接触の前に
気が付くと、イブキは何か巨大な乗り物のような場所にいた
窓から外を見ると、明らかに空を飛んでいる
外に見える景色は一面の海だ
陸は見えない
あとでわかったことだが、その船は魔道船と呼ばれており、魔法の力で空を飛んでいるとのことだ
「いきなりこんな場所に連れてこられてもな。もしかしてこの船にリリアーナ王女がいるのか?」
とにかくまずは王女を探すしかない
でなければ護衛なんて出来るわけもない
とはいえ、いきなり見知らぬ人に「護衛させてください」なんて言われたら、王女はどんな反応をするだろうか
普通に考えて、怪しまれるだろう
それでもまずは接触するしかない
「ペンダント・・・・ペンダント・・・・」
それなりに乗客がいる中、やがてイブキはそれらしい三人組を見かけた
中心にいる人物が大きな宝石の付いたペンダントをしている
透き通るような白い肌と、腰まで流れる淡い金色の長髪を持つ女性だった
残りの二人の一方は、肩まで伸びた赤みがかった栗色の髪を後ろで束ね、鋭い琥珀色の瞳を持つ女剣士
もう一人は、黒に近い濃紺の髪と切れ長の紫色の瞳を持つ、知的な印象の青年
三人とも20代に見えた
どう声をかけたものか・・・・
そんな事を考えながら、三人のほうをチラチラを見ていたところ、しばらくして三人のうちの女剣士が近づいてきた
「お前、何をさっきからこちらを見ている?」
しまった
怪しまれてしまった
いや、むしろこれは好都合なのかもしれない
話しかけるきっかけが出来た
「いや、あの女性はリリアーナ王女なんだよな?」
イブキのその質問を聞くと、女剣士の目つきが鋭くなる
「お前、ちょっと来てもらおうか」
そうして、人気のない場所に連れ出される
そして女剣士は剣を抜いた
「お前、王女を狙う刺客か?」
「いや、そんなんじゃない」
「ではなぜ素性を隠して旅をしている王女のことを知っている?」
そうだったのか
まさか女神に頼まれてとは言えない
「前に王女を見かけたことがあったもので」
「どこでだ?」
「それは・・・・」
まずい、このままではいつかボロが出る
イブキがそんな事を考えていた時、異変が起こる
急に足場が大きく揺れた
「なんだ?」
遠くから大勢の悲鳴が聞こえてくる
女剣士は剣を収めると、リリアーナ王女のもとへと走っていく
イブキも恐る恐るその後を追った
広間に戻ると、船員らしき男が大声をあげている
「動力炉に異常が発生しました。この船の浮力が失われつつあります。どなたか魔法が使える人はおりませんか?」
くそ
この世界に到着してそうそうに王女の命の危険か
あるいはこのタイミングを狙って転移させられたのか
墜落したら下は見渡す限りの海だ
「魔法なら俺が使える」
イブキが名乗りをあげると、船員はイブキを動力炉まで案内した
「どうするんだ?」
「動力炉に魔力を注いでください」
「わかった」
イブキは黒い結晶のようなものに触れ、魔力を注ぎ込む
少し揺れが収まってきた気がする
しかし船員は
「まだ完全な浮力を得るには足りません。もっと強い魔力を出せませんか?」
「わかった」
イブキはさらに魔力を高める
しかし、体力が一気に消耗されていく
やがて揺れは完全に収まった
「そのまま魔力を注ぎ続けてください」
「どのくらいだ?」
「大陸までは丸一日ほどで到着できると思います」
「そんなこと出来るか!」
このままでは明らかに魔力の出し過ぎで力尽きるほうが早い
「どこかに不時着できる場所はないのか?」
イブキが声を上げる
船員は地図を出して眺める
「南の方角に小さな島があります。そこへなら1時間程度で」
「だったらそうしてくれ」
それからイブキにとっての拷問のような1時間が続き、魔道船は無人島に不時着した
着陸と同時にイブキは大の字になって寝ころぶ
しばらく動けそうにはなかった




