ステラクリスの力
出発の日、魔道船に乗り込んでいくローゼをリリアーナが見送った
ローゼがリリアーナに告げる
「それじゃ、行ってきます」
「ええ」
リリアーナは頷いたあと続けた
「前にイブキが言っていたんだけど、イブキは神から力を授けられたんだって」
「そうなの?」
「本当かはわからないけどね」
そうしてわずかに苦笑したあと、リリアーナは続けた
「でも、あなたにもきっとその力の一部は受け継がれていると思う」
ローゼは黙って聞いた
「だから、きっと邪神なんかに負けないわ」
「わかった。必ず勝つから!」
そうして、二人で抱擁をしたあと、ローゼは魔道船に乗り込んでいった
オルフェリア国に向けて多くの魔道船が海を越えていく
周囲を警戒するものの、海上で襲ってくる気配はなかった
やがて、オルフェリア国に辿り着いた軍勢は、陸路を進んだ
空中で魔導士に襲われたら不利だと判断したからだ
やがて、進軍を続けていると、大量の弓が飛んでくる
「こちらも弓で応戦しろ!」
コーネリアスが指令を出す
こうして本格的な戦闘が始まった
シャルロッテ率いる一団が敵の集団へと斬りこんでいく
激しい乱戦になった
それを馬上でローゼは見守っていた
「ローゼはもう少し下がっていろ」
コーネリアスが指示を出す
「でも・・・・」
「ローゼの力は我々の切り札だ。どのようなものか確実にわからない以上、温存しておくべきだ」
「・・・・・・」
ローゼは黙ってそれに従った
戦況は有利に進んでいるように見えた
しかし、敵の魔導士隊が現れたことで、局面が変わった
敵の魔導士は空中で散開して接近してくる
味方の魔導士もそれを迎撃に向かう
敵の魔導士は戦うことよりも軍勢の上空をランダムに飛び回っているように見えた
おそらくローゼを探しているのだろう
つまり、ローゼのことは敵にも確実に知られていることがわかる
迎撃に専念している味方のほうが空中戦では有利に見えた
しかし、数は敵のほうが多い
やがて、ローゼのすぐ近くに敵の魔導士が墜落した
「見つけた・・・ぞ」
その魔導士は最後の力を振り絞り、空に魔法を放った
それを合図に敵の魔導士がローゼに向けて接近を開始する
「全軍、全速力で戦場を突破するんだ!」
敵の動きに気付いたコーネリアスが一気に戦場を抜ける決断を下した
ローゼもそれに従う
背後から迫る魔導士隊
味方の魔導士隊が追撃して迎撃していく
やがて戦場を突破した時、目の前の山頂に巨大な蛇のような姿が確認できた
「あれが、邪神か!」
コーネリアスが叫ぶと同時に、邪神は咆哮を上げ動き出した
邪神の目が怪しく光る
「ステラクリスの力を解放します!」
ローゼがそう叫ぶと、その身が神々しい輝きを纏う
直後、邪神からブレスが放たれる
目の前に迫る死のエネルギー
しかし、それはコーネリアス達の前でかき消された
宙を舞うローゼが立ちはだかっていた
やがてローゼの身体から無数の光球が放たれる
それが多面体のバリアを作り、敵の魔導士の攻撃を遮る
同時に、邪神に向けても数多くの光球が飛んでいく
邪神の目が光ると光球は次々と掻き消されていったが、そのアゴをローゼの拳が突き上げた
動きを止めた邪神をさらに無数の光球が取り囲み、多面体の障壁を形成していく
ローゼが両手を交差すると、障壁によって邪神は圧縮されていった
その多面体はどんどん小さくなり、やがて小さな白い結晶になった
その背後ではサロス教団の信徒は殲滅されていた
ローゼは白い結晶を拾うとコーネリアスのもとへ向かう
「これが封印された邪神です」
そう言って、その結晶を差し出した
コーネリアスはそれを受け取った
「これで終わったのか?」
「はい」
ローゼはあっさりとそう答えた
「この封印の前には邪神は眠り続けるしかありません。おそらく再度復活することはないでしょう」
「そうなのか?」
「はい。気になるようでしたら海の底にでも沈めておいてください」
ローゼは笑顔を見せた
それを見てコーネリアスは
「それじゃ、帰るか」
すっきりした顔でそう告げた
ローゼは黙って頷いた
そのまま全軍が帰路につく
そして、海沿いに置かれている魔道船が見えてきた
そこで、ローゼは突然口を開いた
「実は、私は一緒に帰ることはできません」
コーネリアスは不思議な顔になる
「どういうことだ?」
少しの間を置いてローゼは話し出した
「私は神の力を得ました。この力は人の身を捨てることで得られる力なのです」
「どういうことなんだ?」
「簡単に言いますと、私は神となったのです」
「え?」
シャルロッテも問いただす
「それはどういうこと?」
「神となった身では人の世界で生きることは許されないのです。どうやら天界に呼ばれる時が来たようです」
そう言って、ローゼは首から下げていたステラクリスを外すとシャルロッテに差し出した
「これを」
それを黙ってシャルロッテは受け取る
長い沈黙が流れる
「本当に一緒に帰れないの?」
「はい。お母さんのことをよろしくお願いします」
そう言ってローゼは頭を下げる
直後、ローゼの頭上から光が舞い降りる
それに吸い寄せられるかのようにローゼの身体が宙に舞う
「お母さんに伝えてください。きっと私は天界からいつまでも見守っていると」
コーネリアスとシャルロッテは黙って頷いた
そして言葉を発することもできないまま、天に昇っていくローゼを見守ることしかできなかった




