四話
ブックマークと評価ありがとうございます。
とても励みになりました。
今回は主人公以外の第三者視点から始まります。
途中から主人公視点にもどります。
また、会話は以下の通りです
「」が日本語
『』が英語
成田空港。
空の日本の玄関口であり、好きな空港ランキングに毎年掲載される多目的空港でもある。
『ターゲットの様子は?』
某国から到着したばかりの青年は歩みを止めないまま、出迎えゲートで待機していた部下に尋ねる。
『特に変わりはありません。ただ…』
長身の青年は、特徴的な長い銀髪はひもで結んでいる。
外したサングラスの下には、スカイブルーの苛烈な光を浮かべた瞳が現れる。
『なんだ?はっきり言え』
『先日の旅行先で、怪しい大規模魔力が計測されました』
青年はピタリと立ち止まり、後をついてきた部下を振り返る。
『……母体の影響は?』
『旅行後の定期検診で、問題がないことが確認されています』
彼は軽く頷くと、再び歩き始める。
『確か地球温暖化の気候時計が、役に立たなくなった日と旅行がかさなるな』
『はい』
『……』
彼らは車の送迎エリアまで無言で歩いた。
そこには彼を迎えにきた、外交ナンバーの黒のクラウンが待機していた。
運転手が後部席のドアを開け、彼に会釈する。
彼は車に乗り込み、最後に指示を与える。
『引き続き監視と警戒を』
『はっ。万事抜かりなく』
「んー、アイスおいしいね」
「そうだな」
俺はガジガジくんをかじりながら、心地よい風に身を任せる。
あの日から日中に照りつける日差しがだいふ弱まり、扇風機で十分涼める暑さになった。
日中暑くても基本二十五度くらいだ。猛暑地点で三十度。夏らしい暑さと言える。
暖まり過ぎた海温も徐々に下がり、異常気象による偏西風の熱波や、山火事も減りつつある。
一時はこの気候の変化に各国のマスコミがあわただしくなった。国の諜報機関や研究所なども。
まだまだあるはずだった、親父の夏休みがなくなったのもそのせいでもある。
泣きながら、旅行先からヘリで拉致されていった。
すまん、親父。
頬すりすりくらいは許す。
ただし髭はちゃんと剃ってこいよ。
「スイカきってきたっす」
「うわーい」
みずみずしいスイカと麦茶をシャッカイが運んできた。
佳也子は大喜びだが、アイスといい腹が冷えるのばかりじゃないか?
「佳也子はスイカは後で食え。シャッカイもう少し考えてものだししろ」
「すいませんっす」
ペコペコとシャッカイが頭を下げる。
おまえまた髪色変えたな。強面のおまえにピンクは可愛すぎないか?
「えー、今食べたいよ」
「腹が冷えるからだめだ」
「そうなの?だめ?」
なぜか自分の腹に聞く佳也子。
佳也子の腹からピコピコと魔力が動く。
「ほら、大丈夫だって。赤ちゃんもスイカ食べたいって言っているよ!」
スイカが食べたいのかはわからんが、大丈夫だと言ってそうなのは俺も感じた。
じっと俺を見つめて許可を待つ佳也子。
そしてピコピコと魔力を発する腹。
「わかった、一切れだけだぞ。残りは夕方後だ」
「わーい。瞳くん、好き」
佳也子は俺に抱きついて、チュと俺のほほにキスをする。
やられた。
俺のほっぺが、そのうちペロリとはげてしまわないか心配だ。
ピンホーン。ピホピホピンホーン。
やかましい玄関のベルがなる。
こんなピンポン連打するやつは、佳也子とあいつしかいない。
「ヤッホー!萌子ちゃんだよ!」
シャッカイに連れられてきたお馴染みの勇者。
知ってたわ。
「あっ、スイカだー!美味しそう」
早速スイカを頬張る萌子。
「おまえスイカを食いにきたのかよ」
「違うよ!今日は佳也子さんとお買い物の約束をしてるんだよねー?」
「ねー」
「買い物?なにを買いにいくんだ?」
「内緒」
「そう、内緒なの。サプラーイズなの。瞳くん楽しみにしていてね」
……佳也子、全然内緒じゃないぞ。
その言い方だと、間近に迫った俺の誕生日関係だとバレる。
「佳也子さーん、お口滑ってる!」
「えっ?そう?えへへ」
萌子に怒られ、笑ってごまかす佳也子。
「どうでもいいが、シャッカイは連れていけよ。出産間近だから、なにかあったら困るからな」
「そうなると瞳くん、ひとりでお留守番になっちゃうよ。ダメダメ」
「あっ、そうか。もともとの予定では叔父さんについてきてもらうはずだったね。
叔父さん、夏休み返上でお仕事いそがしいの?」
「そうみたいだな」
俺のせいで。
原因が魔法なんて、わかるわけないだろ?
まさか原因がわかるまで、ずっと帰ってこれなくなるのか?
まずい。それはまずい。
どうしたらいいんだ。
僕、魔王!バリア張っちゃった!
なんて言えねぇ。
……思いつかん。
「パパ忙しいみたい。しばらく帰れないって電話があったの」
やっぱり?だよねー。
参った。
「どうしたの?瞳くん。大丈夫だよ、みんなで買い物に行こうね。元気だして!」
別に買い物いけなくて落ち込んでないぞ。
「俺ひとりで留守くらいできる」
「だめだよ、先月に変態に絡まれたばかりじゃない!」
それは外でだぞ。
先月、スーパーの買い物に行く途中で、酷暑で頭が壊れた変態が現れた。
いわゆる【なー?おじさん】。
そいつはマント姿で、俺とシャッカイの前に回り込んできた。中年のおっさんだった。
そしてマントをバッと開き、全裸姿を見せつけた。
「な?なー?」
なにがなーだ。
俺は冷めた目でおっさんを見上げた。
「貧相」
「うわぁぁん」
愛らしい幼児からそう断言されたおっさんは、泣きながら逃げて行った。
嫌なこと思いだしてしまったじゃねーか。
酷暑がなくなったことで、変態が減ればいいんだが……。
「とにかく、みんなでいこう!」
ま、あんまり暑くないからいいけどな。
佳也子と萌子に連れられてきたのは、秋葉原。
「魔王は家電とアニメグッズどっちが好き?」
「唐揚げマンとか好きだよね?唐揚げマン体操、よく踊ってるし」
いやいや。唐揚げが好きなだけで、それほど好きじゃないぞ。
体操は幼稚園で、みんなで踊るから練習してただけだ。俺の将来のために、学園ライフは優秀を目指しているからな。
「買うなら家電」
「家電かぁ。どこがいいんだろう。いっぱいあって困っちゃうね。どこががいい?瞳くん」
おいおい。
サプライズはどうした。
全部俺に任せるつもりか?
「そういえば、池袋に新しく巨大家電店がオープンしてたね。ニュースで見た」
結局、萌子の提案で池袋までまた移動することに。
計画性皆無だな。お前ら。
俺はずれた帽子を直しながら、優先席に座る佳也子の隣に座った。
「ねぇ、なんかついてきてるね」
つり革にだらーんと捕まり、俺の耳元で萌子が呟いた。
「なんだ、気がついてたのか。もしかして確認するために移動したのか?」
「そりゃね。魔法は負けるけど、索敵とかは負けないよ」
「なにかあてはあるの?」
「ないな。どいつも外国人だ。三人か?」
「四人よ」
ちぇっ。
索敵魔法使えば俺だって正確にわかるんだよ。
「少なくともここ三ヶ月くらい、時おり遠くから気配を感じていたが、今日は露骨すぎるな」
「えっ?三ヶ月?気がつかなかった。
じゃあ旅行にも着いてきたの?
魔方陣使っているの見られた?」
「着いてきてた。
だがあの晩抜け出したことはバレていない。
俺が監視がいる状況で、そんなへますると思うか?
あん時だけは隠匿魔法バリバリに使ったから、部屋から出たのすら気がついてないだろう」
俺レベルの隠匿魔法は監視カメラなどの、機械類でさえ騙せるものだからな。
「やっぱり魔法って凄いね」
まあな。
しかし、なんで監視体制が変わったんだ?
見ているだけで、今まで被害は出ていない。特殊な警備員だと思えばいいか。
「池袋に着いたっすよ」
シャッカイはそう言って、俺と佳也子に手をさしだしだ。二人でシャッカイのてをつかんで席から立ち上がる。
「あっちみたいね」
新しい家電量販店は池袋駅に連結されていて、すぐにその巨大な店舗入り口にたどり着く。
新規オープンで夏休み中。
おかげで店内は混み合っている。だから例のごとく俺はシャッカイに抱き上げられた。
各階に何があるか書いてある階層情報の前で、萌子と佳也子が黙り込む。
「やばっ。なんか情報量が凄い。どこ行けばいいの?」
そりゃ買いたいものがある売り場だろ。
「うーん。瞳くん、どこに行きたい?」
そう言われても、たいがいのものは親父がプレゼントしてくれてるからな。
「と、とりあえずおもちゃ売り場に行くよ」
萌子がさっさとエスカレーターに向かう。
俺らと二人ほどの警備員さん?たちがその後を追う。
おもちゃ売り場に着くと、次々に可愛いおもちゃを手にとり、俺の顔の横に並べては取捨選択を繰り返す二人。
「やっばりアヒルさん?唐揚げマンは?」
「ウサギさんも可愛い」
おいおい。
小物とはいえ、カゴの中が凄い量になってるぞ。
買うのか?それ全部。
「もっと少なくしろ、多すぎるぞ。
俺の部屋をおもちゃだらけにするな」
「そんな!これでも厳選してるんだよ!
瞳くん、可愛いからなんでも合うし」
まぁ俺は可愛いがな。
だかそれとこれは別だ。そんなにいらんわ!
ほら、警備員さん?たちもあきれているぞ。
長くしゃがんでおもちゃを吟味していた佳也子が、立ち上がろうとするが、腹でバランスを崩し倒れそうになる。
すぐにシャッカイと萌子が手をのばすが、佳也子を抱き止めたのは、駆け込んできた警備員のひとりだった。
「あ、ありがとう」
佳也子を抱き止めた相手は銀髪の美形だった。だかその眼は冷たい。
『気を付けろ、そもそもこんな人混みに出かけるな。家でじっとしていろ』
小声で吐き捨てるように呟いた。
なんだこいつ。
俺は密かに鑑定魔法をソイツに向けて発動する。
その瞬間、世界にヒビがはいった。
目の前の男が異次元領域を展開したのだ。
異次元領域とは魔法のひとつで、一部の空間だけを現実から切り離した領域のこと。俺の隠匿魔法も原理は同じだ。
この異次元領域で戦うと周りには把握されず、ここでの破壊が現実に持ち込まれることはない。
前の世界で、とある職業の連中がよく使っていた魔法だ。
男は佳也子を少し離れた場所に座らせた。男の手から剣がニュッと持ち上がってくる。萌子と同じだ。男は剣を俺に向かって叩き込んできた。
ガッ。
「あんた何物?」
萌子がその剣を聖剣で防ぐ。
シャッカイが影からシャドウハウンドを召還した。
男は後ろに飛び、佳也子の前で剣を構えなおす。
『お前、魔王だな。その魔力の波動、知っているぞ』
『日本語で話してやれよ。
コイツら馬鹿だからわかんねーよ。
聖騎士様がなにしてるんだ?』
軽く考えていたので、簡易の鑑定しかかけなかったことが悔やまれる。
次に詳細な鑑定魔法をかければ、警戒してるから抵抗されるな。
簡易鑑定の結果はこいつが聖騎士であること、名前がマリュカスであること。これしかわからんかった。
だが足りない情報をあいつ自身がくれた。
前の俺を知っている聖騎士。
そんな心あたりはひとりだけだ。
聖女のガーディアン。
教会の枢機卿であり、最強聖騎士でもある男。
閃光のレイモンド。
コイツが荒ぶれるのは聖女関係だけ。
そうか、そういうことか。
『別になにもたくらんでない。
前世同様に聖女に敵対することはない。
なにせお兄ちゃんだからな。
ちなみに今世で、この位置に生まれ変わったのは、俺の意思ではないからな』
『……』
しばらく逡巡したあと、レイモンドは剣を体に戻した。
「ちょっと、なにスッキリした顔してるの?
さっきからなに話してるかわからないんだけど!
コイツ敵なの?」
「いや、敵じゃない。シャッカイもそいつらを戻せ」
納得がいかないが仕方なく萌子も剣を戻し、シャドウハウンドは影に消えた。
それを確認してから、レイモンドが異次元領域を解除する。
そう異次元領域は聖騎士がよく使う魔法だ。
神の作った世界をできるだけ傷つけたくないんだって。
魔族や萌子なんかはその辺きにしないで、ドッカンドッカンやるから使わないな。もちろん俺もだ。
元の空間に戻った。
大勢の客たちのざわめきが戻ってきた。
「あとで説明してよね」
はいはい。
佳也子と萌子は気を取り直して、おもちゃの選定に戻った。
あんなことがあったのに。あいかわらず、図太い。
『おい、すぐに帰れ。
出産が始まったらどうするんだ』
こっちも図太い。
バレてからオープンに護衛することにしたみたいだ。小言がうるさい。
『ところでさ、お前今世でもいろいろな権力者に顔が効くんだろ?
地球温暖化が緩んだ原因を神業にできんか?』
『やっばりお前か。魔王だとわかった時点ですぐに結び付いたぞ。……うむやむにならできる。
姫が産まれる前に、地球を過ごしやすい環境に変えた褒美だ。手伝ってやる』
あいかわらずの聖女主義。
今後コイツとも、付き合っていくことになるのか。
『ところであの女は何物だ?お前のところの四天王の波動とは違った』
『……勇者』
『ああ、アレか……』
アレ扱いなんだな。残念な勇者だ。
『先ほどの話だが、少し情報操作をするから一旦離れるぞ。いいか、さっさと帰れ。いいな』
善処はするけど、俺の話聞かないやつらだしな。
『ところでお前、日本語を話せないの?』
「嗜み程度には。じゃあな」
嗜みなんて単語は、日本人でも一部でしか使わないぞ。
俺の誕生日まで後二日。
結局、プレゼントはおもちゃのようだ。
だからいらんっての。サプライズはどこへ行った。
あとは親父に期待するしかないな。
親父は昨夜解放されて帰宅した。
レイモンドに頼んでから二日だから早い方だ。
久しぶり再会した親父に、泣かれながらまた抱きつかれた。
俺のせいだから、優しくすると決めていたので、ハンドタオルで親父の顔をふきふきする。
「パパ泣かないで」
「優しいね、ひどみくんは!」
鼻水つけられたくないんだよ。
シャッカイ、アルコール消毒持ってこい。
そして今朝は久しぶりの家族揃っての朝食だ。
メインはふわふわのオムレツにタコさんウィンナーとベーコン。サイドはサラダとじゃがいもの冷製スープ。パン食の日だった。
途中までニコニコと笑っていた佳也子が、突然呻き腹をおさえる。
「いたっいたいよぉ」
「佳也子さん!」
挙動不審になる親父。
「産まれそうなのか?」
「はぁはぁ……わかんない」
佳也子の腹から魔力がかつてないほど、膨れてきた。俺はそれを押さえ込む。
聖女が完全に記憶を取り戻し、覚醒したようだ。
そもそもよく俺を産んだときに、佳也子がなぜ無事だったのか。
それの回答をくれたのがレイモンド。
『前世を思い出したのが、最近だったのだろう?
魔力は記憶とリンクされているから、そのときに体から魔力がわき出たんだろう。俺もそうだった。
今世に前世が魔力持ちの人間が、それなりに産まれているだろうが、記憶が戻らなければ只人と変わらない。
姫は産まれる前から少しずつ記憶が戻っているのだろう。放出する魔力がまだ小さいからな』
俺は赤ん坊の記憶がなくて、逆によかったと思ったけどな。オムツ生活の記憶はいらんわ。
その妹ちゃんが覚醒して、魔力が凄まじい勢いで膨れていく。
「シャッカイ!連絡!」
「はいっす!」
シャッカイがスマホで連絡を入れる。
その先は病院ではなく、レイモンドあてだ。
俺たちに身バレしてからのレイモンドは、出産に関して機密を守れる医療スタッフを用意し、そこで産むようにと指示してきた。
まあ聖騎士であるレイモンドも治癒魔法が使えるので、佳也子の出産はさらに安全になるから文句はない。
ちなみに今世の教会関係で治癒魔法を使えるのは、レイモンドのみらしい。まぁこの世界は魔なしが多いからな。
十秒くらいで勝手に玄関が開き、外国人たちがタンカを運んでくる。
合カギ作ってるよ、コイツら。
三十秒後には佳也子はストレッチャーに乗せかえられ、救急車に乗せられた。
親父とシャッカイは自家用車で指定された病院に向かうように言われ、乗車拒否された。
まあ狭いからな。
救急車には救急隊員はおらず、白衣の外国人がスタンバってた。そいつらが最高の産婦人科医の集団らしい。
救急車の中は分娩室と同程度の設備が設置されているが、もしもの時の手術までは対応できないと言われた。
だから借り上げた近くの大病院に、救急車は向かっているらしい。
俺はその間ずっと、佳也子の腹から出てくる魔力を抑えている。
しかしなんで聖女なんだよ。
ゴミ魔力の佳也子の子なんて差がありすぎだろ!
聖女、魔力多すぎるぞ。
聖女の魔力に当たった佳也子の疲労が激しい。治癒魔法まで手が回せない。
『子供、まだ降りてきません。出産なのですか?別の病気では?』
『妊婦の血圧下がってます』
テキパキと作業するスタッフたち。
佳也子の状態悪化は魔力が原因だから、普通の治療で完全に盛り返すことはできない。
『レイモンドはまだか?』
俺はスタッフのひとりに問いかける。
ちなみに前世と今世で名前が二つあって紛らわしいから、レイモンドの場合は前世の名前をコードネームとして主に使っている。
『今、病院についたそうです。病院まで、あと五分』
「ヒッヒ、フー。…な…んかのじゅ…もんみたい…だね」
痛みを我慢して佳也子が、俺に話しかけてくる。
「しゃべるな、呪文唱えてろ。
聖女。できるだけ魔力を抑えろ、母親が苦しんでいるぞ」
抗議するように腹の魔力がピコピコ動く。
赤ん坊に魔力制御を求めるのは酷か。
バンッ。
病院についたらしく、後部ハッチが開けられた。
すぐ側にいたレイモンドから、治癒魔法が佳也子に飛ぶ。
呼吸が少し落ち着いたようだ。
『降ろします』
俺は佳也子の腕をつかんだまま一緒に降りる。
レイモンドも逆側に付き添い、魔力を抑えるのを手伝ってくる。
『おお、暖かい。姫は今世の魔力も素晴らしい量ですね。さすがです。
本来ならこの魔力を抑えることなく解放したい。
姫の魔力をこの地球へ廻らせる。なんて甘美な』
「……」
頭ん中は非常識だった。
長々とレイモンドが語っているあいだに手術室に。
本来入室できないはずの、俺とレイモンドがそのまま入り込む。
医者たちが殺菌しに一度離れたが、レイモンドが俺と自分に浄化魔法をかけて終わり。
そしてレイモンドは懐から、三十センチほどのクリスタルみたいな結晶を取り出した。
それを佳也子の近くに置く。
『教会の秘宝です。といっても魔力が抜けて使い物になってませんが。姫の魔力を入れておきます』
ズズッと腹の魔力の一部がその結晶に吸い取られていく。すぐに満杯になるかと思えば、圧縮して詰め込んでいるようで、なかなかいい吸い取り具合だ。
さすが教会の秘宝だな。
おかげで俺は休憩することができた。
「佳也子、頑張れ。粘り強いのが唯一の特技だろ」
「…ひど……ひと…みくん」
秘宝が半分くらい、埋まってきた。
魔力の利用か……。
そうだ。最近やったばかりなのに忘れてた。
「せっかくだから、東日本の原発汚染も含めて日本の近辺の海を綺麗にするか。
俺、泳ぐなら綺羅な海がいいんだよ」
『は?』
レイモンドが間抜けな声をあげる。
俺は手術室のはしにあったホワイトボートから、マジックを背伸びして取った。
そして手術室の床に大規模浄化の魔方陣を書く。
この前のバリアより、魔力量が少ない浄化魔法だからいける、いける。近海と福島原発の座標も盛り込んでと。
あとは聖女と魔方陣のバイパス組んで完了。
キラキラと魔方陣に魔力がつぎ込まれていく。
教会の秘宝を手に取り、レイモンドに押し付ける。
こっちの吸い取りは中断だ。足りんなら後日妹ちゃんにいれてもらえ。
「んーっ!」
佳也子がいきむ。魔力が安定してついに出産がはじまったようだ。
「早く産まれてこい、みんな待ってるぞ」
妹ちゃんの産声が上がったのは、それから二時間も後のことだった。
魔方陣の影響で、日本近海が突然発光したが、日中だったから気付かれなかった。どちらかというと、問題は福島原発のほうだ。めちゃめちゃ大騒ぎになったらしい。
聖女の奇跡。
某有名宗教国の教会上層部にひっそりと伝えられ、日本の総理あてに、ホットラインが繋がった。
総理の対応が、試される。
「みてみて、瞳くん。凛ちゃんが笑ったよ」
佳也子に抱かれた乳児が口角をあげて「あー」としゃべる。
正直笑ったのか、俺にはわからない。
わからないが、上手く喋れない妹ちゃんが辛いのは想像できる。
大丈夫だぞ。俺はオムツ換えないから。
本来はお手伝いすべきことではあるが、妹ちゃんが憤死するかも知れないからな。
レイモンドなら喜んでやるだろうが、きちんと妹ちゃんの意思を聞いてからだな。
「いいものをやろう。アヒル母さんと、唐揚げマンだ。こいつらの背中に魔方陣が組み込まれている。
例えばアヒル母さんに魔力を流すと、赤く光る。唐揚げマンは青だな。
ここ日本では赤が止まれで、青が行けだ。
基本嫌なときは赤を、嬉しいときや同意するときは青の魔方陣を動かせ。
お前の気持ちが、みんなに伝わるはずだ。
佳也子、この人形は離して置け。くっつけたら両方光るからな」
「ちょっと何いいだすのよ、赤ちゃんにわかるわけないでしょ」
萌子に止められたが、すぐにアヒル母さんが赤く光った。
「なめんなって言ってるぞ」
同意したようで唐揚げマンが青く光った。
「私が魔力使えるようになったの最近なんだよ」
萌子が恐る恐る妹ちゃんを見る。
それはお前も俺と同じで最近覚醒したからだ。
「凄いね、凛ちゃんがやっているの?」
佳也子は嬉しそうに腕の中の妹ちゃんを見る。
また唐揚げマンが光った。
これで少しは喋れないストレスが解消されるだろう。
「凛ちゃん、お兄ちゃんの瞳くんだよ。仲良くしてね。わかった?」
佳也子が妹ちゃんを抱き上げ、俺の前に持ってきた。妹ちゃんと目が合う。
唐揚げマンが眩しく光った。
お読みいただき、ありがとうございます。
たぶん今回はすぐにネタバレしたかと思います。
少し育った妹ちゃんのお話とか書きたいのはありますが、一旦、完結にさせていただきます。
書く気力がたまったら再開します。たぶん
宣伝になりますが、
短編でラブレター配達人の魔女というものを書きました。恋愛タグですが、いつもの私の作品要素ご強いものになっています。
書くのに苦しんでほぼ徹夜で書いたので、あわせて読んでいただけると、幸いです。




