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ヴラシオの世界より~遙かなる時空の彼方に新人類はクラゲの中で揺蕩う~  作者: あかつきp dash
第十五話 黄昏より入り、夜明けより出ずる国
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■最後の出撃

 アークリフに属するオウエルという水母はその国境あたりを漂っている。皇家の人間はここで自らの最期を全うすると言われている。


「陛下がまだ来るような場所ではないでしょう?」

「うむ。だが、今日はぜひそなたに見せたいものがあってな」


 オウエルには目立った施設はないはずだったが、研究施設のような建物が建てられていた。海皇がおおよそ所有権を主張できる唯一の土地ではあるが、ここまでやっていいものかレイアは首を捻る。


「そういえばヤシロがどうしてついてきたのですか?」

「交渉の結果だよ。どうしても自分を側室として迎えてほしいとせがまれたのだが――」


 コウカはそういった申し出を断り続けていた。

「何を言ったんですか?」


「自分の息子なら構わないと伝えたら、本人がぜひにと言ってきてな……」

「息子がいたんですか?」


 レイアは眉をひそめる。するとコウカはあたふたをはじめる。どうやら失言だったらしい。

「実は見てほしいものがある」

 室内へとコウカはレイアを連れていく。


 研究室のような場所、そこには培養器が二つ並んでいた。そこには赤ん坊がそれぞれ一人ずつ中で寝ている。


「この子たちは?」

「以前、話をしていただろう。この培養器にいるのがそなたと私の子だよ」


 レイアは目を大きく見開く。

「人工卵子から人工授精までやったんですか?」


「うむ。そなたの話を聞いていたからな」

「私の遺伝子をもとに卵子を人工的に作りだしたんですね。同意はしていましたけど、ここまで進んでいたなんて」


「私も聞いたのは先日のことだ。いかんせん専門的な話が多かった故な。ある程度成果が出た段階で報告してもらうことになっていた」


「それでこの子たちはどうなるんですか?」

 いつまで培養器の中にさせるのかという問いかけであった。


「きたるべき時代まで過去へ長い旅を行ってもらおうと思っているのだ」

「ここを時間庫にということですか?」


「うむ。この子たちが目を醒ますとき私はいないだろうが、ひょっとしたらそなたなら出迎えてやれるかもしれん」


「……そうかもしれません」

「これも皇家を絶やさないための試みの一つだ。これはこれで少し寂しくはあるがな」


「おつらいですね」

「君はどうだ?」


「できることならば、あなたと同じ時の中でこの子たちを育てたかったです」

「私もだよ。だから、そなたに託すのだ」


「この子たちにとってはどちらにせよ一瞬のことなのでしょうね」

「うむ。私は楽しみにしているよ」


「何がですか?」

 コウカが培養器を愛おしそうに覗く。


「また、君に会えることをだ」

 コウカはレイアのほうへ振り向いて笑顔を浮かべるのであった。


   ――◇◇◇――


 天玉照が天神に回収されてキリが無事だったことが確認された。

「レイア、君はキリのもとへ行け」


 シンクはレイアの右肩に手を置いて振り向かせる。

「……艦の指揮はどうするの?」


「この戦いが終わればもう会えなくなる。わかっているんだろう?」

「だからっていまさら……」


「立派な親である必要はないだろう。信じろ、自分と子供の絆を」

 レイアが被っている帽子をシンクは取りあげて自分で被る。


「でなければ一生後悔することになるぞ。ここは俺たちに任せろ」

 シンクはレイアの背中を優しく押す。


「……お願い」

 レイアは顔を伏せて司令室を後にする。


「通信士、艦内放送をする。回線を開け」

「了解」


 そうしてシンクが艦内へ放送をはじめるのだった。


   ――◇◇◇――


「八岐災禍を与えられておきながら役立たずめ!」

 ガレイは大いに荒れていた。八岐災禍が敗北どころか機体そのものを浄化させられたのがあまりにショックであった。


 それを聞いたヒズルが激昂した表情でガレイの胸ぐらを掴む。

「貴様、それ以上しゃべるな。いままで容認してきたやったが、先ほどの言動はさすがに余りある」


「あなたに何がわかるというのか。八岐災禍は私の切り札だったのですぞ。それをむざむざと失った者を誹ることの何が悪いというのですか」


「自身のために命を賭して戦いた末に命を失った息子にかける言葉が“役立たず”と聞かされて許せるものか。貴様、誰からが自身に尽くしてくれることを当然だと思ってはいまいな?」


「それを傲慢だとでも言うつもりですか? どう言われようが、あなたも同罪なのですぞ」

 その言葉を聞いたヒズルは胸ぐらから手を離す。


「どうやら貴様と話をしていても仕方ないようだな。いいだろう。儂はもう行く」

「もう、あなただけが頼りだ。天玉照を必ず討ち取ってください」


 それはガレイにとって懇願に近い。

「……その約束はできんな。もう会うこともないだろう。これから身の処し方を考えておくことだ」


 ――さらばだ。


 ヒズルは冷たく言い放つとその場をあとにする。

 ガレイは自身の顔が蒼白になるのを感じていた。


    ――◇◇◇――


『ケイトの港が封鎖されているためこのままでは艦が着港できない。そこで本艦はケイトの傘より侵入を試みることにする』


 シンクの艦内放送が流れる中をレイアは早足で向かっていた。。

『人機での侵入は幾度となく行われているが、戦艦級でやったのは過去に例を見ない。だが諸君ならできると確信をしている』


 レイアが繰者の待機室に入るとそこにはキリがいた。

『これより本艦はケイトヘ突撃する!』


 キリはレイアがいることに驚いているようだった。艦長は司令室にいるのではないかという表情だ。


「シンクに暇をもらってきたの」

 キリは立ちあがる。もう全身を巻いていた包帯は消失して半身は炎に焼かれて痣のようになっていた。


「あなたとカスミが目覚めたときに会いに行かなかった。自分にはその資格がないって思っていたから」


 どうしてに理由はなかった。時間などいくらでも作れたはずだった。それをしなかったのは自分に会う勇気がなかったからだ。


「大きくなったら抱っこできないってわかったはずなんだけどね」

 それで今日まで来てしまった。


「ルディたちが俺に命を繋いでくれたのが正しかったのかわからない。俺はこうしていてよかったんだろうか?」


「それを知りたければ生きなさい。意味は見出すものでしょう。後世に彼らの生き様を伝えることよ。そうすれば必ず答えが返ってくるわ」


 レイアは少し目をつむったあとに微笑む。

「世代を重ねるのは素敵なことなのよ。だから人間は不老不死を選択せず、こうして世代を重ねて生きている」


 ――だから生きなければならない、と。それは呪いのようでもあった。

 キリは眼帯を外してレイアに差しだす。その瞳は相変わらず黒が蠢いているままだ。もう片方の目は金色である。


「……母さん、これはもう俺には必要ないんだ。でも、いままで俺を助けてくれた。だから、あなたに持っていてほしい」


レイアは無言で受け取ると一瞬俯いて、それから顔をあげて小さく頷いた。

「行ってくるよ」


 キリは背を向けて格納庫へ向かう。扉が閉められて、待機室にはレイアしかいない。彼に声がもう届かない、そうなってからレイアは口を動かしはじめる。


「行ってらっしゃい」


    ――◇◇◇――


 天玉照は金色にまばゆく輝いている。一方で姿はもはや固定されており武装も取りつけられていた。

 リーバに乗りこみ機体に接続されると通信が入る。


 最初はヤシロだった。

『キリ、別状ないようで安心したよ』

「そっちは大丈夫なのか?」


『おかげでね。黒い炎の呪いも解呪されたよ。君と同じように痣は残ったけどね』

 それからユミリ、リルハ、カリンと短いながら話す。


『キリは死んじゃダメだよ』

 名残惜しいのだろうが、間もなく出撃の時間を迎えようとしていた。リルハは念押すような口ぶりであった。


 四人が真偽を問うような瞳を向けてくる。そんな四人にキリは微笑を浮かべて頷く。すると通信が終わってシンクに切り替わる。


『間もなくハッチが開くぞ。そうしたら落下しながらの出撃になる。天玉照の武装は専用にチューニングされたものだ。お前なら扱いこなせるはずだ。存分にやるといい』

「ありがとう副長」


 艦のハッチが開く。

「シキジョウ・キリは天玉照で出撃します」


 天神は港へ向かってゆっくり落下する途中で天玉照は背中から落下をはじめる。

 キリはおでこに二本の指を立てて離して敬礼のような仕草をとる。それに天玉照も連動した動作を見せる。


「着地地点から熱源を確認」

 ポリムが敵機が攻撃を仕掛けてきていると報告してくる。


「了解。束ね撃ちでいく」

「了解。香具山を射出シークエンスに移行」


 香具山(カグヤマ)とは天玉照専用の弓である。矢筒にある三本の矢を天玉照は掴み、天上へ向けて一斉に射出される。


「下方より砲撃がくるよ」

 天玉照を振り向かせながら細石(サザレイシ)――盾を前面に構えて、さらにその裏面に畳んであったマントを取りだして広げて砲撃を受け止める。


    ――◇◇◇――


「直撃だ!」

 八卦衆が一人チジュウが首を取ったとばかり叫ぶ。放たれた高圧熱線は広がったマントをたちまち蒸発させる。すると黒い蒸気が発生して周囲に広がり大地へ降り注がれる。


「待て! これでは視界が遮られる」

 スイキが弓矢を構えながら周囲へ注意を促す。


 ガキッという金属が突き刺さったような音が響く。それから風が巻きあがり、周囲の霧が晴れる。

 

 すると盾の先端が頭上から奥深くまで突き刺さって動作しなくなったチジュウの姿――その上に乗っかっている天玉照の姿があった。


「おのれ――」

 スイキが弓矢を放とうとした瞬間に胴から矢に射貫かれる。それからライゴウとフウキが続けて死角から飛んできた矢に貫かれる。


「一瞬で三機がやられただと?」

 テンガクが驚愕する。


「うおおおっ!」

 サワオクがハンマーを振りかぶりながら天玉照へ向かっていく。その背後にはカホウがドリルを構えて挟み撃ちを仕掛ける。


 対する天玉照は渓――短剣をカホウの脚へ投げつけて突き刺す。するとカホウはバランスを崩して前へ倒れこむ。


 サワオクは間合いを詰めるとハンマーを振りおろす。それを天玉照は香具山で受け流しつつ懐へより踏みこむ。その際に香具山は損壊するも、腰から白焔(シロホムラ)――光振刀を抜刀して突き刺すとサワオクは機能を停止する。


 さらに間隙を突く形で斧を振りまわすサンロが向かってくる。天玉照は白焔を手放して後ろに下がる。そのついでにもう一本あった白焔を抜いて身動きをとれないカホウの背中に突き刺してトドメを刺す。


 斧の刃が天玉照の頭上を捉える。対して天玉照は体を反らして躱して、そのまま前方へ踏みこみ刃を横一文字にめり込ませて振り抜く。

 

 その振り抜いた光振刀をテンガクが弾き飛ばして、さらに地面に落ちた瞬間に刃を破壊する。


「これであなたの武器はすべてなくなりました」

 テンガクが剣を構えながら淡々と伝える。


「……どうしてそう思う?」

 天玉照を通してキリが問いかけながら、天玉照は右腕を上方へあげて振りおろす。


 すると上空に何かが煌めいてテンガクの頭上を小さな刃が貫く。

「ありがとう、ケイカ……」

 

 突き刺さった渓はテンガクにとって致命傷となった。

あと2話くらいになるかなというところです。もうしばらくお付き合いください。

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