兄がこんな急な頼みを本当に引き受けてくれるとは思っていなかったのだ。通常、プロ選手を招待するには、球団とのメールのやり取りから始まり、企画書や資料の提出、球団の承認、さらに選手本人のスケジュール調整など、運の要素が非常に強く絡む。
ところが兄は「監督と球団に掛け合ってみるよ」の一言で片付け、あっという間に今回の合宿の目玉であるプロ選手による指導を実現させてしまったのだ。
「まあ、シーズンもまだ始まったばかりだし、なんとか時間は絞り出せるからな」
和義はあっけらかんと言ったが、里子にはそれが兄の言葉通り簡単なことではないと分かっていた。
日本の野球界において、「プロ」と「アマチュア(学生)」の境界線は非常に厳格に引かれている。そもそも里子の依頼自体、プロ球団に承認される可能性は低く、通常は公式の野球教室や、選手の母校訪問といった名目でのみ交流が許されるものだ。
面白いことに、中日ドラゴンズ内で非常に人望が厚い片岡和義は、選手間だけでなく首脳陣の間でも顔が広かった。現在の首脳陣には片岡の大先輩もおり、和義は京セラドームでの関西遠征中の休養日を利用し、数時間だけ融通を利かせてもらえるよう頭を下げたのだ。
さらに、妹の片岡里子が元・女子野球日本代表選手であることも少なからず後押しとなり、様々な要素が重なった結果、今回の和義の「特例」が認められたのである。
「それにしても、お前が高校野球の監督をやってるなんて驚いたよ」
「私の性格に合わないって?」
「それもある。お前は俺の妹だが、里子、お前は少し打算的なところがあるからな。手取り足取り一から学生を育てるより、すでに完成された選手をどう起用して采配を振るうかってことの方が好きだろうに」
「はっきり言えば、お前は学生を教育する柄じゃないってことだ」片岡和義が言った。
兄の言葉を聞いて、里子は思わず吹き出した。「本当に容赦ないわね」
車が左折のウィンカーを出し、大阪市内へと入っていくと、交通量が増え始めた。兄妹とはいえ、先ほどの会話を最後に里子は口を開かず、車内は沈黙に包まれた。だがそれは気まずい雰囲気ではなく、むしろ家族ならではの心地よい静寂だった。
「そういえば……プロの目から見て、うちの阪海工はどうだった?」
車を走らせながら里子が尋ねた。指導の件はともかく、彼女が一番聞きたかったのは、間もなく甲子園に挑もうとしているこの学生たちを、プロの世界の人間がどう評価するかだった。
片岡和義は少し考えてから言った。「俺たちの学生時代のレベルと比較するなら、今のあいつらは当時の俺たちを遥かに凌駕しているな。特にピッチャーの球速だ。今どきのエースは、昔のエースとは完全に次元が違う。球速はどんどん上がり、コースもよりシビアになっている……」
和義は学生全員の名前までは覚えきれなかったが、顔とポジションはおおよそ里子の想像通りに把握していた。特に阪海工の主砲である田中龍二と、エースであり主将の藤田迅真は印象に残ったという。和義から見ても、藤田の現在の実力なら、さらに努力を積めばプロに挑戦できる可能性があると評価していた。しかし……。
「耳が聞こえないというのは、深刻な問題だ」と和義は言葉を継いだ。「プロの球団にとって、聴覚や身体の一部に障害があるという話になれば、表面上は尊重する姿勢を見せても、現実的にはそういうリスクのある選手は指名しない」
「たとえ彼が、飛び抜けて優秀なエースだとしても?」
「どれだけ優秀だろうが、強豪校のエースだろうが、球団にとっては大した意味を持たない。滅多にお目にかかれないような天才選手でさえ、球団は獲得に二の足を踏むんだ。ましてや、すでに不利なハンデを抱えているピッチャーなら尚更だ。高校生プレーヤーが大学生や社会人よりもプロから評価される最大の競争力は、球団が彼らを『可塑性のある白紙』だと見なしているからだ。だが、すでに一部が『損傷している白紙』を、果たして球団が選ぶかどうかは……俺には分からないな」
グラウンドで学生たちを励ましていた時とは打って変わり、車内での兄の言葉は極めてシビアで現実的だった。里子自身ももちろんその問題は考えたことがあったが、当の藤田本人が、もしプロへの道を志した時にその現実とどう向き合うのかは分からなかった。
その時、片岡里子はふとあることに気がついた。藤田自身がどう考えているかは分からないが、確実なことが一つある。キャッチャーの佐久間圭一は、間違いなくこの現実をすでに考慮しているはずだ。だからこそ、あんなにも藤田に肩入れしているのだ。ある意味、高校生たちの思考は分かりやすいとも言える。だが同時に、里子は考えた。そんな思いを抱えながら、佐久間は本気で「自分と藤田が大人になるまで、彼の一生を背負いきれる」と無邪気に信じているのだろうか?
それは、無邪気な思い上がりなのか。それとも、すでに覚悟を決めた上での重荷なのだろうか。
「でも実は、一人『なかなか面白いな』と目を引かれたやつがいてね……」
「へえ? あんたが学生相手に『面白い』なんて言葉を使うのは珍しいわね」
藤田と佐久間の件は一旦頭の隅に置き、片岡里子は尋ねた。兄が特定の選手に対してそこまで興味を示すのは珍しい。しかも、出会って一日も経っていないのに印象に残った学生となれば尚更だ。「誰のこと?」
「名前が変わってるんだよな、『南極』だったか? 本格的に野球を始めてまだ半年ちょっとだと聞いたが、実に面白い。バッティングのフォームも、捕球の仕方も、それにあのとんでもない大暴投もな……」
大暴投をやらかした後に見せた、あの「やっべぇ」という漫画みたいに分かりやすい顔を思い出したのか、プロ野球選手の片岡和義は思わず吹き出した。
「あいつら一年生じゃない。そういえば、あんた一年生の指導はしてないはずだけど、いつの間に見てたの?」
里子が兄をジロリと見ると、和義はその追及をスルーして続けた。
「いや、本当に末恐ろしいよ。あの球速と威力だ。もし暴投が直って、バッティングも安定するようになれば……一年生であのポテンシャルだからな。三年生になる頃まで順調に成長していけば……」
とんでもない怪物級のプレーヤーになるかもしれない。
「ボール球の確率を改善できればの話だけどね」と里子が言うと、和義も「まあ、それもそうだな」と頷いた。
もっと別の視点からの意見が聞けるかと思っていたが、南極のその爆発的な成長力については、里子も白井修吾も、阪海工の指導者二人ともすでに気づいていることだった。正直なところ、あの速すぎて制御不能な暴投さえなければ、そして白井と意見が対立していなければ、里子はとっくに日空南極を一年生の枠から引き上げ、二年生と一緒に特別練習させていたはずだ。そうすれば、今の阪海工のエース投手は藤田ではなく、南極になっていたかもしれない。
「……もう一方のやつには、かなりの『勇気』が必要だと思ったがね」
「暴投に勇気が必要なの?」
「ん? 暴投? いや、南極のピッチングのことじゃない。別のやつの話だ」
「別のやつ? それって……」
南極のことを考えながらカーナビを見ていたため、里子は兄の話を真剣に聞いていなかった。いつの間にか兄が話題を変えていたことに気づいた時、車は中日ドラゴンズの遠征の定宿である提携ホテルに到着しようとしていた。
「かなり小柄なのに、あの爆速の暴投に怯むことなく、ものすごい迫力で捕りに行ってた。自分より二回りもデカい選手を相手にしても全く物怖じせず、気迫があるのに、決して周囲に威圧感を与えない。特に驚かされたのは、キャッチャーの防具を外したかと思えば、そのままブルペンに入ってピッチングを始めたことだ。キャッチャーでありながらピッチャーもやるのか? 実に面白いやつだ」
ピッチャーでありながら、キャッチャー?
里子はホテルの正面玄関に車を回し、兄を降ろした。兄が「面白い」と言っていた選手について頭の中で考えを巡らせ、数秒後、ハッとある可能性に思い当たった。まさか、兄が言っていたのは……。
「林友達のこと?」
車に一人残された片岡里子は、思わずその名前を口に出して呟いた。
兄の言葉の描写からすれば、最も可能性が高いのは彼だ。しかし……。
日空南極 と 林友達。
里子がこの、いつも一緒にべったりくっついていて、同室で、身長差が極端に激しい二人のプレーヤーについて真剣に考えたのは、これが初めてだった。彼女の頭の中に、ある一つの「可能性」が浮かび上がりつつあった……。
※※※※
合宿最終日。
両校の野球部員たちは部屋の片付けや荷造りに追われていた。阪海工男子寮の和室の大部屋を綺麗に掃除し、大人しくそれぞれのリュックを背負って一階へと降りていく。最終日には練習はなく、食堂で両校の生徒たちが自由に交流できる貴重な時間が設けられていた。両校の部員でごった返す食堂では、自然と向陽高校と阪海工の生徒が同じテーブルに相席する光景が見られた。
一年生に比べると、練習試合でぶつかり合い、一緒にプロ選手の指導を受けたおかげか、二年生同士の交流は目に見えて活発だった。
「友達、見ろよ」
水を飲んでいた友達は、隣の流星に声をかけられ、彼が顎でしゃくった方向を見た。そこには、自分たちの先輩であるエース投手の藤田が、向陽のエースである佐藤と同じテーブルに向かい合って座っている姿があった。二人のエースだけでなく、それぞれの専属キャッチャーも同じテーブルに揃っている。この光景は、少なからず両校の部員たちの視線を集めていた。
「なんか、バチバチ火花が散ってる感じがしないか?」何か大きな波乱(修羅場)を期待しているのか、豊里流星は興奮気味な顔で言った。
「んー……先輩たち、試合とか野球のことについて話してるだけじゃないの?」友達は答え、流星がなぜそんなにテンションが上がっているのか理解できなかった。
流星は友達にその「ヤンキー的なロマン」を理解させようと必死になり、一人で何役もこなすエア・アフレコ(声当て)を始めた。
「いやいや、そんな単純な話じゃねぇよ! きっと向陽のやつが藤田先輩に向かって、『てめぇ、案外大したことねェな~』って煽って、そしたら藤田先輩の隣で佐久間先輩が冷たい声で、『よその奴が何ほざいてやがる、ぶっ殺されてぇのか、コラ!』って凄んで……そこからジリジリと一触即発の火薬の匂いが立ち込めて……」
流星が妙な不良用語を使い、しかも言葉をねちっこく繋げて喋るため、日常会話では聞き慣れない単語ばかりで友達には彼が何を言っているのかほとんど理解できなかった。ただ眉をひそめながら、流星のその大根役者じみた一人芝居をポカンと見つめるしかなかった。
「流星。佐久間先輩がいくら怖くても、『ぶっ殺す』なんて言わないだろ」友達は言った。
「友達、そいつまた中二病が発症してるだけだから、流星の妄想ワールドなんて真に受けなくていいぞ」
斜め向かいで本を読んでいた宇治川が言った。流星のこの手の発作にはすっかり慣れっこらしい。
「チッ、なんだよノリ悪いな。俺はただ、あそこで衝突して『だったら次の試合で決着をつけようぜ!』ってなって、そこから宿命のライバルになるっていう……昔の野球アニメのお約束の展開になるんじゃないかって言いたかっただけだろ。な? な? 友達……南極……」
「……日空、お前は流星の言ってること分かるか?」
友達が振り返って日空南極を見ると、南極は隣に座っている小林に向かって、南極ペンギンがどうやって腹ばいで滑るのかを身振り手振りで実演しているところだった。しかし、小林の虚無を見つめるような無表情から察するに、全く興味がないようだ。
「流星の言ってること、俺分かるぞ!」友達から少し話を聞いただけで、南極はすぐに話に食いついた。「漫画だとさ、よくあるよな。主人公がすげぇ強いヤツに出会って、お互いにライバルになるんだ。それで、敵同士なのにピンチの時には一緒に成長して、なんなら『俺を倒す前に他のヤツに負けるな!』みたいになるやつ」
「言われてみれば確かにそうだな。『ダイヤのA』とかでもそういう展開あるし」
南極の言葉を聞いて、宇治川は意外にもすんなり納得したが、すぐに冷や水を浴びせるように言った。
「でも、漫画は漫画、現実は現実だ。だいたい、初対面の人間にいきなり『てめぇ』なんて暴言吐くやつ、人間としてヤバすぎだろ」
「…………」
宇治川がそう言いながら友達と南極を見ると、三人は同時に流星へと無言の視線を向けた。同じテーブルの三人に一斉に見つめられ、流星はたまらず叫んだ。
「おい! なんで俺を見るんだよ! 俺だってそんなこと言わねぇよ!」
流星は必死に反論したが、三人からは疑いの目を向けられたままだった。
「でも、やっぱり……早く試合してぇなぁ」南極はそう言うと、机の上に突っ伏した。
「せっかく野球部に入ったのに、この前の紅白戦以外、全然試合してないじゃん。毎日毎日、練習ばっかりだし」
どうやら南極は、今回の合宿でせめて一試合くらいは出られると期待していたようだ。しかし残念ながらスケジュールの都合上、一年生が試合に出ることは許されなかった。
「うん、俺もそう思う」
南極の言葉を聞いて、友達も深く同意した。日本に来てからのこの一年間、本当に来る日も来る日もひたすら基礎練習ばかりで、まともな実戦経験がほとんどない。台湾にいた頃はしょっちゅう何かしらの試合をしていた状況と比べると、あまりにも違いすぎた。
野球というスポーツは、普段の練習は地味で退屈だが、いざ試合となればアドレナリンが爆発し、熱狂できるスポーツだ。たとえ自分たちの技術や体力がまだ完璧でなくとも、友達はやはりマウンドに立って実際の試合をしてみたかった。自分の今の実力がどうなのか。成長しているのか、まだまだ足りないのか。それとも、日本のレベルとはまだ大きな壁があるのかを確かめるために。
試合に出たくてうずうずしている友達と南極の顔を見て、宇治川はパタンと本を閉じて言った。
「そのうち嫌でも試合することになるさ」
「えっ、マジで?」宇治川の言葉に、南極は目を丸くして身を乗り出した。
「一年生に試合がなく、ひたすら基礎練とグラウンド整備、先輩のサポートばかりやらされるのは、まぁ想定内だ。でももう少ししたら、監督も俺たち一年生と先輩たちでミニゲーム(紅白戦)をやらせるはずだ。その中で、公式戦のベンチ入りメンバーを探し出すためにな。俺はそう読んでる」
「俺たちが長期間練習してきて、そろそろ成果を試す時期だからってこと?」友達が尋ねると、宇治川は少し考えてから友達を見て言った。
「いや、理由はおそらくそれじゃない」
「え? 違うの? 俺、最近ボール球の数減ってきたと思うんだけど」と南極が言った。その的外れな発言に宇治川はツッコミを入れる気すら失せ、呆れながら言った。
「友達、南極。お前らまさか、俺たちが永遠に『一年生』のままだとでも思ってないか?」
「え、どういう意味?」
友達には、なぜ宇治川が急に「一年生」の話を持ち出したのか分からなかった。すると突然、背後からのしかかってくる重みを感じた。隣にいた流星だ。流星はニヤニヤ笑いながら友達の頬をツンツンと突いて言った。
「4月からは、俺たちも『先輩』になるんだぜ、友達センパイ」
「えっ……あああ、そういうことか! え、えっ? そっか……」
友達は数秒フリーズした後、流星と宇治川が指摘した重大な事実にようやく気がついた。何かを思い出してハッとしている友達の顔を見て、南極も興味津々で椅子をズリズリと近づけ、流星の真似をして友達のもう片方の肩に顎を乗せて聞いた。
「何々? どういうこと?」
「4月から、俺たちは『二年生』になるってことだよ」宇治川が言った。
三月中旬。暖かな春の訪れと桜のほころびと共に、野球部三年生の先輩たちの卒業式がやってくる。友達と南極は、何も分からなかった一年生から間もなく二年生になり、阪海工にはまた新たな新入生が入学してくる。もし彼らが野球部に入部すれば、自分たちは新入生から「先輩」と呼ばれる立場になるのだ。
「二年生が一番忙しい時期だぞ。練習試合に、先輩のサポート、それに後輩の指導もある。その上、そろそろ監督も次のベンチ入りメンバーや、エースピッチャーの候補を本格的に絞り込んでくるだろうしな……」
宇治川が「エースピッチャー」という言葉を出した瞬間、友達と南極の視線がピタリと彼に集まった。宇治川もまた、ライバルとしての闘志を秘めた目で二人を見返し、最後にフッと笑って言った。
「二人のピッチャーさん、これからもよろしく頼むぜ」
「こちらこそ、よろしく」友達が応じた。
(うおお──っ! これだよ、俺が見たかったバチバチの展開!)
打撃メインでエース争いには無関係の流星は、阪海工の将来を担う三人の投手が火花を散らす光景を目の当たりにして、内心大いに興奮していた。しかし、南極の方を振り返ると、南極はまるで小学生のような無邪気な笑顔を浮かべ、宇治川や友達の真似をしてこう言ったのだ。
「うん、よろしくねー!」
その声はまるで「これから遊びに行こうぜ!」と言わんばかりのトーンで、せっかくのヒリヒリとした緊張感を一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
「南極、お前も一応エースピッチャーの座を争うライバルなんだからな!」流星は呆れて南極に言った。
「そうだな! 俺もエースになれたら最高だな!」南極はニコニコと笑って答えた。
「そうじゃねーよ! もっとこう、覇気ってもんを出せよ! 例えば……『てめぇらよく聞け! この俺様が絶対にエースになってやる!』みたいなさぁ」
「やっぱり流星は、普段から息を吐くように『てめぇ』って言ってるんだな」宇治川がすかさずツッコミを入れた。
「ぶっ──! 確かにそうだな」宇治川の的確なツッコミに、友達は思わず吹き出してしまった。隣にいる南極は完全に状況が分かっていない様子だ。流星は顔を真っ赤にして反論した。「今の話と全然関係ねぇだろ! 宇治川!」
せっかくの両校混合の自由時間だったが、積極的に交流していた一部の外交的な二年生を除けば、やはり多くの部員は人見知りをして固まっていた。最後には向陽高校の佐藤主将と阪海工の藤田先輩が前に出て、この数日間の合宿の感想を述べるスピーチを行い、全員が礼儀正しく拍手を送った。
しかし、向陽の佐藤主将が流暢で自然なスピーチをこなしたのに対し、阪海工の藤田主将の言葉は少しぎこちなく、たどたどしいものだった。その姿を見て、友達は数日前、藤田先輩が寮の自販機のコーナーにこっそり隠れてスピーチの原稿を暗記していたのを思い出した。きっと今回も、佐久間先輩に頼りきりになるのではなく、主将としての自分の責務をしっかりと果たそうと必死に努力していたのだろう。
いよいよお別れの時。向陽高校野球部のメンバーは、阪海工の校門前に停まっている送迎バスに乗るため、一列に並んで待機していた。「ハム君」こと廣瀬も、列の中にちゃんと並んでいる。彼が突然大人しくなり、何もやらかさずにいるのを見て、隣にいた同級生のチームメイトたちは珍しがり、からかい始めた。廣瀬はそれを煩わしく思い、口を尖らせて言い返した。
「うっさいな。俺だって、いつもトラブルばかり起こしてるわけじゃないだろ」
「うわぁ、一番やらかすヤツが『自分はやらかすだけじゃない』って言ってるぞ」
「合宿の数日前まで、あちこちフラフラして小早川に散々迷惑かけてたくせにな、ハム」
周りの部員たちは、廣瀬の「トラブルばかりじゃない」という反論を完全に冗談として扱い、全く信じていなかった。
(俺は別に、トラブルを起こしたくて阪海工のやつに近づいたわけじゃない……)
廣瀬は心の中で呟いた。彼なりにこの問題には真剣に向き合っていたのだ。昨日の夜なんて、寝る時に布団を頭からすっぽりかぶり、どうすれば逃げ出さずに自然に吉田に謝れるか、一晩中シミュレーションしていたくらいなのだから。
チームメイトたちの絡みを面倒に感じ、廣瀬は言い訳するのをやめた。さっき思い出した小柄な吉田の姿に、阪海工の林友達という同じく小柄な姿が重なる。廣瀬はゆっくりと校門の方へ歩きながら、こっそりと振り返り、校内側に立っている阪海工野球部の面々を見つめた。
林友達が言った通り、彼は吉田ではない。だから、俺を助けることなんてできないのかもしれない。でも、廣瀬自身もそんなことはとうの昔に分かっていたような気がする。ただ今回の合宿で、吉田に似た小柄な友達に少しでも近づくことができれば、まだ吉田と一緒に野球をしているような錯覚に浸れる気がしたのだ。
小早川の言う通りだった。これは全部、俺のただの「わがまま」だったんだ。
「お前、またあいつのところに行こうとしてるのか? あの阪海工のピッチャーのところに」
「うわあっ! 小早川かよ! 急に出てきて驚かすなよ」
「急に出てきたんじゃねぇよ。お前が俺の方にジリジリ寄ってきて、ちゃんと列に並ばないからだろ、ハム……」
小早川は、廣瀬のあまりにも大げさに驚く顔を見て、呆れながら言った。
「今日が最終日なんだ。帰る間際になって、また変なこと……」
「あっ!」
「ああっっ──!」
小早川が言い終わる前に、廣瀬は突然何かを思い出したように大声を上げた。その声に周りの一年生たちが一斉に彼を見たが、発信源が「ハム君」だと分かると、「またあいつか」と納得し、すぐにそれぞれ自分の作業に戻っていった。小早川は廣瀬の突然の大声にビクッとして言った。「な、なんだよ? 急に大声出して」
「忘れるところだった! 俺、今から林友達のところに行ってくる!」
廣瀬はそう言い放つなり、自分の野球バッグをその場に放り投げ、阪海工の校舎に向かって猛ダッシュし始めた。向陽高校の一年生たちは、廣瀬のその突飛な行動に全員が呆気に取られた。小早川も一瞬思考が停止したが、我に返った時には、すでにあのハムスターは阪海工の敷地内へと駆け込んでいた。小早川も慌てて自分のバッグを投げ捨て、後を追いかけながら叫んだ。
「ちょっと待て! ハム!」
「止まれーーっ!!」
校舎の外が急に騒がしくなったのを感じ、友達が校門の方へ振り返ると、大げさな身振りでドタバタとこちらへ向かって走ってくる人影が見えた。その人影は走りながらキョロキョロと首を振り、必死に何かを探しているようだった……。
「友達、あの人おかしいぞ。何か忘れ物でもしたのかな?」
南極も、校門のバス乗り場から走ってくる奇妙な人影に気づいたようだ。
「さあ、分からないけど……」友達も首を傾げた。
二人が不思議に思っていると、その人影が突然こちらを振り向き、まるでターゲットをロックオンしたかのように一直線に走ってきた。さらに、いつの間にかその後ろをもう一つの人影が必死に追いかけてきている。二つの影が猛スピードで迫ってくるのを見て、南極と友達はギョッとし、「えええええっ!?」と声を上げて思わずのけぞった。
「ハム! もうバス出るぞ、戻れってば!」
「ま、待ってよ! 忘れ物したんだ! 小早川、マジで、ほんの一瞬で終わるから!」
「ダメだって! 監督が来ちゃうだろ!」
「ハム君? 小早川?」
向陽高校のユニフォーム姿が近づいてきて、友達はそれが「ハム君」こと廣瀬一睦と、チームメイトの小早川牧であることにようやく気がついた。
廣瀬が息を切らして自分の目の前まで走り寄り、ハァハァと肩で息をしながらこちらを見つめている。阪海工の部員たちは全員その光景に注目し、友達、南極、そして廣瀬の周りに人だかりの輪ができてしまった。小早川はその輪の外で立ち止まり、中に入って廣瀬を引きずり出す勇気が出ずにいた。運悪く阪海工の二年生・田中龍二の鋭い眼光とバッチリ目が合ってしまい、慌ててペコペコと頭を下げた。「す、すみません、本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
息を弾ませながら一歩一歩友達に近づいてくる廣瀬を見て、南極は本能的に友達を自分の方へ引き寄せた。しかし廣瀬はそんなことにはお構いなしに、両手でスマホを友達の目の前に差し出して言った。
「あ、あのさ、林友達くん……」
「ん?」
「俺と、連絡先(LINE)交換してくれないかな?」
廣瀬はそう言うと、真っ赤な顔でスマホの交換画面(QRコード)を見せ、友達の返事を待った。
まさかそんなことのために自分のところまで走ってきたとは思わず、友達は廣瀬を見て一瞬キョトンとしたが、すぐにコクリと頷いた。「いいよ」
友達が承諾するのを聞いて、廣瀬はパァッと顔を輝かせた。「やったぁ!」
その無邪気な笑顔を見て、友達は彼がなぜ向陽高校野球部であんなにも甘やかされ、愛されているのか、なんとなく分かった気がした。
二人が連絡先を交換している間、友達はチラッと後ろにいる南極の顔色を窺い、尋ねた。「ハム君と連絡先交換するの、怒ってないよな? 日空」
「んー……怒ってないよ、たぶん」南極は口を尖らせた。
実のところ、友達のSNSのフレンドリストには、自分や野球部、クラスメイト以外にも、すでに多種多様な人々がひしめき合っていることに南極はとうの昔に気づいていた。台湾の事情に詳しい小林が言うには、台湾人はもともとこういったメッセージアプリを単なる連絡ツールとしてバンバン使うため、見知らぬアカウントがたくさん登録されていても大して気にするようなことではないらしい。
「おっ、南極ヤキモチか?」
「友達が向陽のやつに取られちゃいそうだな〜」
「そんなんじゃねーよ、バーカ!」
周りの部員たちが冷やかすので、南極は照れ隠しに怒鳴り散らした。しかし次の瞬間、彼らの声よりもさらに大きな怒声が遠くから響き渡った。
「小早川! 廣瀬! お前ら何集合サボって他校に残ってんだ!」
向陽の二年生主将・佐藤が小走りで近づきながら怒鳴りつけてきた。その声でようやく廣瀬が振り返ると、そこにはブチギレ寸前の小早川の顔があり、廣瀬は間抜けな声を出した。「あ?」
「『あ?』じゃねーよ! さっさと戻るぞ!」
小早川は廣瀬の首根っこを掴み、無理やり佐藤先輩の方へと引きずっていった。引きずられながらも、廣瀬だけは友達と南極に向かって無邪気に手を振って別れを告げており、小早川の怒りゲージは限界を突破。この迷惑なハムスターの耳をギュッとつねって制裁を下した。
「本当に、面白いヤツだな」
ハム君が叱られているその姿を見て、友達はたまらず吹き出してしまった。
向陽高校の送迎バスが走り去るのを見送り、阪海工が主催した今回の二校合同合宿は、こうして無事に円満な幕引きを迎えた。




