一話『プロローグ』
「ハイラキア」は造語で、それ以外の人名は全てフランス人名辞典からかっぱらってきました。「ハイラキア」がフランス語っぽくないのはそのためです。
また、この世界における精霊とは、現実世界における精霊やお伽噺に見られる妖精、日本の八百万の神、宗教に見られる唯一神をごちゃ混ぜにした概念です。光精霊がいるのに闇精霊はいなかったり、草精霊や木精霊という奇怪な精霊がいるのはそのせいです。
◆■■■■視点◆
グシャリ、なんてささやかなものではない。
あれはきっとドカーンとか、グシャアッとか、そんな感じの派手な音だ。
――俺は死んだ。交通事故で割と呆気なく。
平凡な母親と父親、高校生の一人息子。家族三人でドライブ中に、対向車線の2トントラックがフラフラと蛇行運転、からの俺たちと正面衝突。
ちょうど橋の上での衝突であったため、勢い余って俺たちの車は河川敷へ落下……運転席と助手席にいた両親は、もしかしたらエアバッグで助かったかもしれないが。後部座席にいた息子であるところの俺は、シートベルトをしてはいたものの死亡した。
――なぜ、そんな風に冷静にそれを見ることができているか、と言うと。
幽霊になったから、なのだけれど。
「……あー」
口を開けて声を出す。どうやら声は出るらしい。所謂〝霊感〟とやらがない人間には見えない聞こえないだろうが、普通に地面に立てているし、幽霊になっても人間の頃と感覚は大差ないらしい。
まあそれもそうである。幽霊だって生前はただの人間。いきなり足がなくなるとか、あまつさえ浮遊するとか、急にはできないだろう。……いやできるのだろうか?
そも、幽霊を〝魂だけの人間だ〟と仮定した場合、魂とは物質ではないのだろうしもちろん物理法則を無視できる。どこかに移動したいとなっても、馬鹿正直に歩いていく必要もなさそうだ。
「――――」
こう、どこかにテレポートする……は、イメージが難しいが。あの方向にあると思われる自分の家に、たった一歩で到着することをイメージするとすれば?
なんか、跳ぶと言うのか。足を踏み出して、もう一歩踏み込んだ時にはもう、目的地に行けているみたいな。
それは正しく〝跳ぶ〟というものだろう。こんな感じで、一歩、二歩と――
「……うお、マジか」
――できてしまった。
先ほどまで河川敷の事故現場にいたはずなのに、目の前には見慣れた生家があった。たった一歩で距離を省略するのだから、〝ジャンプ〟とでも名付けられ……
……少し舞い上がりそうになったテンションを、なんとか宥めつける。家に帰ってこれても、移動方法が革新的になっても、死んでいるのなら意味はないのである。
――俺は死んだのだ。
「はぁ……」
ため息を吐く。さてこれからどうしよう。
死んでいるので、もちろん物には触れないし誰かと喋ることもできない。なにも食べなくても死にはしないだろうが、そう考えるとそもそも〝生命維持をしなくていい〟のだから、まず真っ当な生物としてやることがない。
……銭湯の女湯でも覗きに行こうか。いやでもこの辺りの銭湯なんてどこにあるんだ。使おうと考えたこともないので知らないぞ。
――というか、そんな気分でもない、な。
「……死んだんだもんな」
案外堪える、というかなんというか。
……いや、かなり堪える。平和ボケも極まった現代日本だけあって、〝人の死〟は身近じゃない。身内を亡くした経験もない俺に、いきなり〝自分の死〟を消化しろというのも無理な話だった。
「……やばい、泣きそう」
高校生にもなって、柄にもなく泣きそうになってしまった。死を自覚した途端、寂寥感ややり残しが頭をよぎって、どうにもならなくなってきたのだ。
とにかく、とにかく誰かと話したい。誰でもいいから、俺を一人にはしないでほしい。誰か、誰か――
「……っ」
――そこで我に返る。なるほどと言った気分である。生者に執着する悪霊や怨霊とは、こうして生まれて来るものらしい。
まさか自分の身で経験することになるとは思わなかったが、この思いで行動するのはいけない。とにかく、目下の目的は「さっさと成仏する」でよさそうだ。
――成仏。幽霊の残した未練を、解消する……とか?
未練、未練か。……俺に未練などあるのだろうか? あんなに試験勉強をしたのにテスト前に死んだこと? 近々発売のゲームを、楽しみにしていたのにやり逃したことだろうか?
「…………」
くだらない。まして、物に触れない現状でできることでもない。
……というか、未練を解消して成仏するのは〝現世に未練を残した霊〟であって、なにが原因で幽霊になったかわからない俺ではどうしようもない。
自覚のない未練でもあるのだろうか。そんなもんを俺一人で探せと? 無茶を言うな。
「……案外、幽体離脱の才能とかあったりしてな」
ポツリと、俺は冗談のつもりで呟く。家の壁に背中を預け――られずにすり抜けたので棒立ちになり、為す術なく宙を見上げる。それが案外的を射ている気がして、それに縋ってみることにした。
……幽体離脱、だとしたら。死んだと思っていた俺の肉体に、意外と簡単に戻れるかもしれない。
事故に伴う大怪我で死んだと思っていたが、俺は実は無傷で、気絶で済んでいるだけなのかもしれない。
――河川敷で横転した車の周りにあった血溜まり。
そのことは極力考えないようにしながら、もう一度〝ジャンプ〟をしようと、イメージを固めながら足を踏み出そうとして――
「――?」
――それに気がついた。
形容するとするならば、ポツンと存在する〝穴〟。色のない穴だ。白でも黒でも、かと言って透明でもなく。言うなれば、ハッキリ穴として見えているわけでもない。
「穴がそこに見える」という視覚が働いているというより、「穴がそこにある」という直感を中途半端に視覚に反映している、と言うのが正しいような感覚だ。
「……なんだ?」
俺は首を傾げる。近づいていいものなのかはサッパリだったが、まあ俺は他に行くところがある。ひとまず好奇心諸共捨ておくことにして、〝ジャンプ〟のイメージを。
せーの、一歩、二歩と……
……あれ。できない。
一度成功したから行けると思ったが、無理だった。仕方ない。あの河川敷までの道順はわかる。徒歩で行くことにしよう。
病院に搬送されて肉体の行方がわからなくなるのも困るので、早めに行かねば。すまぬ穴、それまでお前の探索は後回しだ。
――と、思ったのだが。
「……?」
なんだか、穴から吸引力を感じる。
穴の方に、俺の身体――幽霊だが身体の意識はある、身体と言っていいはずだ――が引っ張られるのだ。重力や引力に似た、掃除機のような吸引力である。しかも結構強くなってきていて、足を踏ん張った程度では抗えそうにない。
「やば――!?」
慌てる俺。足を踏ん張っても耐えられないのならなにかに掴まるべきだが、物に触れないのは散々確かめた。実際意味もなかった。
「――!」
歯を食いしばる。穴はもう目前に迫ってきていた。なにが起きるのかは知らないが、もうこうなったら覚悟を決めるしかない。
――願わくば、これが地獄の入口とかじゃありませんように。
それだけ最後に考えて、俺の意識は消失した。
◆エルネスト・オードラン・ハイラキア視点◆
――死んだ第三王子の肉体に、異世界の魂を憑依させて擬似的に蘇生し、これを利用する。
その案は、実現は可能でも可能性は低くリスクも大きい、ただの保険のはずだった。
諸事情で、この国の第三王子――俺の腹違いの弟でもあるノワールに、とある女との政略結婚を迫った。
その相手の女が訳ありだったために、ノワールはこれを拒否。三日三晩と言わず何週間も押し問答を続けた挙句、ノワールが「取り消さねば毒を煽って死ぬ」とまで言い出すので、「ならばやってみろ」と売り言葉に買い言葉。
……それで本当に毒を飲んで死ぬのだから、この出来損ないの弟にも意地くらいはあったのだと、拍子抜けしたくらい。
「――――」
その現場に立ち会った俺と第一王子である兄上の報告を聞いた、現国王である父上は重苦しい顔で黙り込んだ。
俺たちを叱りたい気持ちはあるだろう。「なぜそのようなことをした」と、怒鳴りながら理由を問うてもいいはずだ。「王族にあるまじき行動だ」と、俺たちの軽率さをなじることもするべきだ。
だが、父上はそれをしない。起こってしまったことについて憤慨しても意味はないと、怒るよりも前に解決策を考えるのがこの人だ。
一国の王に相応しい人格者。それがこの父上である。
「……仕方あるまい。保険を使うぞ」
「準備はできています」
保険を使うと言う父上に兄上が言った。元々、ここに来る途中で保険の手立ては済ませてある。そもそもノワールなどというバカに期待をしていなかったというのもあって、準備だけならいつでもできていた。
――すぐにノワールの死体を儀式場に運び込み、異世界からの召喚魔法を使用する。
この召喚魔法は、精霊魔法に並ぶほどの〝変な魔法〟。定義上は魔法と呼ぶしかないが、その実魔法ではない外法の類いだ。
だが、外法でも頼るしかないのも事実。所定の手順で儀式魔法陣を起動させ、王族三人で揃って魔力を叩き込み、異世界から魂を召喚する。
召喚する魂は、ノワールの身体と相性のいいもの。性別だとか、魂と身体が合うかどうかとか、そういった基準で選ばれる。ついでに、この度結婚相手となる女へ劣情を抱けるよう、若い男を選別するように条件も加えた。
「――――」
魔法陣が光り輝く。これは目に届いた光ではなく、第六感が受け取った情報を目に反映しているだけらしい。
そのため目を覆うことなく、光り輝く魔法陣を見届ける。中央に寝かされていたノワールの肉体が、身動ぎするのがわかった。
――成功だ。
あとは、喚んだ魂が王族として相応しい人間なのか、それを確かめるだけ。
万が一の荒事に備え、兄上と父上には退室してもらう。俺ならばノワールくらいは捩じ伏せることが可能だし、〝とっておき〟もある。
「……ぁ」
ノワールが目を開ける。身体の感触を確かめるように寝返りをうって、それからゆっくり起き上がった。
◆ノワール・ブランシュ・ハイラキア視点◆
――穴に吸い込まれ、意識を失って。
次に目が覚めた時、なんだか冷たい床に寝かされていた。
酷くデコボコな床だ。というかここはどこだろう。風はなく、しかし気温は冷たい。目を開けてみれば視界は薄暗い。時刻は夜だろうか。
……いや、本当にここはどこなのだろう。俺は死んだはず。
なのに、身体がある感触がする。なるほど、魂だけになれば肉体の感覚がないらしい。地面に触れている実感もそうだが、鼻につく匂いや空気が触れる感触までなんだか懐かしくて、それを確かめるために身動ぎした。
「――――」
ひとまずは起き上がろうかと、その場で上半身を起こす。やはり床が硬い。大理石のような素材だ。デコボコだと思っていたのは溝で、それは俺の周りにビッシリと描かれている。
魔法陣みたいだな、なんてぼんやりと考えていると、横合いから声が聞こえた。
「……あー、聞こえるか?」
ぶっきらぼうで、粗暴な感じ。そんな感じの男の声だ。
振り返る。そこにいたのは大柄なイケメン。金髪を短く整え、些か小さく見える目は鋭い眼光。口調がなんとも気の抜けたもので脱力感を誘うが、こちらを警戒してきているのがわかった。
それに、見た目は完全に外国人のくせに流暢な日本語を喋っている。外国人独特の発音の違いもなく、スムーズなものだ。
――尚更わけがわからない。
「……あなたは?」
とりあえず自己紹介を促してみる。どこかで「名前を聞く時は自分から名乗れ!」と誰かが言った気がするが、それは目前の人物には通用しないらしい。
「……エルネスト。お前の兄貴になる」
が、言われたことの意味がわからない。
……兄貴。はて、あの兄貴だろうか。お兄ちゃんとか兄さんとかお兄様な、あの兄貴。
こんなイケメン外国人と血縁を持った覚えはないし、両親は日本人なので普通にありえないのだけれど……。
「……えっと、すいません。言ってる意味がわからないです」
「…………」
なぜか無言で見つめてくる暫定お兄ちゃん。よくわからないが見つめ返す。数秒時が流れて、フッと暫定お兄ちゃんの目から警戒がなくなった。
そのままズカズカと俺の元まで歩いてきて、無遠慮に傍らに腰を下ろす。
「……?」
首を傾げる。警戒の抜けた目で、暫定お兄ちゃんは俺を見据えた。
「落ち着いて聞けよ? ここは、お前にとっては異世界になる。まあつまり、今までお前がいたところとは違う場所。それで、お前が今動かしてる身体は本来のお前のものじゃなくて、この国の第三王子のもの。ちっと愚弟が死んじまってな、代わりにお前を魂だけ召喚してその肉体に入れた」
「――――」
……。
…………。
「……はい?」
たっぷり十数秒絶句して、それから初めに出た言葉は、すごく間抜けなものだったと自負している。
◇
受けた説明は、なかなかに衝撃的なものだった。
なんでも、人類最強とまで言われる強い女がいて、その女を政治的事情で第三王子……つまり俺が娶ることになったのだけれど、人類最強故にその女を恐れて「結婚したくないから死んでやる!」と第三王子が死亡。
仕方がないから異世界から俺が召喚され、擬似的に第三王子を蘇生した、と。
そして俺はこのまま第三王子として生きてもらうことになる、とも。
……無論拒否権はないが、遠回しに「嫌なら死ね」と言われた気がする。正しくは「肉体を傷つけない方法でなら自害してもいい。そういう選択肢もあるぞ?」といったニュアンスだったが。
――少し、考える。
このまま、右も左も分からない異国で……否。異世界で、見知らぬ人間として第二の生を生きるのか。それとも、死を選んであの幽霊状態に戻るのか。
……幽霊の時の感覚は、それはもう身の毛のよだつものだった。誰にも認識してもらえない、誰かに存在を示すこともできない。生物として当たり前に備えていた機能の全てが通用せず、八方塞がりでなにをしていいかもわからない。
正直、せっかく生き返ることができたのにアレに戻るのは嫌だ。「死にたくないけど元の世界に帰りたい」、はどうせ了承してもらえないだろうし、可能かどうかもわからない。諦めてここで生きていくことにしよう。それが一番確実なはずだ。
「……わかりました。第三王子として生きます」
目の前に胡座をかいて座る暫定お兄ちゃん。エルネスト、と名乗った彼へ、そう答える。真面目な顔で暫定お兄ちゃんは頷いた。
……ところで、この第三王子の名前とか諸々の身辺情報とか、そもそも暫定お兄ちゃんの他にも親戚がいそうだし。とりあえず、「エルネスト」としか名乗っていない暫定お兄ちゃんの名前を知りたい。
というか、呼び名をどうしよう。
「えっと……お兄ちゃん?」
「…………」
ひとまずそう呼んでみる。暫定お兄ちゃんが盛大に顔を顰めた。
なんだか親しみの湧く反応だ。真面目な雰囲気を醸し出していた暫定お兄ちゃんは、そのままではなんだか怖かったのだけれど。こうして顔を顰めていると逆に親しみを感じる。
「……前は「兄上」とか「エルネスト兄様」って呼ばれてたんだがな。お前の世界ではそう呼ぶのが普通なのか?」
「では兄上で。……俺の世界では人それぞれでしたよ。お兄ちゃんも、兄さんも。あとはお兄様とかおにぃとかいろいろ」
なんとも言えない、実に味のある顔で兄上が黙り込んだ。サブカルチャーで使われていた呼び名を知っている限り列挙してもいいが、たったこれだけのバリエーションを披露してもドン引きされるならやめた方がよさそうだ。
「……こほん。それで兄上。この第三王子の名前とか、他にもいろいろ教えてほしいんですが。あと言葉使いはこれで問題ないですか?」
「名前は「ノワール・ブランシュ・ハイラキア」。言葉使いは今のままでも充分だな。親しい相手ならもう少し崩してもいい。だがお前も王族だ、公式の場ではきちんとしたものを心がけてくれ。わからなければ専属の教師を手配するが?」
教師は一応お願いすることにして、ノワールとかいう第三王子の情報を聞いていく。
「俺は第二王子だが、お前は第三王子。現国王を父に持つ三男で、俺とは腹違いの兄弟になる。年齢は18歳だ」
腹違いの兄弟。正室とか側室とかいうヤツか。となれば一夫多妻制なのだろう。王族だと言うのだし、その辺りは当然と言えるか。
年齢が18歳なら、以前の俺と同い年ということになる。身体を動かした感触に違和感は覚えないので、体格も大差ないのだろうか。
「前のお前は結構な野心家だったな。兄上……第一王子を殺して自分が王になろうとか考えてる奴だった」
「危険人物じゃないですか」
「まあな」
……おのれ兄上。初めも思ったが、この人の喋り方は緊迫感に欠ける。重大な事柄もなんでもないことのように話すので、うっかり聴き逃してしまいそうになるのだ。
王位継承権争いなのだろうが、下手をすれば内乱の元だし、そうでなくとも関係がギスギスする。第一王子がまさか召喚のことを知らないはずもないだろうが、俺の初対面の印象に関わるだろう。
生憎国王になろうなんて考えてはいないので、第三王子の評判が今後の俺に関わるのは嫌である。穏便に生きていきたい。
……そういえば。この兄上は先ほど、人類最強の女と俺が結婚することになっている、とか言っていたはずだ。
今後の俺に関わると言えばそれが筆頭である。以前の第三王子が、死を選んでまで結婚を嫌がる女など、俺としても願い下げなのだが。そもそもその女はどういう人柄なのだろう?
「そういえば、さっき言ってた女性ってどんな人なんですか?」
「お前と結婚することになる奴な。名前はノエル・イノセンス。変な先入観とか持ってそうだが、人柄だけならいい奴だぞ。仕事に関しては真面目だし、幼いが見た目もいい」
仕事に関しては真面目で、幼いけれど見た目も美しい。けど人柄〝だけなら〟というのが怖い。
「……人柄以外はどうなんですか?」
「……こればっかりは実際に見てみねえとわからないぞ?」
「はあ、そうですか」
わけがわからん。人柄がいいくせに結婚を拒否られる、その理由は見てみないとわからないと言う。
ならば実際に会ってみたいところだが、見たところ時刻も遅い。今から会うのは無理そうだ。
「じゃあ後日会わせてください。早い内に会っておきたいです」
少し逡巡してから兄上にそう告げると、彼は変な顔になる。たじろいだというか、気圧されたというか、そんな顔だ。
「……いやにテキパキと決めるな。怖くないのか?」
「はい?」
テキパキと決める? 今後の方針とかをだろうか?
前世でもよく言われていたことだ。「お前って即断即決だよな」と、親からも友人からも言われてきたことである。
「怖いもなにも、会ってもないのにわかりませんし。そのために会おうって話でしょう?」
落ち着いて兄上へ言う。兄上は再び気圧されて、それからごまかすように立ち上がった。
……王族、それも国王直系の第二王子と第三王子が、床に座り込んでベラベラと長話とは。そういえば結構愉快な状況だった。
立ち上がった兄上が、こちらへ手を差し伸べてくる。
「――ま、お前が優秀そうでなによりだよ」
「はあ」
俺は曖昧に返事。つまりこの会話は、俺のことを測っていたということなのだろうか。その審査は合格だと、そういうことか。
まあ王族だし、野心家でも無能でも困るのだろう。そこそこ優秀で、けれど国王になる気概を見せない輩が都合がいいのか。
――兄上の手を取って、彼に引っ張り起こされる。地面に足をつけて立ってみると、硬い床の感触がわかった。
「早い内に会いたいってことなら、明日にでも会わせてやる。ひとまず今日のところはもう休め。部屋に案内させる」
兄上は俺から手を離しながらそう言って。部屋の出口と思しき扉へ向かって歩き始めるので、俺はそれについて行った。




